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神様に辿りつく少年  作者: 水砲


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第107話 タペストリー領の異変

「あいよ、昼の哨戒任務も異常なしっと」

高見から双眼鏡で覗き込んだ範囲に敵影なし。


ここ最近静かな日が続いている。

今日もそんな日であればいい。

王国の端。タペストリー侯爵領の兵士オリバーは定時の哨戒任務を終えて詰所に戻っていく。

見上げる空は暗い。


ポツン、とふった雨粒が冑にあたった。

厚い雲が随分と日光を遮り、暗くなった周囲が今にも泣きだしそうな日の午後。


「ぼちぼちひと雨きそうだ。こんな日は敵さんも静かにしておいてくれるといいんだが」


降り始めた雨をよけながら詰所まで戻り、同僚たちとひといきつきながら暖かい茶を飲んで休んでいたところ。


「敵兵だーーー!!!」


大声が響き渡り、カンカンと警鐘が打ち鳴らされる。


兵士たちは目を合わせ、立てかけてあった剣をとり立ちあがる。

「仕事の時間だ!」


1個中隊、50人が隊列を組んで衛門へと向かう。

激しくなった雨がけむり視界は悪い。


国境沿いのタペストリー侯爵領ではよくあることだ。


領土が接しているのは北の大国。

よく練兵された屈強な軍隊を持つ軍事国家。


北の大国は厳しい自然に囲まれており、肥沃な土地への渇望が強い。

領土の拡張に意欲的で油断ならない。


ただしこの10年ほどは、小競り合いはあっても大攻勢をしかけてくることはなかった。

ひとつは世界的に気候が安定しており北の食糧事情が安定していること。

もうひとつには東の帝国に触手を伸ばしていたこと。

東の帝国はのらりくらりと北の侵攻を交わしているようだが。

外交手腕なら朴訥な北の政治家より東の方が何枚も上手だ、結局は東と北も膠着している。

どちらにしても、世界最強の魔法師団と王国軍を抱える西の王国を本気で侵攻をするつもりはないと思えた。


今日もいつもの小競り合いが始まる、そう考えて国境沿いのゲートに集まった兵士たちは唖然とすることになる。


ドドドドドドドドッッッ!!!!!!!!


見えずらい視界のせいで正確な数は図れないが、歩兵を中心とした北の大軍が大地を踏み鳴らす足音が彼方から押し寄せてくる。


「お、おい。あれ・・・・」


国境沿いには高い防壁が築いてある。

数が自分達の数倍であろうと、門を閉め閂をかけ、防壁の上部から矢を射ることで進軍を蹴散らすのがいつもの流れだ。

敵も様子見といった感じで騎馬で接近してみたり、厚い盾を持った歩兵を進めてみたりとあの手この手で進んでくるが、最終的に本気で防壁を超えようとしてくることはなかった。


これまでは。


これまでとは明らかに違う勢いと殺気に、熟練の兵士が即座に気を取り直す。


「至急だ、本部に伝令走れ!!」


足の速い兵士が来た道をすごい勢いで戻っていく。

しかし本部に伝令したところで。


「衛門の閂を3重にかけろ!その後見張りの塔に弓兵と槍兵を分散、門の内側でも衛兵待機!」


1本でもA級魔獣の体当たりに耐える分厚い扉と堅牢な閂。その閂を上下にもう2本追加することで絶対に開かない杭になるだけでなく、扉自体の強度も横面で補強する。

絶対に外からは開かれない扉。

そう外からは。


敵はざっと見渡しても1万以上はいるだろう。


そんな情報聞いていない。

兵団単位の敵軍の所在はどの国でも絶えず間諜が見張っている。北の大国なら300キロ以上離れた第二都市にいるのが一番近かったはずだ。

どこから湧いて出てきた?

うちの諜報部がミスったとしか考えられないがそんなハズもない。

いや、ありえないハズだ!


即応できる本体の人員を集めても三千人程度だ。相手はざっと1万人以上は確実だ。

事前に察知して本国からの応援を頼まなければならない規模だ。


「三千でも集まれば、籠城戦ならしばらく持ちこたえられる!とにかく防げ、時間を稼ぐんだ!!」


見張り台から除く歩兵部隊の中には、集団で固まっている一段がいくつも見られ、その周りには盾を持って矢を防いでいる兵士たちの姿が見受けられる。

衛門を打ち破る槌・・・ではなく、長い大きなはしごを数十人で抱えて走る集団。

最悪だ。

敵は門を超えて、内側から扉を解放するつもりだ。

高い防壁、頑丈な門。

外からは強く、内からは弱い。


「矢を持ってこい、ありったけだ!敵の経路をさぐれ、中央門以外も狙われるぞ!今回はマジのやつだ!!」



「あらあら、随分なお客さんだわね」


見張り台に立つぶかぶかのドテラを羽織った男が、目の前に広がる軍勢を眺めて一言。


言葉は少々オネエが入っており、細身で背はヒョロ高く、小さな丸メガネをかけて髪を後ろで縛っている。

見た目からも言動からも見えないが、由緒正しくこの辺境を納めるタペストリー侯爵。

細くやせており赤茶の髪も長い。整った顔つきは性別を感じさせないはずなのだが。無精に伸びたヒゲと猫背にチンタラとした歩き方など、そういう意味では男らしい男だ。


タペストリー侯爵はサンタのように背負ってきたズタ袋を降ろして隊長であるオリバーに渡した。

袋を開いてすぐに各見張り台への配分を指示する。


中に入っているのは魔石を組み込んだ矢じり。

魔石には魔法陣が刻んであり魔力も装填済み。


発明家としても名高いタペストリー侯爵が独自に開発したこの矢じり。軽く魔力を通して矢を放つと着弾を引き金に爆発を起こす。

半径5メートルくらいにいれば巻き込まれて吹っ飛ぶ代物だ。


「気合いれやしたね」

数百はある矢じりが湧けられてそれぞれの見張り台へと配られていく。


「だーね。あんな数でこられちゃ出せるものはだすしかないわヨ。敵さんに渡っちゃうくらいならせいぜい派手にぶっぱなしましょう?」


「あーあ。ちまちま貯めてたのに無くなるのは一瞬ですぜ?」


「しょうがないでしょうそのためのモノなんだから。でもお天気が悪くて効果が落ちるのはいただけないわ。魔法陣が発火して爆発するからいいけど炎も雨で弱まっちゃいそうね」


「天候は敵さんの計算に入ってるでしょうねえ。こう激しく降られちゃ狙いずらいし。ココを本気でねらってきましたか」


ドゴオオオオオォンッ!!!


最初の魔石矢が敵陣のど真ん中で大きく爆発した。

周囲の数人が吹っ飛ぶのが物見台からでもよく見える。


「始まったわね。今試作していたコイツを全員に行き渡らせられればもっとよかったけど今日は私の専属だわ」


新しく開発したボウ・ガン。

台座に強力な弦をはり重量と剛性のある矢をセットして発射する。

矢が太いため、着けられる矢じりも大ぶりなものが装着可能であり、射程距離も弓の倍以上ある。

反動が強いため物見台の窓辺に固定して発射する。おおざっぱでありピンポイントの狙いでは弓に劣る。

しかし、たんに敵の集団のど真ん中に爆破石を叩き込むだけなら弓の何倍も使い勝手がいい。


「よいしょ」

ボウ・ガンの先端を窓に設置し狙いを定める。

敵の集団のど真ん中。まだ弓では全く届かない辺りを狙う。


ドヒュウンッ


弦がしなる音が響き矢が上空から敵集団の真っただ中へとおちていく。


「ひゃっほ~~~うっ」


ドゴオオオオオオオオンンンッッッ!!!!!!!!


魔石の矢じりの数倍の威力で爆発を起こし、火炎と爆煙が拭きあがる。

十メートルもの範囲で地面を穿ち、破裂で飛び散った泥や石が周囲に襲い掛かる。


「さあやろうどもかかりなさいっ!闘いのお時間よっ」


雨に互いの怒号がかき消される中。

タペストリー領の国境防衛戦が始まったのだ。


新しいパートに入りました。


今日はいろいろありました。不安な方もお疲れの方も一息ついて頂くツールになれば

『少年』第107話掲載します日付またいで108話いつもの時間で掲載です

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