忍び寄る闇 ~エピローグ~
第三位宮廷魔導師の席は空席となり、第一位宮廷魔導師のファウゼンを中心に、ほかの魔導師や魔術師の身辺調査が行われた。
その作業にはアズラムも協力を求められ、何度も残留思念を探る仕事を請け負った。疲れているなどという泣き言は口にせず、彼は積極的にその役目をまっとうした。そうせずにはいられなかった。
ナグス以外にも邪神に組する者がいるなど、彼には認めることができなかったのだ。
魔道に堕ちた魔術師など災いにしかならない。彼の認識はそういった常識的な(新しい)魔術師の枠組みの中で育まれた、まっとうな認識の中にあったのである。
魔術や魔導の究極的な目的は、上位存在のある領域に踏み込むことだ。などという連中を、彼は一切認めることはできなかった。
アズラムたちの調査も終わり、ゼーア国の宮廷魔導師の中には邪神と関係をもっているような、道義的に問題のある魔術師は存在しないことが判明した。
今回の件での働きが認められ、アズラムは宮廷魔導師の位階を上げ、魔導棟に新たな部屋を与えられた。
だがアズラムは喜んではいなかった。
危険な魔術師が存在することを知識ではなく経験で知った彼は、邪神や魔神といった上位存在を今まで以上に危険視するようになり、彼はファウゼンと共に、ナグスの残した資料や手記を読みあさるようになった。
邪悪な上位存在について調べるという作業に、気づけばアズラムは寝食を忘れて没頭していることが増えた。
第三位宮廷魔導師ナグスはニフカを使って今回の事件を起こしたわけだが、ニフカを魔道へと誘ったナグスは魔術を行使し、ニフカの感覚も感情も何もかもを狂わせ、彼の操り人形と化していた。
人間の魂をも狂わす邪悪な魔術は、邪神から得たものだったのだ。
アズラムはナグスの邪悪な策謀に吐き気がする思いだった。
だが彼の中にあるナグスへの憎しみは、邪神のことを調べるほどに薄れていき、それは上位存在への知識欲へと変わっていった。
それは徐々に彼の心を本来あるべき常道から、別の道へと導くものに変化していくようだった。
深淵の深みは、それを観測する者の魂を呑み込む暗い虚のようにひっそりと忍び寄り、気づかれることなく、自らの暗闇に取り込んでしまうのだ……
人間を邪悪な怪物に変化させる儀式としての殺人。
その被害者の魂を使って果たされた邪神の誕生。そんなダークなお話でした。
この小説は三人称書きですが『魔導の探索者レギの冒険譚』は一人称書きで、さらにかなり癖のある内容と文章で書いているのであまりお勧めはできませんが、世界観に興味をもってくれた人はそちらもぜひ。