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第11話 車窓の風景

あれから1か月後。

あっという間に魔力検査の日になった。


俺はエストラント侯爵家の家紋が刻印された馬車に乗り、執事長のセバスと大教会に向かう。

ウマのヒズメが石畳をカッポカッポと叩いて進んでいく。

つくづくこの世界は昔の田舎というか牧歌的。


俺の将来を決まる一歩が始まる。


子供の魔力検査には両親か、せめて片親が一緒に来るのが普通。

なにせ子供の将来はその家の未来にかかわってくるのだから放っておけるはずがない。

別に親が来たから結果が変わるわけじゃないけど。少しでも早く知りたいのか。

そんなイベントでも俺の両親が顔を出すことはない。


仕事に忙しい父親とパーティばっかり開いている母親。

随分と顔を見ていないし、話しをした記憶は碌にない。

俺の世話は執事長とバアヤに任せっきり。


俺は別に"可哀そうな子"ってわけじゃない。

そんなの貴族の子供なら当然っていうのはよくわからない。

どっちにしても俺には知ったことじゃない。


メシがある。

寝る場所がある。

それに俺を世話してくれるヤツラも付けてくれてるんだ、前世からすれば天国だ。


昨夜ナビゲータと最後の会話。

俺の魔力をどう見せるかと、どうやればいいか。


聖玉には「風と土」レベル1で表示させる。

それ以外は全て秘匿する。


12歳で2元素使えるのは「ごく稀に現れる将来が期待される若者」レベルらしい。

俺の力を完全に秘匿すると俺が力を出せない。ただの「できないヤツ」になっちまう。

期待はできるけど、今はまだどうなるかわからない。そんな感じにしたい。

少しはできると思ってくれないと魔法学院に入学する話が始まらないから。


今後の生活を考えると風と土は相性がいいらしい、土と風なんてこの自然豊かな世界にあふれている。

それはそのまま発動しやすさにつながるから、自分を守りやすくなる。

そのくせ土魔法は上級者でなければ戦闘に向かない生活用の魔法だと思われているから。街の労働者たちの仕事を便利にするためのダサイ魔法と思われている。


複数元素使えてレアだけども使える魔法はダサい。

ナメられないけど少し残念、この程良さがいい。


「それでどうやって大教会の宝玉をごまかすんだ?」

『ごまかしませんよ?完璧な魔力操作で風と土属性レベル1の魔力を玉珠に流すだけです』


なぜコイツは一発で俺にわかるように説明しないんだろう。

もっとこう、わかりやすく、すんなりウンワカッタとうなずけるような言い方があるだろうに。

出来るくせにわざとやってないと踏んでいる。性根の腐った意地の悪いヤツだ。


「だからどうやってよ?この1か月の修行で体の中をめぐる魔力については自分で感じられるようになったけど」

『それは魔力操作の初歩中の初歩ですね』

「うっせえ、いいから教えろっ」


ただ何となく頭にひっかかっていることがある気がする。

今の俺では絶対に足りないなら圧倒的な何かが必要なはずなんだ。


『憶えていますか?神域で神様と話した時のことを』

「ボンヤリした公園の爺さんだろ?神ってのが俺の思ってたのと大分違ったけどな」

『ほう、それは興味深いですね。違ったとはどのあたりが?』


いやいや、魔力操作の話はどこいった?公園の爺さんのことはどうでもいいんだけど。

こっちが教えてもらう身だから我慢して俺は必死にあの時の感情を思い出す。


うん。

なんだこいつって思ってたな。


「神っつーのはなんつーか、優しい?慈悲っつーの?愛とか何とかそういうの、世の中に向けて。そんな感じかと思ってたけど」

うまく言葉にできないけど。いきなり説明させんなよ、頭はつながってるのだから勝手に知れよ。


「実際に見たアイツは冷たいんじゃないけどなんか仕事みたいにコレがコレ、みたいな。決まったことをその通りにっつーか。うまく言えねーけど」

『ありがとうございます。参考にさせていただきます』

「いやいいからレベルの話を続けろよ」

『それでは』


コホンという咳払いが聞こえそうな間のあとに。

さも大事なことをを伝えるように、思い出させるように。


『あなたの言う"爺さん"にあなたは望みました「俺が大人に成れたら使えるはずの力をくれ。いつでも使えるようにしてくれ」 神はそれを了承されました』


「そうだったな。今でも何がどうすりゃどうなんのかわからんけど」


しばらく見てなかった情報ボードが出てきた。

全ての魔法適性がレベルが3から5に上がっている。


「お、おいレベル上がってるぞ。前より見つかったらダメじゃねえかコレ」


これじゃあその辺には絶対いない12歳児になっちまう。


『そこではなく下の方、これまで見えなかった「固有スキル」が見えるでしょう』


一番下にこれまでなかった表示が増えていた。


固有スキル<力の顕現>


『あなたが「理不尽な力に虐げられないように望んだ力」です』




なんだろう。


ナビゲーターの説明が頭の中で殷々と響いた。

とても大切な何かが俺の頭の中にバチンッと音を立てて入り込む。

絶対的な力に恐れる気持ちと。

その力を手にして安堵する気持ちが湧き上がる。


どうやら俺は、まだ何も分っちゃいないけど、理不尽な暴力にも死なずにすむ為の力を一つ手に入れたらしい。


望むところだ。


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