11 はじめての1人での依頼
アイリアは買った魔法の本をざっと読み進める。
それは、料理の本と比べると難しいものだったが、ひとまずざっと記録して文字解析し、頭の中で目録をつくり、検索しやすいようにしていく。
探知魔法というのは、系統があるそうだ。
まず、その初歩は他者の魔力を感じ取ることと、その魔力の密度、そして魔力の色、揺らぎから類推する探知である。
そう、魔力にも色、と呼べるものがあるというのだ。それを獲得する訓練も載っている。ふむふむ、興味深い。
そして基礎にはこのような文言があった『魔力とは魂である』だ。
魔力と魂は密接な関係、またはそれに近しいものであると認識されているらしい。たしかにゾルダンも魔力の大きさの時に魂の話もしていた。
つまり、魂に色があるとも言い変えることができるだろう。私の魂の色は何色なのだろう。
別の探知は、自身の魔力を薄く空間上に漂わせて触覚とするものだ。この類推は当たっていた。
正確には、触覚だけではなく、嗅覚、味覚など感覚なら何でもかのうなのだという。
この練習はすごく簡単で、そもそもまず引き延ばさないで感覚を得てみるところからはじめるのが早いらしい。
たとえば、スープに指を突っ込んで味を感じるようなことをが訓練の初歩である。塩を手に取ってしょっぱさを感じられたら良いわけだ。
その魔力の感覚化をいろいろと変化させていくことで、視覚、触覚、嗅覚、聴覚などに応用できる。
しかし、それがなんであるかは、結局のところ五感でわかる程度に限定されるとのことだ。そして、自身の魔力の空間を大きく創ることもまた難しい。
つづいて、自身の魔力を反響させて感知するという放出と魔力感知を使う方法である。
雰囲気としてはソナーやレーダーに近い。魔力を周囲に薄くなるべく球を意識するように放ち、その戻ってくる自分の魔力を観測して把握するという。
このとき、放つ魔力をうまく変質させて反射条件を変えることにより、返ってくるものを限定できる。
つまり、石壁に限定したり、人に限定したりといったことが可能なのだという。
ただしこれにも欠点がある。そもそもこれを実際になしえたのはごく一部の達人らしい。先天的に魔法に長け、赤ん坊のころからそうやって判別するしかなかった目の見えないものなど、特殊な条件でないと到達できないそうだ。
そういう雰囲気は、絶対音感に近いだろうか。おそらく、後天的に訓練で計算処理を身に着けることが困難だからだと思われる。
いずれも一長一短で、即席でできるものではなさそうだが、ゆっくりと試行錯誤していくとしよう。
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その日もレーグスは夜遅くに帰ってきた。ただ、酔っぱらってはいなかったが何か居心地が悪そうだった。
リミィからも距離をとられている気がする。
しかたがない、ミルグレンにレーグスのことは任せたしあとは待ちつつ、その間にやれることをやろうと、今日はとりあえず寝ることにした。
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翌日、私は一人で冒険者ギルドに行って簡単な依頼を受ける。そういえば、一人で受けるのは初めてだった。
それはレーグスがいない寂しさよりも、独り立ちで来た気がしてなんだかうれしかった。
といっても、受けられる依頼は雑用もいいところ、荷物運びの手伝いだ。
依頼人のところに出向いて、荷物を運ぶ。身体を魔法で強化はできても、大人用のサイズの荷物は少し運びにくい。
腕とか延長できたら便利だろうなぁとふと思った。うん、まぁ魔法の実験はいろいろ山積みなので後回しにしよう。
まだ、魔法の本の一部も実践できていない。
荷物運びをする人たちと、少し言葉を交わしながら、作業は終わっていく。
荷物の中身は食材だ。不思議なもので、リンゴのようなものも切れば中身はぶよぶよのゼリーなのだ。
他も変わらない。人間も実はそうらしく、髪の毛を切ると切断面がぶよぶよのゼリー状である。
こちらの世界の人にとっては普通なのだと思うが、元の世界の人ならきっと気持ち悪いと思ったに違いない。
ただ、ゼリー状といっても食べ物はその食感はいろいろある。シャクっとしていたり、ぶよんとしていたり、中身がじゅわっとでるようなものなどいろいろある。
荷物運び自体は単純な肉体労働なので、ほどほど年の近そうな、そもそも自分の年齢が分からないが、そういう人もいて、少し話したりもした。
子沢山の家庭の長男で、頑張らないといけないらしい。
こちらの世界はまだまだ単純労働も多く、文字の読み書きができなくとも労働力となる時代なのだろう。
科学の代わりに魔法が発展して、というわけでもどうやらないらしい。
魔法が使えるのはごく一部、才能がある人に限られるのだという。
エルフなどの一部種族は有利で、小さな妖精もほどほど有利、人間はピンキリで、獣人は苦手といったあんばいだそうだ。
そういえば、レーグスも魔法関連は苦手だと言っていた。
一緒に仕事をする人たちの中には、最初は私におびえている人もいたが、楽しそうに仕事をこなしていくと安心したのか、そういう雰囲気も消えていった。
そうして仕事は終え、ギルドに戻り対価を受け取る。1人の1回目にしては上出来であり、それでいて、なんのへんてつもないような、輪が広がったのかそうでないのか、不思議な感じだった。
あまり達成感を感じることはできなかった。仕事だし、そういうものかもしれない。
そもそも、私は一体何を楽しむのだろう。リミィをお仕置きするのは楽しいが、まぁ、それは横に置いておいて、私にとって幸せとは何なのだろう。
これまで観測者としてあり続けた私は、人間であるからこそできることをやってみようと漠然と考えていた。
だが、それだけではだめなのかもしれない。やれるからやるではいけないような気がする。