第116話 東の侵入
夜になった。
キャサリンはなんとなく闇魔法の理、今この世界を覆う神の理をグニャリすることがわかってきたみたい。
やってみようとするキャサリンの魔力にはほんの少し闇魔法の色が出始めた。
1日でこれって俺のキャサリンってば天才?
部屋に戻るとぶっ倒れるように横で眠りこんでしまった。
あらあらお腹出したら風邪ひくでしょう?
北国の夜は寒いんだから。
キャサリンに気付かれないようにそっと毛布をかける。
かわいいお腹をポンポンする。
顔には疲労とやりきった感の満足げな笑みが浮かんでるから。ほんと魔法が好きなんだなぁ、と思う。
さあ俺の出番だ。
明日には援軍が到着する。
もう北の軍隊が攻めてくるとは思えない。だからこそ今晩動きがあるはずだ。
後ろで東が糸を引いているなら絶対気になっているハズだ。
あの現象のことを。
諜報活動がおさかんな東の諜報員だから北の軍隊にも紛れ込んでいたに違いない。
魔法使いがチェックしている王国ですら紛れ込んでるんだから、北なんて潜入し放題だろうし。
まだ朝には程遠い深夜。
北の兵士たちが撤収していったのとは反対方向の国境線、ここからは10キロも離れてる森の中でかすかな魔導反応が3つ揺れている。
深い森にも防壁が設置してあるタペストリー領だけど、そんなのはただ国交線を示しているだけだし守る兵士もいない。
道もない森では見方も敵も進軍できないのだから。
「闇魔法使いなら何とでもするだろうなあ。間違いない東のエージェントだ」
キャサリンを起こさないように部屋を抜け出して。キルリスがいる作戦会議室に顔を出す。
夜中だから兵士の皆さんはソファや床で寝てたり、椅子にすわったまま机に突っ伏していたり。
タペストリー侯爵とキルリスも腕を組んで仮眠でもしてる様子だ。
そう思って扉を閉じようようとするとキルリスには気付かれてしまう。
「どうした?なにか気になることでもあるのか?」
どうしようかな。
今回の俺は軍部に帯同させてもらっているわけだし、師団長にいいから気にすんなってのも不味いだろう。一応耳にだけいれとくべきだよな。
「西方向10キロの防壁近辺に怪しい人影が3つだな。ちょっと見てくる」
「おい一人でか?何者なんだ?」
「さあな?俺は東のエージェントじゃねーかって思ってるけど」
何のこともないと言ったつもりなんだけど。キルリスの顔がいっきに引き締まる。
今夜は北の動きがないと油断していたことに気付いたようだ。
「だめだだめだ、行くなら俺も行くぞ?いざって時にひとりじゃ回避できないからな」
「いやちょっと待てって。森のど真ん中だから歩いていけねえし相手もそれを計算してポイントを選んでるから。おまえ飛べないじゃない?それに疲れてんだろ?俺にまかせて寝てろってば」
キルリスはあきれた顔で俺を見やがる。
そのの顔見ればお疲れだってわかるって。
「そう言うけどな?知ってしまったら無理なんだよ大人は。いいだろおまえがまた俺を浮かしてくれれば」
いやいやいや。
確かにキルリスひとり分を浮かすなんて魔力的にも手間的にもぜんぜん問題ないんだけど。
求道者たる魔導士が他人に頼る前提でいいのか?
あんた王国一の魔導士のハズなんだけど?
「魔法使いの矜持とか独立性とか?他人の魔力使って申し訳ないとか?そういうのアンタにはないの?」
「ユーリ以外にはあるぞ?あれだけ神様的な感じでやられちゃそんなこと気にするのがアホらしいからな。いいから行くぞもう迫ってんだろ?」
あきれてモノも言えんよホント。
やりあうだけムダってのよくわかった。あーいえばこー言いやがるし時間もない。
しょうがねえなあ、と二人で腰をあげかけたところで他にも動く気配。
あちゃあ。
「あら?そういうことならワタシも連れていってもらえるかしら?自分の身くらいは守れるわよ?」
タペストリー侯爵が目を覚ましてしまった。
眼力強いのでじっと見ないでもらえますか?
「あのですね?さすがに侯爵領のトップになにかあるとダメなんで。つまりはここで待っててもらえないでしょうか?」
「なにいってるのキルリス師団長は一緒に行くのでしょう?田舎の侯爵の代わりなんていくらでもいるけど師団長の代わりなんていないのよぉ?だから私も行くのに問題無いわね?」
おい?
さんだんろんぽー?
これだから頭のいい大人は手に負えない。
こういうの詭弁とかいうんじゃねーのか?
キルリスの方を向くと完全にワレかんせずでソッポを向いている。おまえの担当だろうこのヒトは。
「なあおい大人何とかしろさすがにもう時間は余裕ねえぞ?入ってこられる前に捕まえねえとやっかいだ」
コショっとキルリスに言ったのが当然聞こえたんだろう、侯爵は革製のリュックを肩に下げてニヤリとわらった。
「そうね時間ないわ。いきましょう?」




