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第111話 到着!

「キャサリン見えてきたよ」


山も谷も随分と見下ろすような高高度。予定通り1時間ほど続いたはるか先に大きめの街が見えてきた。

タペストリー領だ。


「味方が防壁を守ってるはずだから大きな門にキルリスと降ろすからね?敵の目は俺が引いてみせるから。キルリスといれば大丈夫だろうから重傷者を治療してあげてね。おーーーーいっ?」


後ろをふりむいて遅れているキルリスに呼びかける。

ユーリに遅れたとはいえ、目視できる範囲で後れをとどめたのだから飛翔の初心者としては上出来だ。

1時間も風魔法を精密に操り続けて、前方からせまる突風に防壁を張り続けたのだ。肩で息をしているのは仕方がない。


キルリスは何としてでも、自分が足をひっぱって到着を遅らせる訳にはいかなかったのだ。

なんといっても今回の応援は時間との勝負だ。

その必死さがまた限界の努力を生み出し、彼の魔法力はさらに高まったのだ。


「パパ?キャサリンを預けるよ味方に合流してくれ。俺が敵さんの目を引いてるからゆっくりでも大丈夫だぞ」


「そうさせてもらうがその後は?」


「キャサリンは負傷者の治療、パパは防壁の兵士たちを援護してくれ。敵が広範囲にわたって防壁を超えようとしてるから守る人手が足りてない。俺は上空にあがるから直接的な支援はできねーし味方が押し込まれてたら助けてやってくれよ。もちろんキャサリンには指先一本触れさせずに守りつつだけど言うまでもないよな」


「お手並み拝見だ。失敗したら私が殲滅魔法でも使うとしよう」


闇魔法は初心者でもキルリスは魔導士団長でありワールドクラスの魔導士だ。

ユーリと二人で役割分担がポンポンと決まっていく。


「あのーーーなんだかボクって守られてばっかりだけど。これでもA級魔導士だからね?二人の援護くらいできるんだよ?」

キャサリンがモジモジと進言するのだけど。

そりゃあココは戦場だし二人には全然敵わない研究者だけど。

なぞという思いは顔を見れば明らかだったが、どうやら二人は取り合う気が無いらしい。


「「却下!!」」

キャサリンの発案に婚約者と父親、二人から同時にダメ出しが入った。


「ええ?だって二人になんかあったらどうすんのさ??見てるだけなんてできるわけないよ!?」


そんなキャサリンを振り返るとニヤリ悪い顔で笑うユーリ。


「まあ見てなって。それじゃあ作戦開始だ」




ひとりになったユーリは上空へと一気に飛翔すると雲を突き抜けて空を駆け上がる。地上からは豆粒より小さく見えるほど高々度の上空から戦場を俯瞰して戦況の確認。

タペストリー国境の防壁はまだ抜かれていない。だがかなりの敵兵がハシゴをかけて壁にとりついており、このままでは抜かれてしまうのは時間の問題だった。

守る側と攻める側で圧倒的な人数が違うのだ。あとからあとから押し寄せてくる軍勢。


「しかも敵は森の奥にも伏兵がふせてあるじゃないか。全体は1万どころかその倍はいるぞ?」


だけれど。

考えた通りに行えば問題はないはずだ。

さっさと終わらせて退いてもらう。


胸元のロットフォルダーからガリクソンのロットを取り出しふるう。


広範囲に散らばる敵を取りこぼさないよう。

魔力の強度をいっきに高めて放出する。

使うのは火、雷、水、風。そして闇の元素。


<力の顕現>


<火炎雲>

<轟雷雲>

<幻視>

<幻想>

<幻聴>

<幻覚>


赤い魔法陣、光る魔法陣、そして黒い魔法陣・・・いくつもの魔法陣がユーリのまわりで展開をはじめると空が暗くなり雲が立ち込めていく。


ドロンドンドンドンドン


暗くなった一帯に、怪しい銅鑼の音が響き渡る。

同時に兵士たちの心へと強い恐怖が忍び込み、慌てた兵士たちがいっせいに空を見上げた。

暗い闇のような空にうずたかく巻き上がる積乱雲。

雲の内部では瞬発的な光が白く赤く光っては消えを繰りかえす。


見上げた兵士たちの瞳にその姿が焼き付くともうだめだ。体は完全に恐怖ですくみ上り足はがたがたとを震え目から涙が流れ、そして口からは驚きと恐怖の叫びが漏れ出す。


ピカリッッッ


雷音が鳴り響き稲光が何重にも空を走る。まるでこれから起こる惨劇が開幕する合図のようであり、兵士達の恐怖はピークに達しその足を地面に縫い留める。

さらには燃え盛る炎の雲が周囲を取り巻き、まるで空が地獄を映したかのよう。


ボフォォォォッッ


炎の竜が勢いよく赤雲から飛び出し、稲妻の竜と交差して絡みあうと何度も何度も空へと駆け上がる。

次の瞬間には一気に地面まで降りてきて兵士たちの頭の上をこするように脅していく。


その様はまさに、神が悪者へと天罰を与える姿。


神が罰するならば悪者は自分たちだ。


その感情がユーリの闇魔法によって強力に増幅されて北の兵士たちの心に焼き付く。


「愚か者共めッ!!!!!!!!!!!」


突然具現した異常空間において。

たとえ耳をふさごうとも。聞かねば許さぬとばかりに巨大な声が響きわるのだった。




そんな状況を造った俺は。

はるか上空で稲光を背に浮遊しながら全体を観察していた。


兵士達からすれば、見上げた稲光の中に人型の虚像が浮かび上がっている。

神々しくも危険な荒神が雲間から怒りの表情で自分たちを見つめている像だ。


「尊き命を無下にする愚か者め、それほど死にたいなら天罰をくだしてやろうう!!」


韻々と鳴り響く神の声。

聞くだけで自分が大河の一滴であることを思い知らされる大自然への畏怖。


兵士たちはガクガクと体をふるわせると頭を抱えて跪いていく。

真っ暗な天空には、強弓たる雷光と禍々しい炎により映し出された神のシルエット。


「死にたくなくば今すぐこの場から立ちされいッ!!そうでないものは我の審判をうけるがいいッッッ!!!!!」


シルエットの俺は天空を指さし、天に向けて雷光を撃ち放つ。

小さくて見えるハズのない俺の姿は全員の脳に一瞬んで焼き付けられる。

真っ暗な空を天へと突き抜けた光線が消え去ると、その後を中心に雷雲と赤雲がおどろおどろしく渦を巻いていく。


ドロドロドロドロ

ゴウゴウゴウゴウ


まるで神からの破壊の意志を打ち鳴らすような大音響が鳴り響くと、周囲の空気がかき集められるよう渦を巻いていく。

豪風で木々は今にも引き抜かれそうに大きく揺れ、空気のすべてが圧縮されてこれから起こる巨大なタイフーンへと巻き上げられていく。


「退却ッーーー!!!急げ!!退却ッーーーーーー!!!!!」


騎馬にのった武官が叫び続ける声が響く。

退却のドラが打ち鳴らされ、腰がぬけて立てない兵士たちを周囲の兵が抱えて走る。

防壁にとりついていた兵士たちも、それどころではないと我先に退却していく。


ゴ・ゴ・ゴ・ゴ


すっかり誰もいなくなった野原から、ごうごうと大風を巻き上げる竜巻が生まれ、あたり一面の木々も、岩も丘も全てを巻き上げ天へと昇る。



ゴウウウウウウウウッッッ!!!!!!!


敵兵が隠れていた森を根こそぎ掘り起こす巨大竜巻があたりを蹂躙し、森林を更地へと変えて兵士たちをジワリジワリと追尾していくのだ。


「か、神よっ!!!お許しくださいッ!!!我らをお守りくださいっ!!!!!」


逃げる兵士たちは立ち止まることも許されず我先にと退却していく。

後ろに迫る黒く巨大な竜巻に追われながら。


どこまでも追尾する神の鉄槌を引き連れて。



今晩2話更新。定期更新のお話が短めですので

2話でセットになってます

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