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掌編小説  作者: 唯野
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三題噺 天守閣 口紅 書く 

 ある日の昼下がり息子の部屋を掃除していると出てきたのは一枚の厚紙だった。それは昔息子が小学生くらいの時に描いた日本のお城の絵。そこには美しい天守閣が描かれていた。


「懐かしいわねぇ」


その時は親ばかとは思いつつも『マー君には才能があるわ!』なんて年甲斐もなく夫婦揃ってはしゃいでいたわ、なんせ全国の小学校から集められた数千枚の絵の中から上位入選したのだから。


「そんなマー君も今日は美大の合否発表に行っているのよね、受かっているといいけど」


すると、玄関の方で鍵の開く音がした、この時間に帰宅できるのは芽衣ちゃんやお父さんじゃないわよね……とすると──


「母さん、ただいまーー」


──やっぱり、私は急いで掃除道具を片付けるて居間に行くと、マー君が冷蔵庫からお茶を出していた。


「おかえりない、マー君結果はどうだった?」


「うん、ばっちり合格してたよー」


そう間延びした返事をしながら、コップを一気に煽り飲み干した。


「ホント!?やっぱりマー君は天才よっ!」


「大袈裟だよ母さん、それよりプレゼントがあるんだけど、いいかな?」


そう言うとカバンから徐に取り出したのは某化粧品メーカーの紙袋。普段から私が使うやつだけどなぜ今これをプレゼントしてきたのだろう。


「今日は母さんの誕生日でしょ?だから買って来たんだ、ほら口紅」


言われて思い出す。息子の受験発表の日ですっかり浮かれ、忘れてた自分の誕生日。この歳になってまだ誕生日プレゼントを貰えるなんて思いもしなかった。


「ありがとうマー君、ママ嬉しいわ……けどなんで口紅なの?」


「実は──」


そう言って語り始めたのはつい先ほど見つけた入選した絵の事だった。絵具が足りずに私の口紅を使って絵を完成させ提出したことだった。


「──知ってたわ、マー君が私の口紅を使っていたこと」


「え?」


話を遮って返した私の言葉に驚くマー君に見せたのは件の絵。


「この絵を見た時に、天守閣の手摺に使われている赤色を見た時ハッキリと。母さんこれでも色を見分けるのは人一倍すごいんだから」


「でも、じゃあなんで?」


「この絵が素敵だったからよ。用途に関係なく口紅の色を使いこなしているマー君のこの絵がね。でもありがとね打ち明けてくれて、それから改めておめでとう」


その後はお互いにお礼と謝罪を繰り返したけど、すぐに芽衣ちゃんが帰って来たので、三人でお祝いの料理を作って、お父さんの帰りを待ち。みんなでパーティをしたわ。こんな幸せな日々が続くのなら、知る必要のないことの方が多いのかもしれないわね。



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