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春と夏はもう来ない


6/24


「あなたの余命は約半年となります」


「そうですか」


黒く薄暗い病室で私と主治医は無機質な声を交わし合う。


私は半年後に死ぬらしい。


特に驚くことは無い。脳梗塞(のうこうそく)である私がこれまで生きていることの方がおかしいはずだ。


「それと明日、隣のベッドに新しい患者が来ます。感情症という精神疾患患者です」


「精神疾患ですか。珍しいですね」


私は小さい頃から病弱で多くの本を読んだ。


その本の中に「感情症」というものがあったはずだ。


確か、昔の人のように感情を持ってしまう病気だ。



6/25


「こんにちは!今日から隣のベッドで治療させてもらいます!よろしくお願いします!」


その少年は口角を上げ、目を細めたような顔をしていた。


本当に顔を自在に動かせるのか。


昨日読んだ例の本を思い出す。


感情症患者は顔の筋肉が発達しており、よく顔を動かす。これを表情という。


ごくたまに自身に「増える」以外の欲求を見出し、生命において非生産的な行動を起こす


人との接触を好み、意味もなく「増える」ための行為をすることがある。


感情症患者の概要はこんな所だ。


「こんにちは〜!彰人アキトって言います!感情症っていうやつらしいで〜す」


早速だ。人との接触を好む。これのことか。


どうやら私に自己紹介を(うなが)しているようだ。


「私の名前は深結(フユ)です。昨夜、余命半年と宣告されました。脳梗塞という病気です」


「え!?余命半年って…そうなんだ…ごめん」


何か謝っているらしい。精神疾患患者は理解困難な言動が多い。


「なぜ…謝るのですか?」


私はそのまま思ったことを口にした。


「なぜってフユは…後半年で…死ぬんだよ」


そうだ。私は余命半年だ。


「知っています」


私がそう言うとアキトは口角を下げながら、また、目を細めた。


「そっか…知ってるか…」


やはり意味がわからない。さっきから何を…






アキトは私に抱きついてきた。唐突に。


私の黒い身体を白く凌辱(りょうじょく)するように。


「どう…したのですか?」


これは…また人との接触を…


「死ぬことは怖いことなんだ。生きることは楽しいことなんだ。フユは何も知らない」


アキトの言っている意味は何も分からなかった。


ただ、私はアキトの暖かさに気がついてしまった。


初めて「増える」以外の欲求を持った気がする。


「ずっとアキトと暖まっていたい」


気がつくと私はそう口にしていた。





「え!?フユ!しっかりして!」


いつの間にか、私の意識は黒い世界に飲み込まれていた。


一瞬見えたアキトの顔はとても赤々としていた。






ここは…薄暗い病室。いつものベッドだ。


しかしいつもとは違う雰囲気だった。アキトが来たせいだろうか。


赤黒い光が差し込んで、アキトの顔を照らしている。


「ん?…おはよう!フユ!」


「おはよう…私また…」


どうやら、私は倒れてしまったようだ。


「昨日は大丈夫でしたか?ごめんなさい…迷惑をかけてしまって…」


「大丈夫だよ!僕も昨日はごめんね…急に驚かせちゃったよね…」


「私は…大丈夫です。その…昨日のあれは…少し嬉しいと感じました」


私は本に書いてあった「嬉しい」という感情を少しだけ理解出来た気がする。


「え!?そ、そっか…ありがとう。そうだ!一緒に外に行かない?」


アキトは何故か顔を赤くしていた。


「いいですよ」






病院の外は6月末ということもあり桜は散り、赤黒い道ができていた。


外に来たのはいつぶりだろう。いつも病院内から眺めていた景色のはずなのに、そこはまるで初めて来たような感覚がした。


私から見る空はとても黒かった。アキトはどう見えているのだろう。多分、何もかも違うのだろう。


「眩しい…」


私は思わず口にしてしまった。最近、何故か勝手に口が動く。まるで私とは別の生物を身体の中に飼っているような感覚だ。


「散り桜ってのも悪くない!風も気持ちいいな…」


アキトは赤黒い道に座りながらそう言った。


「今は梅雨だから風は生ぬるいはずだよ」


本に記述されている「気持ちいい」とは何か違う気がした。


「確かに。でも、気持ちいいんだ」


アキトの目はどこを向いているのか私には分からなかい。


「ん!?てか フユ!タメ語になってるじゃん!良かった〜!僕このままずっと敬語使われるのかと思ってた…」


いつの間にか、私の言葉は崩れていた。アキトに指摘されるまで気づかなかった。


「タメ語の方がいい………ですか…」


「うん!ちょっと敬語に戻っちゃってるけど笑」


私は途中で気恥ずかしくなり敬語になってしまった。


「そっか…頑張る…!」


私はアキトに褒められたかったのか。分からない。でも、頑張ろうと思えた。




いつの間にか、私の頭の上に桜が大量に積まれていたらしい。アキトが私の頭を撫でるように触ってきた。


「へっ!?」


突然頭を触られたので変な声を出してしまった。


それでも、私は抵抗しなかった。それがアキトの優しさだと気づいたから。


「フユは…これが最後の春になるんだよな…」


私は突然、現実に引き戻されたかのような感じがした。


「うん。でも、私はアキトがそばいるならそれだけでいい気がする」


そうだ。私はアキトと会ったことで今まで知らなかったことを知れた。いや、「知る」という行為以上の経験が出来た気がする。これで良いんだ。


「うん。これからは、ずっと一緒だよ」


私の陰に隠れた黒い顔はアキトにはどう見えているのだろうか。






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