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掌編小説  作者: 唯野
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三題噺  ぼたもち ペンギン 夏

旦那の運転する車から見えた景色は、懐かしさを覚える長閑な田園風景が広がっていた。



私はその景色を眺めながら、隣のチャイルドシートに座る愛娘を起こす。



「ほら、リホそろそろ起きて。おばあちゃん家に着くわよ?」



四歳と少しを迎えた、我が子に声を掛ける。このまま寝られては夜に寝ない可能性があるし、もうじき昼時なので家に着いたら御飯が用意している筈なのだ。



「う~、や~あ~。ねうの~」



「だめよ、ほらお友達のペンギンさんはもう起きてるわよ?」



「うぅ~、おはよ~ペンちゃん」



殺し文句とでもいば良いのだろうか、その一言で娘は瞼を擦りながら起きる。



そして脇に座っている実寸大よりも少し大きめに作られたペンギンのぬいぐるみに挨拶をしていた。



当然ぬいぐるみなので返事などしないが。



「うん、おはよー、リホちゃん」



そこにタイミングよく旦那が綺麗な裏声でペンギンに憑依し、会話を始めた。



◇◆◇◆◇◆


そうして、家族で和気藹々と話していると、祖父母家──私の実家に着いた。



「こんにちわはー」



「今年もお世話になりますねお義母さん」



「はいはい、よう来たねぇ~三人共。ゆっくりしていきなさいな」



私たちは挨拶もそこそこに思い思いに寛ぎ始めた。



居間のテーブルでは旦那と私、母さんがのんびりテレビを眺めながら近況報告を兼ねた雑談で花を咲かす。


少し離れた場所でおままごとをする孫娘と翁。


今年も平和にこの時間を迎えられて幸せを噛みしめていると、母さんが台所から牡丹餅を持ってきた。


「ほら、リホっ、父さんも牡丹餅持ってきたから食べなさい。塔さんちゃんと見ててね?」


「ああ、じいちゃんに任せなさい。」


食べやすいように小さくした牡丹餅を父さんがリホに食べさせる。


「あっ!ちょっ、リホっ!」


それから少しして、不意に旦那が声を上げた。


見るとリホが倒産が目を離した隙にペンギンぬいぐるみに牡丹餅をあげて、あちこちをあんこでベトベトにしていた。


その姿を見て私と母さんは互い見合って、吹きだした。


「血は争えないんだねぇ」



「だねぇ~、あ、一応言っとくけど、リホが自分であの人形を選んだからね?」



「そうかい、そこも似てるのね、可愛いわ~」


私も同じくらいの歳にまんま同じことをしている写真が残っていて随分と恥ずかしい思いもしたが。これもいい思いでだろう。



必死にリホを止めて掃除する男衆とその様子をぽけっと見ている愛娘を写真に収める為スマホを持ち立ち上がる。



「ほら、皆こっち向いて~笑って」


私は、かけがえない思い出がまた一つ増えたこの帰省感謝する。


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