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第1話 秘密

※ 改稿は誤字脱字の修正です

この世界に生まれて12年も経つ。


この世界で年月が過ぎても"前の世界"のことを忘れはしない。

忘れられるわけはない。ガリガリと心に刻まれたから。

自分ではどうすることもできない深い闇がいつもこちらを覗いているんだ。


今生きているこの国は代々王家が治める西の王国。

世界で4大国と呼ばれる国々の中で最も栄華を極めた国で軍事力も経済力もある。


絶賛12歳のボクはこの国の宰相の息子。

王様から信頼されている有数の貴族家の長男。

蝶よ花よと傅かれはしないけど、普通に恵まれた生活をしてる。普通は望んでもなれないと思う。


新しい名前はユーリ・エストラント。

前世を含めると大人と言える俺のこの世界での名前。

エストラント侯爵家のユーリ。


少しだけ前世の名前と似ている。

でも今回の人生は前世とかけ離れてすぎていて尻の座りが悪い。ムズムズする。

誰かと話をするのに「ボク」「私」お貴族様なんて自分の中では辟易しかない。


今の俺は魔法学院の受験を控えている受験生。

10歳の誕生日に受けた魔力検査で「魔法適正あり」と診断されたこと、魔法学院は魔法適正がある有力貴族の子弟ならば必ず通る出世街道への登竜門だから反強制的だけどしょうがないと思う。

毎日メシも食べられてるし世話してくれる人もつけてくれてるんだから、それくらいは聞くよ。


この幸運の一握りでも前世に渡すことができればと思う。

そうすればあんなクソッタレの人生を送らずに済んだのに。

過去には戻れないのだから考えるだけ無駄だけど。


「やあ、よく来たね」


キャサリンさんはいつも通り。

友達でも招いたような気軽さで対応してくれる。


「あがって、あがって」

あわててお土産を受け取って渡すと、いやいーのにと言いながら笑って部屋へと案内してくれた。


通されたのは立派な応接間。

椅子も机も壁掛けもドアのノブだって、光沢のある木目調の家具で統一されている。成金貴族がよくあるゴテゴテのコーデとは大違い。高級感と品の良さで溢れるセンスのいいお部屋。


それなのに違和感をビシビシと感じるのは気のせいじゃない。


部屋の壁には一面に魔道具や魔石。魔法陣が書かれたスクロールに古代の世界図。魔法使いが使うロットや杖も飾ってある。壁際の本棚に並んでいる書籍は百年も昔のような古めかしいくて分厚い本ばかり。


すごく貴重なハズの魔道具も本たちも棚に入りきらず、そこかしこに積んである。


ナニコレ?魔法マニアか研究者の部屋?としか思えないような有様だ。

魔法が大好きで熱烈な魔法愛に溢れるお部屋。


「ちょっと普通の応接室と違うけど気にしないでね。父と私の趣味みたいなもんでさ」


「趣味?やっぱりキャサリンさんの趣味は魔法なんですか?」


「魔法もそうだけど森羅万象全てだね。魔法のために学び始めたことだけど全てが面白いよ?」


これ知ってる?これわかる?すごいよね、楽しいよね!・・って言葉に出さなくても彼女の顔に書いてある。

そんな何でも顔に出てる素直な人。

きっとこの人は隠し事ができない人だ。

そう思いたい。


ノックの音が来訪者を告げる。

この家の家族がご挨拶に来られたかも。

でもキャサリンさんは不穏な声。

「来たね」


なんだ?

一瞬だけですぐにいつも通りのキャサリンさんに戻る。


「どうぞ」


彼女と似た目鼻立ちの年配紳士が入ってきた。

金髪で造形の整った容姿。年齢をきちんと重ねてきた人特有の落ち着きと芯の強さ。

そんなことを気取らせない微笑み。

シャツにパンツとラフな格好だけど普段から身なりに気を配っている着こなし。上品な貴族特有のオーラが出ているこの人はキャサリンさんの家族で間違いない。

そのくせ正反対の危ない香りがする男。


見た目はスラリと均整がとれた体つきだけど、袖を通した腕や太もも、服の上からでも胸板や広背筋の盛り上がり。ただのヤサ男でないことは明白だ。

細身なのに筋量が多い。

諜報員とか護衛?それとも冒険者をしている魔導士?

街で普通に歩いていても王宮で事務をしていても気付かれない野獣。

何をしている人かはわからない。でも只者じゃない。


俺の中で警戒レベルが跳ね上がる。

コイツはただの貴族なんかじゃない。


「はじめまして。キャサリンの父キルリス・ベッシリーニです。割り込んでしまってすまないね」


俺も慌てて立ち上がって手を握り返した。

フランクで親しみやすい挨拶は助かる。


「お初にお目にかかります。エストラント侯爵家のユーリです。本日はキャサリン嬢にお招きいただきました」


「これはご丁寧に。エストラント侯爵はご健勝かい?」


「はい。相変わらず忙しいようです。屋敷では滅多に見ることができません」


くだけてしゃべって貰えるから助かる。

初対面の年配者と会話なんて滅多にしないから緊張するけど。この人は子供の扱いに慣れている人かも知れない。やさしい笑顔と距離感もやりやすい。


「ところで二人は興味深い勉強会をするみたいだけども。よかったら私も混ぜてもらっていいかい?」


そう言いながらもさっさとキャサリンさんの横に腰を下すから断られるつもりはないようだ。


でもな。

子供の勉強会に混ざりたい親がいるのだろうか?

何故混ざりたいのかよくわからない。そんなに学問好きな大人が存在する?


予想もしていない状況に脳内で警戒アラートが鳴り響く。


この人は何かを知りたいのじゃないか。


例えば俺の情報を。

知られたくない秘密を。


「大丈夫だと思いますけれど?」


招いてもらっている自分が家主にNOを言えるわけがない。

ありきたりの言葉を返した自分がキャサリンさんの方を向くと全力で首を横に振っていた。

分かり易すぎる、誰にでもわかる拒絶だけどいいのだろうか。


いーやーだー!


振っている首の勢いがさらに強まって強烈な「邪魔するなアピール」が続く。

もう髪の毛が逆立ちするくらいに激しく。


「キャサリンもそんなに嫌がらないでくれ。父に向けた気安さとはわかっていてもやはり傷つくんだよ?」


拒絶されても動く気なんてサラサラない。

全く動じない男は平気な顔をして自分に降りかかる悲しみを主張する。


「このウソつきめ!口ばっかり達者な大臣達を議会で論破するときも、ギャング集団に銃口向けられて説得するときも平気な顔していたくせに!こんなことでミスリル製の心臓が傷づくはずなんてないでしょうに!!」


この人の心臓ミスリル製なんだ、それは傷つくことなんてないな。

一瞬ボンヤリ考えてしてしまったけど考えるのはそこじゃない!


このオッサンはどういう人なんだろう?


大臣?ギャング?どちらも興味深い。

そんなヤツラとドンパチする立場ってどんなだろう。

"並みの立ち場じゃない"人というのは間違いない。


気さくな空気でこの人も信用してしまいそうになるけども。そんな大物に裏がないわけがないのだから。


「おいおい。父で上司の私に対して尊敬の念が足りていないようだね?そういう君には明日保管庫の掃除とポーションの在庫確認をお願いすることにするよ」


「このオニめ!いいから邪魔しないでってば!なんだって勝手に割り込んでくるんだい、さっさと仕事に戻らないとまた総司令官に怒られるよ!!」


やりとりする言葉が端々で俺に告げている。


この人は何かの分野で国の中枢の立場にいる人だ。体つきからも軍部か魔法省かの戦闘にかかわる部署で。

力を持っていて他人を利用するやつらの一員。

今日が休みだとしても子供と勉強会をする気やすい立場じゃない。


そんな偉い人はキャサリンからの文句をまるで気にしていないように俺の方へと向き直った。


「ところでユーリくんは随分と魔法の才能があるんだね。それに魔法元素の勉強も興味を持っているんだろう?」


「キャサリンさんと比べると恥ずかしいですけど。今は時間を忘れてのめり込んでます」


当たり障りなく。

俺は受験生という立場でここにいる。


何だろう。

探られてるのか?

それとも上っ面の会話をしているだけ?

受験や学問の話は俺の秘密にも遠からずだ。


「この娘はただのマニアだから気にしなくていいよ。知らないことを探求すると面白いだろう?」


「自分でも不思議なくらいです。勉強はやらされるものと思ってたのですけど自分から進むと違う道が開けるようです」


「ふふふ。知識にどん欲なのはいいことだよ。魔法でも社会でも情報を理解するための土台になるのは知識だから」


年寄臭かったかな、と頭をかいてるこのおっさんはいい人に見える。

この話の内容と同じことは"ナビゲーター"からも言われている。

同じ情報を受け取っても理解はその人のオツムの土台次第だということ。


「年寄は説教くさくてすまないね。全属性持ちなんて超レアだから私もはしゃいでしまったようだ」


「いえお気になさらずに」


おっさんは説教臭いなどこの世界でも。

何の気なしに思って出された紅茶に口をつけたところで。


今言われたことに気付いた。


「え?」


全属性持ち?


「え?」

「うん?」


俺の疑問符にキャサリンさんの声が続く。その後でまるで「どうしたの?」とでもいう気やすいキルリスさんの声が続いた。

まるで当たり前のことのように。知っているのが当然のように。


その直後キャサリンさんがユラリと立ち上がり。

いつもの笑顔がすっかりと抜け落ちて怒りの表情でキルリスさんを睨みつけたその背には怒りの赤いオーラで。

細い腕を振りかぶって父親を名乗る男の顔面を思いっきり殴りつけた!

グシャリ、と何かが潰れるような衝撃音が響く。


「ゲフッ」


情けない声をあげた紳士はソファーごとぶっ倒れて鼻血が噴き出しながら白目をむいてしまった。


油断していたとはいえ大の男をか弱い少女がワンパンで倒したの図。

殴る瞬間にキャサリンさんは魔力で筋力増強した。見逃しはしない。でも気になるのはそこじゃない。


え?え?

なんで?


なぜコイツは俺が全属性持ちだって知っているんだ!!!


頭の中は疑問符だらけ。


誰も知らないことをコイツはどうやって知ってた?

なぜわざわざ俺に話した?

聞いたキャサリンさんがすぐに怒ったのは彼女も知っていたから?

それならなぜ殴ったのか?


わからないことだらけだ。


疑問を解消するために必死に頭をまわす。

残念ながら交渉術で理由をさぐるうまい言葉なんて即座に浮かばない。


「な何ですか?全属性って?」


ぼく子供だからわかんない、このおっさんなに言ってるのかぜんっぜんわかんない!

現実逃避したい、でもそんな場合じゃない。

頭の中で必死に"ナビゲーター"に問いかける


「お、おい、これってどういうこと?」


こういう時のために神様から遣わされたナビゲーターだろうが!?神の御使いなんじゃないのかよ!


「ちょっと、いいからダマるなって答えろって!どうすりゃいいんだ?こいつら俺の事何か知ってんのか?知ってて喋っているのか?なあ、なあ!!」


『・・・・・・』


「コレってとぼけた方がいいヤツか?コイツラやっちまった方がいいヤツか?きんきゅー事態だろ、いいから返事しろって!!」


『・・・・・・はあぁ』


神の御使いと呼ばれる俺の導き手"ナビゲーター"がため息をついた。


え?なんで?こういう時のあなた様では?

必死に頭の中でナビゲーターを呼び出そうとしている俺にキルリスが問いかけてきた。


「おや?どうしたら良いか神様から啓示があったかい?」


さも当然のように。誰も知っているはずのない俺のナビゲーターを匂わせやがった!


それともこちらの世界でははみんな頭の中で「神様からの掲示」とか「あなたをナビゲートする存在」とか名乗る他人の声が響くのか?


いつの間にかキルリスは元通り座り鼻血もきれいさっぱり無かったことになっている。


頭の中が必死過ぎて気づかなかったけども傷をいやす<回復>の魔法を使った形跡がある。治癒したのはキャサリンさんしかいない。

<回復>は光の上位魔法。聞かされていないけどこれだけで彼女は上級魔導士で間違いない。


危険な交渉役と補佐する上級魔導士に対峙している。

敵にまわすとまずい二人に囲まれている気がしてジワリジワリと焦りの汗が流れていく。


「何のことでしょう?」


頭の中がいくら忙しかろうと表情にも口調にも出すわけにはいかない。

ずるがしこい大人たちはすぐに言葉の上げ足をとってこちらへ差し込んでくる。


啓示?

ナビゲーターのことを知っているハズがない。

少なくとも日本でそんなことを言えば電波認定されるだけだ。


こちらの世界でもそんなことはあり得ないはず、10年生きてきたけど聞いたことないし、ナビゲーターもそんな話をしたことはない。

それなのに。


見えない神の御使いのことなんて知っているハズがない。


「おいおいそんな疑い深い顔で見ないでくれよ。話を聞いてくれないかな?こちらも知っている情報をオープンにするのが信義だと思ってしゃべっているのだから」


心の中で焦る俺に対して平然としゃべりやがるのがムカつく。

意地でも焦りを顔に出すわけにはいかない。

大人のこいつにいいように利用される気持ちなんてない。


「オープン?信義?何を言ってるんですか!?」


思わず言葉がきつくなる。

必死に考えているのは、こいつが何を知っているのかと敵かどうかだけ。


俺を利用しようとするヤツが敵。


コイツは何かを知っているのか、知らずに情報を引き出そうとカマかけしているのか。

どちらにしても怪しいヤツなのは間違いない。言動からは何も知らないとも思えない。

どこまで知っている、なぜ知っている?

俺の能力は誰にも知られていない。親も執事長も乳母だって知らないことだ。


「素が出てきていい感じだ。それでこそ将来の僕の生徒だよ。本音と本音で魂はぶつかり合わないと」

キルリスの表情は最初から変わらず人懐っこい笑顔だ。

自分が娘に吹っ飛ばされても俺の口調が変わっても。


何なんだ。


関係ないことを喋りながら誤魔化そうとしているのか?

生徒?何を言いたいのかさっぱりわからない。

でも余裕あるということはこっちをナメているということだ。

そういうヤツは他人を利用しても何とも思わないクズ野郎だ。


「キャ、キャサリンさん?もうこの人が何を言っているのかさっぱりです。なにがなんだか?」


キャサリンさんは信じたい。

俺の下らない話に思いっきり笑ってくれる人だから。


そんなの信じられる理由にもならないなんてわかっていても。

ざんざん俺を嵌めてきたヤツラとこの人を同列に考えたくない。


縋るような俺の希望に応えてくれはしなかった。彼女は深く頭を抱えていてうつ向いたまま。

キルリスの言葉だけが部屋に響き続ける。

声が部屋中を反響してグルグルと世界がまわり始めたころ。


俯いたキャサリンさんがポソリと口に出した。


「ごめんね。こんなことになっちゃって」


「やめてくださいよ。このオッサンの言うことはさっぱりだけどキャサリンさんのせいじゃない」


一縷の希望を口にだしたのに。

彼女は関係ないハズだと。

それなのに。


「それがそうでもないんだよね」


彼女の無機質な声が部屋に響いた。


新連載始めました。


はじめまして。

第一話読んでいただいてありがとうございます。

しばらく毎日更新しますのでよろしければ引き続きご覧くださいませ。


他の水砲の作品を読んでコチラへいらっしゃた方ありがとうございます。

今回は笑う方向ではない作品でご期待に添えていないやも。

「大魔王様ついてきます」https://ncode.syosetu.com/n3824ij/ 週一更新続きますのでお口直しになれば。こちらは楽しく笑えるお話目指してます。


長いお話になります。

ノンビリお付き合いしていただけると嬉しいです。


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初めましてこんばんは~深夜ですが失礼します笑 前世の記憶を持つ宰相の息子さんことユーリが魔法学院の受験を控える中でキャサリンとその親父さんのキルリスたちと出会いましたが…キルリスがユーリの秘密を知って…
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