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第115話 空を飛びたい!

翌日。

今日も快晴だ。

タペストリー領に敵影なし。


斥候の人たちも見張り台の上で警戒を続けている。

俺が手を振るとみんな笑顔で振り返してくれた。


スッキリ遮るものナシだから見張りもしやすいだろう。斥候の人にも余裕がある。

数キロ先までただの平原となっており、もう敵が隠れて近寄ってくることなんてできないのだから。

俺の魔法感知でも敵は最寄りの街へ退却してから動いていない。

今頃は巨大竜巻に巻き込まれた負傷者たちの治療と対応で大わらわで違いない。


見張り台では兵士たちに交じってキルリスとタペストリー侯爵が打ち合わせしてる。侯爵は近づくな危険の人だから俺達は上がらなくていいよな?


「ねえねえユーリィ、さっそく頼むよお教えてくれよお。空を飛べるようになりたいんだよお。飛びたいんだよお。飛びたい!飛びたい!」


キャサリンさんがダダっこのように俺の腕を振り回す。


うーん。


キャサリンも魔法使いとしてはめちゃくちゃ優秀で、王国でも十本の指に入るほどの腕前だ。

A級魔導士だから、俺やキルリスやジョバンみたいなワールドクラスの『ケタはずれ』を除いてしまえばトップのあたり。つまり一流の魔法使い。

レベルも元素全般バランスよくて30台後半~40台でまとまっている。


それでも闇魔術の基準となるレベル50台まで至ってない。

もちょっと頑張れば闇魔法を使えるようになるかもしれないけども。どうだろう?

正直今のままでも飛ぶくらいなら訓練次第でできそうな気もするけど。


『飛翔に特化するならばこの女でも問題ないでしょう』


神の御使い様が出たな?

でもレベルがもうちょいだと思うんだよなあ。


『飛翔を使用するには風のレベルは必須です。他にもこの天体に影響する全ての要素を理解している必要がありますから、通常の魔法使いであれば元素のレベリングが必須になります。ですが結局レベルは"わかっているかどうかの指標"でしかないので、レベルに関係なく"わかっていれば"いいだけです』


「ん?また難しいことを言い始めたな?わかってるからレベルがあがるんだろ?」


『レベルとはその魔法使いが使える魔法と魔力量を総合的に判断したものです。高度な魔法は世界の理をより深く知らなければ使えませんから、レベルが高ければ高い程に世界の理をわかっていると言えます」


「だから何が言いたいかわかんねーな、結局レベルが高くなきゃダメっつーことだろ?」


『レベルが高ければ魔法の理を深く理解していることに間違いありませんが、レベルが高いことが必須ではないということです。核激魔法を放つことができるレベルは必須ですが、あと必要なのは世界の理への深い造形、そして使いたい魔法を感覚で理解することです。あなたが連れて飛翔していますからこの女はすべて満たしているのでは?そういう意味で何とかなるのではというコトです』


「じゃあレベル50ってなんなんだよ?あと必要な元素って」


『その回答を今しましたよね?なんでわかんないんですか?少しはマシになったかと思ってましたけどやっぱり〇カなんですね?』


最近は随分とおとなしくなった気がしてたけど。

それは俺がコイツから教わることが少なくなっただけで、教わればいつも通りらしい。


「理屈っぽいヤツめ。要はレベルはかんけーねーけど、でもそのレベルになれるくらいわかってなきゃダメだってことでいいんだろ?」


『あなたが本当の意味でわかっているのか微妙ですね。以前にも言いましたがレベルというのはただのモノサシですよ。同じレベル50の魔法使いでも理解は異なりますし使える魔法も異なります。あとは適性や自分で探求してきた世界の理によるだけ、あとはあなた次第です』


「俺次第?ってなに?」

教え方とかそういう話?

俺ってアナタノオカゲデわからないっていう感覚がわかんねーんだけど。


『あなたが教えるのでしょう?ひとつだけ助言をすると、レベルがいくつだからできるとかできないとか、そういう話をあの女にするのはやめた方がいいでしょうね。「レベルが達していないからできない」と思い込んでしまえば絶対に使えませんよ魔法は心を反映しますから』


「やってみなきゃわかんねえこともいっぱいだが、やらなきゃなんねえことはわかった気がする」


『では検討を祈りますよ。私からすればその女が飛べようが飛べまいがどっちでもいいことですから』


「相変わらず冷てーヤツだ。いつか俺もやりかえしてやるっ!」


そうだ。

いつかのように殴りかかるとかじゃなくって。

出来るコイツに一泡ふかせてやるっての面白いな!


『何を?どうやって??フフフフ、楽しみにしておきましょう』


わ、笑った!!


え?

どういうこと??

神の御使いが、ナビゲーターが笑った!?


しかしもう返事はない。


「じゃあやってみる?」

ブンブン俺のうでを振り回しているキャサリンに問いかけると。


「え?いいの?ねえ、ほんと??」

めっちゃ嬉しそうだ。


「そうだよ、その代わりスパルタだから覚悟して?」


「任せてよユーリがSでボクがMってことだね?SとMは引き合うから大丈夫だよ!!」


うん?

たまにキャサリンの飛躍についていけてないのは気のせいか?

何が大丈夫なのか理解できていないけど、でもやっぱりキャサリンと俺なら大丈夫だ。




皆が門の向こうで敵がやって来ないかを見張ってるなか、俺とキャサリンは二人で少し広くなった場所にやってきた。魔力感知はもうデフォルトで動いてるから見逃してください。


「キャサリンは重さ、とか重力とかわかるよね?」

「何いってんだい、ボクはユーリの魔法科学の先生だよそんなのオチャノコだよ!なんてのはダメだね?この星から引かれる力かな?」

「正解だよキャサリン、もちろんそれだけじゃないのもわかってんでしょ、今はその考え方でいいんだよ!」


キャサリンの両脇に腕を差し込んで抱え上げキャッキャ、キャッキャと振り回す。


「うんボクもそう思ってた!やっぱりなかなかやるよねボクも!もう空を飛んでるも同然だよね!」

「そうだよ?もう飛んでるのも同じだよ、やっぱりキャサリンはすごいや!」

「やっぱり?やっぱりそう思う?実はボクもちょっとだけそう思ってた!でもそれはユーリの教え方がいいからだよ!!」


キャハハハハ・・・


ウフフフフ・・・・


まだ何もすすんでいないのに達成感と笑い声で広場が満たされた。


タペストリー領にお花畑が咲いたのである。


なんだろうコレは?




気を取り直した二人。


確かにレベルがあがった方が理解しやすいのは違いない。いろんなことを魔法を憶えて使いながら体で理解しているのだから。

でもキャサリンには大きな武器が二つもある。

ひとつは学者としてこれまで魔法を研究して蓄積してきた魔法自然学への理解。

そしてもうひとつはガールスバーグから受け継がれた神の瞳だ。


俺はキャサリンの目の前で石ころをひとつ拾い上げると手のひらに載せる。

「キャサリン神の瞳を使って見ていて?この石の重さっていう地面に向く力が発生しているから力の向きに意識して?」


キャサリンの瞳が金色に輝くけれども。その表情はどうすりゃいいのと困った顔だ。


「ユーリってば予想通りスパルタだねっ?人間って意識してないモノは見えないようになってるのがわかるよ。見えなくてイメージがわかないものってどうやれば視えるのだろうね?」

「はいキャサリンさんわかってますねいい質問です。えっと、目には見えないんだけど、感じるっつーか、見えるというか。石が下に向かいたがって揺らいでるっつーか。じゃあさ?」


俺は同じ大きさで軽い石と鉄の塊を左右に持ってみた。

「この二つを見比べてみて?どっちが下に向かいたがってる?」

「それを支えているユーリの腕が・・・鉄の塊を持ってる方がプルプル震えてるし・・・」

「くうっナイス観察眼だね!じゃあこれでどうだろう?」


机の上に置いてみる。

「比べると確かに鉄の塊の方が、こう、ぐいっと地面に引き寄せられてるような、見た目は何が違うかって感じだけどなんか引き寄せられてるように感じるね」


「いいね、いいね、それだよそれ!正解だよキャサリンそれでいいんだよ!」

「うんボクもそう思ってた!やっぱりなかなかやるよねボクも、もう空を飛んでるも同然だよね!」

「そうだよもう飛んでるも同じだよ?やっぱりキャサリンはすごいや!」

「やっぱり?やっぱりそう思う?実はボクもちょっとだけそう思ってた!でもそれはユーリの教え方がいいからだよ!!」


キャハハハハ・・・


ウフフフフ・・・・


ほんのわずかな最初の一歩が1ミリすすんだだけなのに、達成感と笑い声で満たされているのである。


タペストリー領にまたお花畑が咲いたのであった。




「じゃあ今度は、鉄の塊の方だけに俺が反重力の闇魔法をかけるよ。どんなふうになるのか、どういう力が加わっていくのかを見ててね?」


「う、うん。いよいよだね」

ゴクリ、とキャサリンが唾を飲み込む音がした。


「そうだよイヨイヨだよ。じゃあいくよ?」


<反重力>


今となってはたかが数キロの重さをイジるのに力の顕現を使うことはない。

自分で飛ぶのだってそうだしドラゴンだろうが重さを関係なく吹っ飛ばせる。


ゆっくりジンワリと鉄の塊の重さを反転させていく。


「どう?」


金色に輝く瞳で凝視するキャサリン。

なんなら頭から煙がブスブスと・・・あれちょっとまずいかも?


「うん、へんっ!すっごくへんな感じっ。決まってることが決まって無くなっていく感じ・・・なんだかグニョリって流れが?アレちょっと待って結構限界かも?」


フラリフラリと腰が抜けそうになるキャサリンをあわてて抱きしめる。


「大丈夫?」


そういった俺の首根っこにキャサリンが抱き着いてきた。


「大丈夫に決まってるよ!倒れそうになったら王子様に介抱してえるなんて、どんなご褒美なんだいこの修行は!」


「こんなご褒美」


ブチュリ。頑張ってるキャサリンにご褒美のキッチュ。


「ご褒美が過ぎる。いくらでも頑張れる。さあ続きをやるよボクは!」


すぐに立ち上がろうとするキャサリンをやさしく抱きしめる。

いいからいいから。


「ほんとキャサリンったら頑張り屋さんなんだから」


「教え方がうまいからねっ。もうユーリったらなんでもできるんだから」


「なにいってんの、それはキャサリンがいい生徒だから」

「そんなことないってユーリがいい先生だから」

「そんなことないって」

「そんなことないよお」


キャハハハハ・・・


ウフフフフ・・・・


このままではタペストリー領はお花畑に埋め尽くされそうであった。

まさにお花畑のタペストリー。



イチャイチャ?


来週は夏休みお盆週 今日から毎日更新しますので、旅行先や帰省先で時間が空いた際にでもぜひ

更新定期の月・水・土はいつもの0:10頃、それ以外は1日のどこかで?アップします

月曜が定期なので18日の朝まで10日連続お楽しみいただければ すこしづつタイトルに寄っていく流れです

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