第101話 キャサリンとユーリとナビゲーター
※ 改稿は誤字の修正です
とぼとぼ。
怒られちゃった。
涙が壊れた蛇口から流れる水のように音を立てて流れてく。
とぼとぼ、とぼとぼ。
嬉しいなぁ。怒ってくれて。
もっと幸せになろうって言ってくれて。
キャサリンにはわかってもらえないかもしれない。
その一言がうれしくて、うれしすぎて。
もうそれだけでこの幸せがすり抜けていっても死ぬまで耐えられる。
たとえ遡って記憶が消えたとしても。二度とこんな幸せがこないとしてもきっと耐えられる。
空っぽですべての感覚を断ち切っていた心が今は明日を楽しみに踊っている。
やっと普通の心に戻れたと喜んでいる。
だから。
とぼとぼ、とぼとぼ。
キャサリンの声が聞こえた方へ。
右かもしれないし左かもしれない。
上かもしれないし下かもしれない。
心が求める方へ足を前に進める。
一歩一歩、小さな一歩を進めるために、足をあげる。
はるか遠くに感じた愛おしい声がすぐそばで聞こえる。
懐かしい声が耳元でささやくように聞こえる。
「ユーリといっしょにいる神様教えてください。ユーリが魔力を失わないために私たちはどうすればいいでしょうか」
『あなたの愛しいパートナーが問いかけてますよ?』
アイツの声はキャサリンに応えることなく俺に向けられる。
『私はあなたのナビゲータですから。あなたがどうしたいか次第です。あなたが選んで進む道をナビゲートするだけです』
「どうにかできるもんなのか?」
『今回は神域に近づいている上位個体が三体います。合わさればなんとかなりそうです』
「やり方を教わればいいんだな」
『それなら1つだけ自覚してください。今遡ればこの人間の女をあなたの人生に巻き込まずにすみます。ですがこれ以上あなたの素のレベルが上がればもう機会はないでしょうね。それがあたなにとって幸せなのか不幸なのか知ったこっちゃないですが』
ただの事実。
どうするのか決めるのは俺たち次第。
「バ、バ、バ、バカヤロー!!そんなの幸せに決まってる!不幸に巻き込まれたって、それで死んじゃっても!それが幸せなんだ、ボクをバカにすんなーーーー!!」
言って欲しいこと。
思ってくれたらメッチャ嬉しいこと。
当たり前に思ってくれる。
やっぱりキャサリンには敵わない。
そんな彼女には俺の全部をあげても足りないきっと。
『おいとかおまえとかバカヤローとか、本当にもうあなた達にはあきれるしかありませんね。モノの尋ね方もしらないとは、さすがに私もヘソを曲げてしまいそうです』
久しぶりに?突っ込まれた。
最近は諦めて何も言わなかったのに。
「おいおい勘弁してくれよ・・・お前の言いたいことはわかったよ。もうこれからはどうなっても自分の道を進むだけだっつーことだよな?いつも通りだそれで頼む」
『さらにおい、とおまえ、ですか。〇カなあなたに当たり前のことを問うたのが間違いでしたね。おバ〇同士でお似合いですよあなた達は。それではこの女を通して神の道へと至ろうとする者へ御業を伝えましょう。魔力がつながっていますから問題ありません』
よくわかんねえけど。
なんかナイガシロにされてる気がする。
「ん?俺やキャサリンには教えてくれねーのか?」
『あなた達を通して伝わりますから。あなた達の脳は通過します。ですが果たして理解できるかどうか?お〇カには複雑すぎますから理解できるものならやってみなさい』
なんだか面白がってないかコイツ?
「バカにしやがって。じゃあやってみろよ吠え面かかせてやる」
『ええやりますけど。せいぜい悔しがってワタシに教えを請えばいいのです』
俺と先生にはいつものやり取り。
キャサリンの困った声がする。
「あ、あ、あの。か、かみさま、ごめんなさいっ!お願いです、ボクたちをたすけて・・・」
『今のワタシはそういう立場にないのですけどね。それでも自分を改めることのは殊勝な心掛けです。どこかの誰かとは大違いですからひとつだけ』
そうか。
そりゃね。
先生ってば神様、だ。
御使いって。
あー、ね?
いやでも
「なんだそれ俺のことか?俺だってずいぶん変わっただろたぶん」
『ユーリ、あなたはあと二日で目覚めるでしょう。ですから魔力を取り戻すならあと二日以内で終わらせることです。どうなっても知ったこっちゃないですが』
いつもの先生らしくない。
何だか神様の宣託みたいな言い方しやがって。
「なんだよ、そういうことは俺じゃなくてキャサリンに言えよな。俺に言ったって・・」
「かみさまありがとうございます!ユーリにしか教えられないお立場で無理言ってすみませんでした!」
ああ。
わかってないの俺だけ
『ふふふ、可愛いしもべに慈悲を与えるのは神として当たり前のことですよ?急ぎなさい。それでは解決する方法を流しますからせいぜいあがいてみせなさい!!!』
バチバチバチッ!!!!!
電流が頭の中を流れるように膨大なロジックが投げ込まれた。
ユーリからキャサリンを通じて魔力でつながるカールスバーグのロットへ、そしてギンさんへ。
パチンッ
ダイブしていたキャサリンの気配がすっかり消え去り、ユーリのまわりは清廉な乳白色の世界が広がった。
哀しみも孤独もない優しく愛される世界。
みじんの不安も疑いもない世界。
「どうだ?いい女だろうキャサリンは」
『さて私に人間の"いい女"なんてものがわかるとでも?』
バカらしいと言わんばかりだ。
「ああそうかい。でもアイツ込みが俺の人生だ。頼むぞ?相棒」
『勝手にすればいいんですよ最初からそう言っているでしょう?いい加減に理解して欲しいですね』
「わかったわかったって。あと二日待てばキャサリンに会えるなうれしいな」
『彼らが失敗するかもしれませんよ?』
「ありえないんじゃない?可能性はわからないけど俺にとってはありえない。お前が教えた内容でやってくれるのがアイツラなんだ。これでダメならよっぽど俺の運が悪いせいだって笑うだけさ」
穏やかな笑顔が浮かぶ。
うまくいく。
俺の中では決まってる未来だ。
『まあこの居心地のよい世界を見渡せば心から信じているのがわかりますけどね。なるようにしかならないワケですから、不安に怯えるより能天気でいる方が人生も楽しめるでしょう』