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第102話 道の先へ

※ 改稿は表現の修正です。少し短くなりました

明るい夜。

今日は満月だ。

薄く光を照らす木々の葉にも、陰に浮き出る闇にすら。青白い力が満ちているようだ。


「これからユーリに月の女神様お力と救月の精霊の力をそそぐからの。澱固まった魔力泥を一気に消滅させて通路を開通させるのじゃ」


ふるり、とロットを鼻先へとかかげる。


「ヌシの主のためじゃせいぜい気張るがいいぞ」


やってやるさ。



カールスバーグのロット。

稀代の大魔導士と呼ばれた男が使用していた魔導ロットだ。


まだ彼が王族達と知り合う前。

王国転覆を図る秘密結社や魔物軍団を率いる灼熱竜との闘争を繰り広げていたころ。

彼の胸元にはいつもこのロットがあった。

このロットがホルダーから抜かれたならば敵の命はないものと恐れられた。


杖の先端についた少し高価な魔道石を除けば何でもないロットに見える。

だがロットはカールスバーグが手掛けた最初にして最後の武具で、肌身離さない相棒でもあった。

ミスリル製の芯には全魔法元素に応じる魔石が圧縮されている。オリハルコン製の魔導珠が埋め込まれて魔導効率を最高値までひきあげた最高傑作。


今のユーリを取巻く環境とカールスバーグのそれはずいぶん異なった。

仲間と呼べる存在は皆無だったしいつ何時も命を狙われる。

まわりからすると偏屈で融通のきかない荒れくれ魔導士だ。

何がこの男を動かす基準となっているのか誰も知らない。相手が巨大組織であろうと凶悪な魔獣であろうと躊躇なく踏み込む危険な男。

貴族や政治家であろうが関係なし。


彼は言い訳をしない。説明をしない。理解を得ようとしない。

たとえ自分に憎しみを向けている村人全員の命を救うためにやったことでも。

そのために救った人々からすら恨まれようとも気にするそぶりはない。


ただ自分が信じる道を進むだけ。

彼の中では、子供の涙や、弱い立場が虐げられる悲しみや絶望、消え去りそうなその命。そんな彼の中にだけ存在する「放っておけないもの」が不条理に砕け散ろうとするのが許せなかった。魂に火がつき力が全身に満ちる。

誰のためでもない。

自分が許せないのだからしょうがなかったのだ。


そんな彼の気持ちを知っているのは、彼が使う意思を持ったロットだけなのだった。


カールスバーグの激動の時代をともに過ごしたロットは、新しく主と認めたユーリの境遇に心が躍った。

今のユーリは前の主人がひとりで戦い続けていた年頃だ。幸いなことにユーリは信頼する仲間も愛すべき伴侶もいる。

旧友がひとりで戦い続けた頃、自分をたったひとりの仲間として振り続けたあの時代を。すでに新しい主は通り抜けている。


カールスバーグのやったことは結果として王国を救いハジカレものであった彼の周りは変わっていく。

しかし新しい相棒はそんなせまい範囲なんて超えていくのだろう。

もっと大きな世界を相手に。カールスバーグすら超える力を持ったユーリが挑んでいくのだ。

そして自分は相棒として選ばれた。


こんなに心躍ることはない。


精霊女王が邪魔くさいのだがこれもきっと宿命だ。

自分もこの宝剣も、大きな覇業をなす男に自然と集まるピースなのだろう。


まだまだはじめの一歩なんだ。こんなところでリタイアはねえぞ?


カールスバーグとともにあった旅のその先へと進むのだ。



「ではいくぞ」

シルバー・フォックスの金の瞳が月明かりを反射して輝きを放つ。


「月の女神よ、眷属たる我にその御力をお貸したもう。ここに控える従順なる僕に神のご加護を与えたまえ!<瓦解><滅魔>!!」


青白い炎が一瞬でユーリを焼き上げ体が激しく上下に弾かれた。


「時がきたぞ皆の者!!!」


衝撃に続いて銀の光が通路の闇を貫くと一瞬で遠い先まで焼き切った。

はるか先にはこちらと同じ通路がぽっかりと口をあけている。


「精霊魔法<癒しの錨>!!」


エメラルドに輝く光の錨が一直線に伸び、途中の邪魔な壁の欠片が全てふき飛んだ。

この瞬間にまっすぐに貫いて一本の光の線が通り切ったのだ!


「さあカールスバーグやるのよ!!」


「あいよ<クリエイト・ブロック>!!」


バタバタバタバタ!

勢いよく一本の道に隙間なく石畳がひかれ伸びていくと。


ガチンッ!!


ついにこちらの口とあちらの口がついにつながったのだ。


これまでの通路よりは狭くなってしまったのだがそれでも。

それでもユーリの魔力の大動脈は無事開通したのだった。


「時間との勝負だったから少し通路が狭くなっちまったが・・・まあ、そこは目覚めた後に自分で何とかしてもらうとするか」


これくらいは自分で何とかしてもらわなければ困るってもんだ。


俺の主となった男なのだから。




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