19 マグル領主との対談
私は、領主から呼び出されたことをレーグスに相談した。
「なるほど、とうとう目をつけられた、ということか……ランク6の足掛かりではあるが、自身の目的を忘れなければ問題ないだろう。」
「そうなのですか、何かほかに気を付けておくことはありますか?」
「なに、マグルを出るまでの厄介ごとの種さえ作らなければそれでいい。無難に受け流せ。」
「それにしても、なんで呼ばれたんでしょう?」
「行って聞いてみるのが早い。だいたいわかるがな。」
レーグスはかなり渋い顔をしている。ちょっと珍しい。
#
翌朝、私は呼び出しに従って領主の官邸に向かった。
呼び出しの紙を見せると、驚かれながらもすんなりと一室に通される。そして、待つ。ほどなくして、ドアが叩かれ、貴族らしい着飾った男と、護衛であろう無骨な男が入ってきた。
「私はここマグルとその周辺を任されている領主、エッシェンバル・バルバッサだ。アイリア殿、よく来てくれた。」
彼は、ここの貴族の礼なのだろうか、独特のポーズをする。
私は立ち上がり、冒険者としての礼をし、言葉を返す。
「この度はお招きいただきありがとうございます。賢者ゾルダンより名を授かったアイリアと申します。」
「なんと、賢者ゾルダンから名をつけられたというのか……うむ、まずは座ろう。」
そう言われて、彼が座ったのを見て、私は座る。
「君のことはいろいろ聞き及んでいる、なんでも冒険者としては様々な役割ができ、料理もでき、文字の読み書きもできるそうだね。」
「はい、ここでの体験は非常に勉強になっています。」
「なるほど、どうだろう、この館で料理人として働いたり、兵士の教官、または君が望む職を、十二分の給金で対応しようと考えている。」
「それは嬉しいご提案です。ですが、私は魔法大学を目指しており、こちらには一時的に滞在をしているにすぎません。」
「どうかな、仕事が嫌だというなら、良い婿を探してもよい。」
なるほど、なんとなくわかった。私を魔法大学、いや、ゼルフィーニア帝国に行かせたくないのだ。
「もうしわけありません。これは賢者ゾルダン様からのお言葉で、魔法大学に行くように言われているのです。」
「なんと、賢者様の言葉とあっては無下にできんな。」
「はい、ご希望に添えず残念です。」
「うむ、にしてもますます惜しくなった。このやり取り、言葉遣い、子供とは思えぬ対応力だ。ゼル、お前はどう感じる?」
「はっ、漂う魔力は尋常ではございません。賢者ゾルダンに見いだされたというのも本当でしょうし、私からはランク4である現状が不思議であります。また、私はこの者を安易にそばに置くのは怖く感じます。」
護衛の男はこちらを警戒している。といって、敵意があるかというとそういう感じでもない。任務なのだろう。
その男は魔力も感じ取れるらしい、レーグスと違って魔法か呪文魔術にも精通しているのだろうか。
「怖いか、ふふ、お前がそういうとはな。ならばなおのこと帝国には渡したくないが……アイリア、君の望みはなんだ、何を求める?」
「そうですね、世界について知りたいです。」
「そうか、名誉でも金でもなく、知の探究か……ふむ、こちらには魔術大学以上の手札もない。それに、知の探究だというなら、少し頭の隅に置いておいてほしいことがある。」
「なんでしょうか?」
「我がマゼルス王国とゼルフィーニア帝国の争いに、なるべく関わらないでもらいたい。どうかな?」
「お答えいたしかねます。もしかすると、知の探究になにがしか必要な情報との取引で、相対してしまうやもしれません。未来のことは、わかりませんゆえ。」
「できる限りで構わん。」
「わかりました、頭の隅に刻んでおきます。」
「助かる。」
こうして、私は領主の館を後にした。
#
ほどなく、領主エッシェンバルとゼルは二人で執務室で話をしていた。
「ゼルよ、あの少女をどうすべきと考える?」
「どうもできませんし、どうもすべきでもございません。恐らくですが、手に負えません。」
「どういうことだ?」
「アイリアは一見少女の姿をしています。しかし、それは見た目だけ、アレは誰かの手中に収まる存在ではありません。英雄ロイスかはたまた悪魔王グラーツのように国ですらなんともできぬ存在かと。」
「それは帝国も同じか?」
「はい」
「なら、そう願うしかあるまい。」
#
アイリアは胸をなでおろしつつ、館を後にし、料理の食材を買いに向かった。
領主エッシェンバルは話の通じる人でよかった。ああならず、強引にどうしても館の職に就けとされたら、どうしたもんか、非常に難しい。
いざというときは、そそくさと街を出るということになったのだろうか?
今はまだ目指している地へと向かう途中だからいい。だが、これが逃れられぬ魔法大学で、となるとかなり困ったことになるような気がする。
いつものお店でささっと買い物をして、今日は麺料理に挑戦だ。パスタができるならラーメン的なものも可能ではないか、という挑戦である。
まぁ、残念ながらそれが作れたところで、ラーメンを理解して喜んでくれる人はいないわけだが。
と、頭の思考が持っていかれつつも、てきぱきと料理が進みできていく。宿の料理人さんは興味深そうに見ている。はたから見たら、謎の料理だ。
それをレーグスやリミィにごちそうすると、不思議だ、とか美味いと評判だった。あと、領主との件も伝えておく。
「予想通りだな。今回は、アイリアの目指すところが武ではないのが幸いしたのかもしれん。」
「おぉ、このつるつる食べるの面白ーい。」
ちなみにラーメンはフォーク的なもので二人は食べている。私はお箸を使っているが。
「アイリアは変な食べ方するね、棒二つで食べるなんて器用ー。」
「辺境でそういう食べ方があるって本に書いてあったのよ」
とりあえず、その辺はごまかしておいた。