悪意Ⅱ
「は?」
「どしたの。」
「今あんたなんて言ったの?」
校庭で鬼ごっこしている子たちに見つからない校舎の入り口、
ここは私がいつも使っているお気に入りのスポットでした。
しかし状況はいつもとは全く違いました。
目の前にいるカガ ヒカル、私にとってはどうということもない同級生の一人であった彼が今私の普通を脅かしています。
「オノくん財布を机の上に置きっぱでなしで外で遊んでたからそこからとって買ったってことだよ。」
「なんでそんなことしたの?」
「君がその本読んでるの知って読みたくなったから。」
「ごめん、なんでかって聞いたけど私が聞きたかったのはなんで人の財布からお金を取ったのってこと。」
カガはケロリとした顔で
「人のお金を使う方がなんだか気持ちいいじゃん。」
そう答えます。
「全然っ、わかんない。あんた頭おかしいよ。」
「君ならわかってくれると思ったのに。」
「何言ってんの。」
「君はクラスにいる他のことは違うんだろ?」
「なんの話よ!!」
「みんなを、世界をバカにしている顔してる。」
「きも。」
「だって君さっきの教室でも『きもきもきもきもきもきも!!』
発言に無理やり被せます。
こういうやつは喋らせないのが1番いいです。
ちなみにこの技はお母さんがよく私に黙って男を連れ込む時に使ってきます。
いつもしてやられてるんだから使ったっていいと思うのです。
「ねえ、話を『きもきもきもきも』
私に話を遮られて怒ったのかカガは私の首元に持っていた花瓶の破片を押し付けました。
脅しだと思いますが、こいつにはおそらく前科があるので言い切れません。
「何、してるの?」
「話を聞かない子にはこれが1番いいんだよ、父さんが僕によくこうやる。」
「……..ふ」
「どうしたの?今度は喋らない作戦?」
「ふふ、はははははははははははっー…はー。」
カガは困惑しているようで、その表情が余計に刺さりました。
「あ、あんたっ。面白いやつだね。」
「そうかな、僕はそう思ったことはあんまりないよ。」
「あんたは自分のこと嫌いなんだね。」
少しの黙っていたけどしばらくして
「違うよ、自分以外のみんなが好きなんだよ。」
とカガは答えました。
「好きな子からお金盗むの?」
「お金をなくしてお母さんに怒られてる姿も好きなんだよ。」
「なるほど。」
納得してしまいました。
「で、なんで私に声かけたの?」
「僕ね、悪魔なんだよ。」
「何言ってるの?」
「ほんとさ、ショーヘイを殺したのも僕だよ。」
やってはいけないことをやった罪を告白するというより淡々と事実を言ったように感じました。
「...なんであんなことしたの?ショーヘイはクラス皆んなで育ててた大事な——」
「本当にそう思ってた?」
「え?」
予想外の言葉に思わずたじろぎました。
「本当にみんなでショーヘイのこと育ててたの?」
「何が言いたいの。」
ジクジクと膿んだような気持ち悪さが心を覆います。
「ショーヘイを持ってきたのは先生で僕らは強制的に育てさせられた。もちろん楽しかったやつもいたかもしれないけど大半の人間はー
「面倒だった。」
カガはニカっと笑いました、さっきの先生とは違ってまっすぐな笑顔です。
彼が本心なのが伝わってきてなぜだか恐ろしく感じました。
「僕はこの学校の中にある押し付けが大嫌いだ、みんなそれぞれ決まった役を押し付けられる。オノがリーダー、キタダがみんなの代弁者、そして君はクラスのはぐれもの。」
「大人になっても同じだよ、そんなこと言っててもいつか役を押し付けられる。あんたは駄々こねてるだけ。」
私の母だってそうだ。いつも何者かになろうとしているけど結局は社会の爪弾きで誰かの特別になんかなれていません。
今日も昨日と違う男の人と遊んでいるんでしょう。
「だからせめて自分の欲しい役が欲しいんだよ僕は。」
「それが悪魔ってこと、将来の夢は犯罪者?」
「犯罪者は称号の一つだよ、全部ひっくるめて僕は悪魔になりたいんだ。」
「どうなったら悪魔の役がもらえるの?」
「悪魔であり続けることなんじゃないかなと僕は思ってる。」
「じゃあ誰も悪魔になれないよ。元から悪魔じゃないと。」
「だから僕は悪魔なんだよ。」
彼は背中のあたりを触った後、Tシャツを一気に脱ごうとする
「は、ああんた何を——
上裸になった彼だったが、私の注目は彼の背中に向いていた。
「あんた、それって….羽?」
「そうだよ、悪魔だからね。」
彼の背中には私たちの街にいるどれよりも大きく、烏よりも真っ黒い羽がありました。
「なんで羽が生えてるの?」
「悪魔っぽいことをしてたら生えていたのさ。」
「何に使うの?」
「使わないよ、あくまで称号の一つ。」
浮かぶぐらいならできるよ、といった彼は10センチほどの空中にしばらく浮かんでいました。
「ねえ、あんたは何をする気なの?」
「それは秘密、後でわかるから楽しみにしておいて。」
キンコーン カンコーン
キンコーン カンコーン
5時間目のチャイムがなります。
「僕を見てて。」
そういった彼の目は宝石のように輝いていました。