第117話 エージェントの疑問
暗闇の中、森の中を進むことかれこれ1時間。
北の国の兵士たちが攻め立てた中央門からは防壁沿いに10キロメートルも離れた森の中。
このあたりの森には道などなく人間が分け入れる場所ではない。
それはつまり普通の人間がいるはずのない場所だということだ。
空を飛べる黒魔導士を除いて。
東のエージェント。
コードネーム・スティは部下二人を連れて潜入ミッションを行っている。
西の王国を監視していたアジトをキルリス師団長に吹き飛ばされてから、彼には新たに西の情報収集がミッションとして課せられていた。
これまでは勝手知ったる王国の事情通であったはずなのに、最近はどうにも王国の動きがおかしい。
他国へと攻めこむ気配は見えないが新しい力の噂が東へと届けられている。
キルリス一家にまつわる話ばかりだ。
元々王国で一番の魔法使いであり国王からも深く信頼されている当主キルリス・ベッシリーニ。
その妻でありS級冒険者のマーサ・ベッシリーニ。
すぐれた才覚で研究所長も兼務するA級魔導士キャサリン・ベッシリーニ。
才能が溢れすぎている一家であってこの一家を知らない諜報員はいない。
さらにそこに現れた旧態貴族エストラント家侯爵の令息ユーリ・エストラント。
まだ魔法学園の生徒であるが、客員教授として授業を行うキャサリン・ベッシリーニと婚約をしてしまう。今ではベッシリーニ家の一員になっている。
きな臭くなったのはこの辺りからだ。
探りを入れればいれるほど、ユーリ・エストラントに関しては不可解な情報が飛び出してくる。
魔法学院の小生意気な貴族の子供たちを制圧した、などという可愛い話が流れるくらいはよかった。ただのガキ大将の話だ。
しかし噂では第二王女の危機を救い、暗殺者を制圧し、ガイゼル王国軍総司令を圧倒し、国王から伝説の武具を下賜された、など。まるで英雄の誕生だ。
キャサリン・ベッシリーニとの婚約の儀には女王まで参列したとか。
噂話では、東がけしかけた貴族たちが手配した暗殺者たちすらこの子供が退けたことになっている。
さらに『沈黙の契約』を破ったという話まで出ているが、あり得ない話だ。
その後のタイミングで、こちらの手のひらでうまく踊っていたはずのハイラント公爵の言動が怪しくなってきた。
金儲けの話にはいくらでも乗って来るくせに、王族やベッシリーニ一家、軍や師団の話になるととたんに歯切れが悪くなる。
碌な回答をしない、こちらの話にはうわの空であり、どんなに憎悪を焚きつけようともどこ吹く風だ。
こちらが操ろうとすると頭の中で思考が止まってしまい拒絶されているようだ。
王国は何を考えているのか?
ユーリ・エストラントの噂話を流して何があるのか。
最強の王国にさらに英雄が誕生したと世界中に知らしめるなら。
王国が狙うのは世界の覇権なのか?
この謎をとくために、北からの大規模攻勢をしかけさせたのだ。
とにかく西のピンチを演出させること。
正直言えば北と西がどうなろうとしったことではない。
北が西を占領しようと、北と西で戦争状態になろうとも。それぞれが消耗すれば東にとってはメリットしかない。
ピンチに際して西がどう動くのか重要だ。
どんな隠された力があるのか?
そもそもそんなものはないのか?
北の王国に10年も潜伏している潜入員を使い、闇魔術の洗脳を使い西の脅威を焼き付けた。
今動かなければ西に飲み込まれる恐怖を強硬派の貴族にあおった。
結果、それなりの規模の軍勢で、西のアキレス腱タペストリー侯爵領への派兵を進めたのであるから作戦は想定通りに進んだといえた。
かの領地は他国との防衛線もひかれており産業も活発な地だ。つまり王国としては放棄できない地。
それでいながら王都からも最寄りの街からも距離がある辺境。
領主のタペストリー侯爵を筆頭に一丸となった防衛線は鉄壁ではあるが、いかんせん常駐している兵の数は限られる。さらに兵は強者であっても防衛線が長すぎる。
北の優位を予測していたが、しかし最強の王国が北を退けるのも予想される範囲。
だが退け方は想定外だった。
王国が北を退けるためにはいかに早く援軍を呼び寄せるか、そして援軍がくるまでに時間をかせぐかだ。
随分と粛清されているが残る虎の子の諜報員を吐き出して行った情報操作。
王国の大魔導士キルリスであっても二日はかかる距離、近くに大規模魔法を使える世界規模の魔導士がいないことも確認済。
それなのに。
あれは、なんだ?
大きな雲が渦をまく暗闇のなか、炎と稲妻の竜を背に光らせた神のごときシルエット。
あれは神ではない。
様々な感情の増幅、幻覚、幻聴、幻視・・・・東の帝国をおさめる闇の4賢人など比ではない大規模闇魔術のオンパレード。
対象一人にかけることすら難しい複合魔術を、2万にも及ぶ北の軍勢全員にかけまくっていた。
人間による闇魔法の限界はレベル99ではないのか?
あれはレベル99の闇魔法使いにはできない所業。
つまり神と名乗るあの男はレベル200?300?500?想像もつかないレベルにいるということだ。
人間を超える存在。
神ではない。
しかし、神へ至ろうとする偉大なる存在。
人だけでなく、魔獣からも、魔人からも、悪魔からも、抜きんでた才能と神から与えられた祝福を手に、将来の神として修行を積む存在。
オーバー・スペックと呼ばれる存在だ。
存在自体が人間からすれば神でしかない。
人間の枠にとどまる自分たちをはるかに凌駕した存在。
人の世界にいるはずの存在。
命を賭しても事実であるか確かめなければならない。
北の軍勢をはじき返し、いつまでも後ろからせまってきた巨大竜巻は幻ではなかった。
竜巻が通ったあとに森がきれいさっぱり消えて更地になってしまったことでも明らかだし、吹き飛ばされて重傷をおった北の兵士たちをみても明らかだった。
王国一といわれるキルリスがもうひとりいればできるのか?そもそも何人集まろうと人間にあんなことができるのか?
北の国の兵士たちが攻め立てた中央門からは防壁沿いに10キロメートルも離れた森の中。
このあたりの森には道などなく人間が分け入れる場所ではない。
それはつまり普通の人間がいるはずのない場所だということだ。
空を飛べる黒魔導士を除いて。
王国は何を考えているのか?
ユーリ・エストラントの噂話を流して何があるのか。
最強の王国にさらに英雄が誕生したと世界中に知らしめるなら。
王国が狙うのは世界の覇権なのか
この謎をとくために、北からの大規模攻勢をしかけさせたのだ。
とにかく西のピンチを演出させること。
正直言えば北と西がどうなろうとしったことではない。
北が西を占領しようと、北と西で戦争状態になろうとも。それぞれが消耗すれば東にとってはメリットしかない。
ピンチに際して西がどう動くのか重要だ。
どんな隠された力があるのか?
そもそもそんなものはないのか?
北の王国に10年も潜伏している潜入員を使い、闇魔術の洗脳を使い西の脅威を焼き付けた。
今動かなければ西に飲み込まれる恐怖を強硬派の貴族にあおった。
かの領地は他国との防衛線もひかれており産業も活発な地だ。つまり王国としては放棄できない地。
それでいながら王都からも最寄りの街からも距離がある辺境。
領主のタペストリー侯爵を筆頭に一丸となった防衛線は鉄壁ではあるが、いかんせん常駐している兵の数は限られる。さらに兵は強者であっても防衛線が長すぎる。
天然の自然の要塞、といえば恰好がつくが、そういう時代は終わりつつあるのだ。
なぜなら闇魔法使いは地面に左右されない。
空さえあればたどり着く。
北の優位を予測していたが、しかし最強の王国が北を退けるのも予想される範囲。
だが退け方は想定外だった。
あれは、なんだ?
大きな雲が渦をまく暗闇のなか、炎と稲妻の竜を背に光らせた神のごときシルエット。
あれは神ではない。
様々な感情の増幅、幻覚、幻聴、幻視・・・・東の帝国をおさめる闇の4賢人など比ではない大規模闇魔術のオンパレード。
対象一人にかけることすら難しい複合魔術を、2万にも及ぶ北の軍勢全員にかけまくっていたのだ。
事実を知っているのは彼一人。
闇魔術では世界二十指にはいる彼ですらあやうく膝をついて空へと祈りを捧げるところだったのだから。
人間による闇魔法の限界はレベル99ではないのか?
あれはレベル99の闇魔法使いにはできない所業。
つまり神と名乗るあの男はレベル200?300?500?想像もつかないレベルにいるということだ。
人間を超える存在。
神ではない。
しかし、神へ至ろうとする偉大なる存在。
人だけでなく、魔獣からも、魔人からも、悪魔からも、抜きんでた才能と神から与えられた祝福を手に、将来の神として修行を積む存在。
オーバー・スペックと呼ばれる存在だ。
存在自体が人間からすれば神でしかない。
人間の枠にとどまる自分たちをはるかに凌駕した存在。
人の世界にいるはずの存在。
命を賭しても事実であるか確かめなければならない。
事実か夢もわからない存在に想いを馳せながら精鋭2名と潜入を試みる。
どのみち事実の確認が必要であり、これがまやかしならタネあかしが必要だ。
カラクリだと思いたい。しかし状況はあまりにそれを否定する。
西があそこまでの大規模魔術を実現できた方法が説明できないのだから。
北の軍勢をはじき返し、いつまでも後ろからせまってきた巨大竜巻は幻ではなかった。
竜巻が通ったあとに森がきれいさっぱり消えて更地になってしまったことでも明らかだし、巻き込まれて吹き飛ばされて重傷をおった北の兵士たちをみても明らかだった。
彼らの潜入ミッションは単純だ。
現在タペストリー砦に誰がいるのかハッキリさせること。
暗殺を試みて失敗するのは絶対にあってはならない。とにかく情報を持ち帰らねば。
このままでは神が西の王国を守護していることになってしまう。
あんな神の所業のミッションを成し遂げられるのなら、それが神でなく魔法使いだとしても自分達が手出しできるレベルではない。
闇魔法レベルが70を超えているスティですら確証がもてないでいる。
まずはさぐること。
森の中、黒装束に身を包んだエージェント三人は、足音ひとつたてずに進んでいく。
歩いているように見せて最低限の魔力で浮いており、足跡ひとつ残すことはない。
痕跡を残すようでは暗殺者失格だ。
しかし。
森の奥深く敵の領地へ潜入が間近になってスティはふと気づく。
気付いてしまった。
普段は考えもしない可能性に。
もし本当に神に近いような存在が西の王国にいるとするならば。自分たちのミッションは察知されてしまうことに。
そう、言葉では可能性を考えながらも現実として警戒はしていなかったことに。
そもそも今回のミッションは「そんな存在はいない」という前提だ。
キルリスクラスが複数人いてもこのタイミングとこの距離で気づかれるはずはない。
魔力のかすかなユレを感じたとしても、小さな魔獣である一本角ラビットくらいにしか感じられない。そこまで偽装するのが東の帝国の常識だからだ。それはまた闇魔術に特化している東だからこそ持てる常識だ。
魔力感知によほど優れた術者が感知できても、ウサギが3匹森の中にいるとしか感知できない。
西の砦が監視しているのとは反対側の人が分け入ることができない森の中でもある。誰が注目するだろうか。
ガツリッッッ!
首の後ろをいきなり掴まれた!スティが気づいた瞬間には、パリンと澄み切ったガラスが割れるような音が頭の中を響き渡る。
東のエージェント闇魔導士レベル70超えのスティ。
声のひとつを上げる間もなく意識はあっけなく闇に沈んだ。