秋と冬は永遠に
12/23
「私はそろそろ死ぬよ…」
人間はいつか死ぬ。私はそれが人より早かっただけ。それだけなのに、私の白い心はそれに酷く抵抗する。
「うん。フユ、海に行かない?前に言ったでしょ」
確か、そんなこと言ってたっけ。
「いいよ!行こっか」
ここに来た時の紅葉は全て枯れ、今では茶色の枝しか残っていない。私はそれがとても悲しかった。
でも、この山で2人で過ごした時間は私にとって1番大切な記憶だ。
私が死んだらこの記憶はどこに行くのだろうか。そんな不安で私は死への恐怖を覚える。
12/24
「うぉぉぉ!すげぇ!海だ!」
こんなにはしゃいでいるアキトを見たのは初めて会った時以来だろう。
そこの海は雪が降っていて凍えるほど寒かった。
そんな私の姿を見たからだろうか。アキトは私の手を一生懸命掴んでくれた。
私たちは2人とも頬を赤くしていた。
しかし、それについて2人とも言及することはなく、時間だけが過ぎていった。
2人だけの世界で2人だけで話し合った。
この時間も大切な記憶のひとつだ。今から失うこの時間も。
そう思うと怖くなる。アキトと離れ離れになること。アキトに悲しい思いをさせてしまうこと。
「そんなことさせないよ。僕たちはずっと一緒。大丈夫だよ」
アキトはそう言ってくれたけど、私は分かっている。それが無理なことであるということを。
突然、けたたましいサイレン音と共に炎のように真っ赤な光が私の目の前を通り過ぎた。
「こんな時まで追われるのかよ!?」
どうやらパトカーが数台通り過ぎたようだ。私たちの目撃情報が入ったのだろう。
「もっとあっち側にいこう」
アキトは海の方を指さす。
「うん…けほっごほっ…行こっか…」
私は不安定な足を雪の寒さで誤魔化しながら進み続ける。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…グッ…」
突然、真っ白な視界が揺らいだ。いや、私がコケたのか?
脳みそに何かが入った感覚がした。
そんなことはもう…どうでもいいか。
私には分かる。もうすぐ死ぬ。
「フユ!?フユ!フユ!」
アキトの声が聞こえる。
アキトの肌があたった。暖かい。
暖かい。暖かい。暖かい。
私は暖房が効きすぎた部屋にいるようだった。
アキトが抱きしめてくれているからだろう。
「アキト…ありがとう…さようなら…」
私はこの暖かさのせいか少し喋ることができた。
でも、これで全部出し切った。
「フユ…これからもずっと…一緒だよ…」
アキトは真っ白な涙を流しながらそう言った。
一緒。それができたら良かったな…
ずっと一緒にいたかったな…アキト…
────少年と少女がいた。
純黒の空の下に2人はいた。
雪が降っている銀色の海に2人はいた。
少女は真っ白な顔をしていた。
少女は周りの雪よりも冷たいようだった。
少年はその少女をアンニュイな顔をしながら見つめていた。
どうやらこの世界にはもう興味など無いようだった。
「ずっと一緒だよ」
少年はそう言うと隠し持っていたナイフで自分の首を切った。
2人の周りはたちまち真っ赤に染まっていった。
それはまるで美しい白銀の世界に一輪の赤い薔薇が咲いているようだった。
少年は最後まで赤かった。
この日以来、雪が止むことは無かった。
春と夏はもう来ない。
秋だけは何故かその罪を許され一年に1度だけ顔を出す。
例の少年と少女は雪に埋もれ、今でも見つかっていない。
俺はあの日のことを誰にも言わないことにする。
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