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第114話 辺境に輝く月の下で

その夜。


タペストリー領の兵士たちは軽くふるまわれた酒樽に生き残ったことを喜び合った。もちろん深酒することなく警戒は続いている。

明日まで持ちこたえれば明後日には最初の増援1万がくる。警戒を解くことはないが、気を張りすぎない気を緩めすぎない。加減がわかるのは歴戦の積み重ねだ。


俺とキャサリンは二人でお部屋を割り当ててもらいノンビリ休ませてもらっている。

なにせ深い森だった敵の進撃ルートはきれいさっぱり更地になっているから見晴らしもいい。夜襲も不意打ちもできようはずがない。


魔力感知を超長距離までのばして様子を探っても同じだ。

敵兵たちは竜巻に追われながら80キロ先の北の街に逃げこんだ。まだ撤収してる最中のヤツラもいる。


俺とキャサリンの軍人としての役目は終了。


今すぐにでも敵の軍団が反転して攻撃してきてもキルリスが遮蔽物のないこの広っぱ一体に極大魔法を打ち込むだけだ。

あとは俺の読みがあたるのかどうなるか。何も無ければそれでいい。



キャサリンと二人で手をつないでテラスに出て夜空を見上げる。


雲一つないきれいな夜空はこのあたりの雲を俺が今日の魔術でかき集めてしまったから。

三日月が俺達をやさしく照らしてくれる。


「月の光が心を落ち着かせてくれるのはなぜだろう?」

「キミを治療する際に月の女神様の御力を借りたからね。月の癒しを司る精霊一族も月の力を借りてたし」

「そうか月には女神様がいるんだ?救っていただいてありがとうございました」


俺は両手を合わせて月光にお礼をいった。

月の光は冷ややかで他を寄せ付けなくて、でも優しかった。


「ボクも少しはこの世界の魔法の理を知ったつもりでいたけど。この世界からすればヒヨッコにもなれてないってことに気付かされたよ」

「そう?キャサリンは十分いろいろ知ってると思うけど」


落ち込んでるの?

キャサリンは俺の腕にぶらさがるようにつかまってブルブルと頭をふった。


「天上の神様の御業に触れることなんて、ちっぽけな自分の人生で一度も出会うことないだろうって思ってた」


何をもって神さんの奇蹟というかはわかんねえけど。

近づけば近づくほど遥か遠くにあることを実感する。

あのお月様のように。


「でもボクの知らないところで神様の足元へたどり着こうとしている存在がいて。ボクより遥かにいろんなことができるのにそれでもできないことが多くて、必死になって神様の領域に手を伸ばしてるんだ」


神様に。

なろうとする存在。


俺にとっては不思議な存在だ。

神様ってなりたいものなのかな?


「ギンさんとか?」


「ギンさんもそうだけもユーリもだよ!ボクからしたらユーリがやってるのは神様の御業なんだよ?でもユーリからしたらそんなことないって言うんでしょう?」


「そりゃあそうだよ。キャサリンもそのうち出来るようになるかもよ?規模が大きかっただけでキルリスなら似たようなことはできるのじゃないかな?」


「そうかもしれない、できないかもしれない。でもユーリはきっともっともっと先をいくんだよ。この世界の神様みたいな所業を成していくんだよ、間違いないよ!」


キャサリンに自信満々に断言されると、そうなのかな?とか思ってしまう。

でもきっと俺がどう思おうと周りからみればそう見えてるのだと思う。

そんなこと望んでないんだけど。

だって俺は。


「なんだかわかんねーけど。でも俺はキャサリンと」


いったん区切って。キャサリンを引き寄せてチュッと唇をあわせた。


「キャサリンとのんびり幸せに暮らせればそれでいいんだ」


神様になってるヒマなんてないよ。

だって俺はやっと。

毎日にぽかぽかあったかい気持ちを感じられるところまで来れたのだから。

キャサリンのおかげだよ。


「ボクもだよ?だけどキミは勝手に体が動いちゃうでしょ?おじいちゃんもそうだったし」


当たり前のように決まっていることのように教えてくれる。

確かにそうなんだけど、でもその度にこんなヤラカシ魔法を使うつもりじゃないのだけど。


「だからね?ボクも。もっともっと・・・」


言葉がフェイドアウトしていった。

キャサリンを見ると遠くを見つめるその瞳はお月様のようにどこか哀し気・・・




ではなく熱く燃えていた。

キャサリンさんがテラスを握りしめる手にガシリと力が入った。


「あ、あの、キャサリンさん・・・?」


「ふふふ。ボクがカベだとか限界だとか考えてたものはただの通過点でしかないってことだよね!しかもめちゃくちゃ始まりで冒険ならせいぜいが初日の夜くらいの。燃えるね、燃えるよボクの魂が!!」


「え?え?え?」


「くううっ!まずはボクも飛べるようにならないと始まらないねっ?相手は世界中なんだよ!歩いてたらそれだけで人生が終わっちゃうから!さっそく今から練習しないと・・・いやっもう外が暗いっ!」


「おーーーーーーいキャサリンさーーーーーん戻っておいでーーーーーーー!」


俺の呼びかけはむなしく夜空へと消えていったのだった。



これまで書いた回の修正をポロリポロリとしてます

誤字と表現の修正ですのでストーリーに変更ありません


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