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75話 特別待遇


佐藤響の中で秘書と言えばビシッとスーツで決めた女性だ。

ついでに言えば眼鏡のイメージもある。


目の前のウルはどうだろうか。

派手な赤髪を長く伸ばし、勿論スーツなど着る訳もなく私服。


ザ魔法使いのような大きめのとんがりボウシを被り、これまた魔法使いのイメージ通りのローブを羽織っている。


ちなみに言えば出る所も出ていない。


そして不法侵入した上に我が家のように寛ぎ、ポテチを食い漁る始末。

もっと言えばこのポテチは響のものであり、持参してすらない。


響が、こんな秘書がいてたまるか、といった憤りを覚えるのも無理はない。


副会長秘書と言えばクラッドの秘書のはずだが、彼も相当苦労しているのだろう。

控えめに言っても事務仕事やスケジュール管理などの仕事は出来なさそうだ。


「……!! 響、誰……!!」


それに加えて話し声を聞きつけてミアが入ってきた。

どうやらお怒りのようで、ウルの事を睨み付けている。


「む、お主こそ誰なのじゃ!」

「お前は1回黙っててくれ。あー、俺もいまいちよく分かってないんだけど……なんか組合の秘書らしい。多分」


らしい、とか多分、とかつけているのは名刺は本物だが、どうにもその事実が受け入れられないからである。


「……秘書……? ふっ、これが……?」


つま先からてっぺんまで一瞥し、とりわけ胸の部分を見てミアは鼻で笑った。

体型で言えば似たようなものなのだが、それは言うまい。


「~っ! なにを笑っておるのじゃこのつるぺた! わしはまだ成長期なのじゃ! その内わしだってワガママボデーになるのじゃ!」


ミアの視線の先を察してか、胸を隠しぎゃーぎゃーと喚くウル。

どうやらワガママボデーとやらに成長する確信はあるようだ。


「おい喧嘩すんなよ……それで? 秘書様(笑)は一体なんの用で来たんだ?」


間に入り仲裁するも、両方からバチバチとした視線を感じる。


「はっ! そうじゃポテチの罠にかかり忘れる所じゃった……! クラッドからこれを渡すように頼まれたのじゃ!」


そう言ってベタベタな手でポケットからグシャグシャな紙を取り出した。

クラッドからという事は副会長からのという事だが、それをこんなにも雑に扱っていいものだろうか。


そんな疑問が浮かんだが、多分言ったところで無駄だろう。

という結論を出して何も言わずにその紙を広げた。


「まじか」


書面に書かれていることをざっくり纏めると、特別にA級と同等の資格をあげちゃうよ、との事。

後ろからこっそり覗いているミアは目を見開いた。


「……すごい。……響、A級……!」

「いやそれはちょっと違うけど……でも、これ大丈夫なのか……?」


あからさまな特別待遇。

勿論、この事を必要以上に広めるつもりなどないが、万が一広まってしまったらそれはそれで面倒になりそうだ。


しかし、メリットの方が圧倒的に大きいのもまた事実。

A級の資格証さえあれば、高難易度ダンジョンにも気にせず入れる。


これ以上強くなるにはBランクやAランクダンジョンの踏破は絶対条件だ。

ちまちまEランクやDランクなど行ったところで、レベルも上がらなければなんの収穫にもなりはしない。


「とにかくわしの仕事は終わりなのじゃ。早く帰ってげーむをするのじゃ!」

「あっ、おい!……なんて勝手なやつだ」


止める間もなくウルはだだだっと駆け出し、家を飛び出してしまった。


「……響、ご飯……食べる……?」


なんとも言えない空気の中、ミアは袋をぐっと持ち上げた。


「……そうだな! この事は後で考えればいいや。俺も作るの手伝おうか?」


と言っても大した事は出来ないのだが。


「ん……大、丈夫」


その提案にフルフルと首を振りそう言った。

今日は自分が1人で作るのだと言いたげな表情だった。


「わかった! じゃあお願いしようかな」

「……任せて」


それから準備ができるまでの間、響はトントントンとリズミカルな包丁の音を聴きながらこれまでの事を思い返していた


目目連を手にしてからというもの、休む暇もなくトラブル続きだ。

Dランクの荷物持ちに志願したと思えば、我妻の魔の手が襲いかかった。


ミアと出会いダンジョンに潜ったと思えば連結ダンジョンで人語を話すドラゴニュート、フラクタスとの死闘。


それが終わったと思ったら今度はディザスターゲートに、今回の騒動。


「この短期間で色々ありすぎじゃね……?」


目目連が全てのトリガーのように思えて仕方ない。

だが実際に、良くも悪くも全ては目目連から始まっているのだ。


もしあの時、目目連を手にしていなかったらと思うとゾッとする。


「ミアとも会えてなかったんだもんなぁ」


キッチンで料理に勤しむ小さな後ろ姿を見て呟いた。

その時、空気を読まずにぐぅぅぅと響の腹がなった。

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