48,5話 1章幕間 副会長の心労
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この身勝手な異世界に復讐を~異世界転移したら失敗作として捨てられた俺が《災厄の魔王》と呼ばれ、復讐を果たすその日まで~
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東京都新宿区にゲートが現れたのは丸1日前。
丁度響達が連結ダンジョンと知らずに、Dランクダンジョンのゲートをくぐった頃だ。
新宿に現れたダンジョンの難易度は、ずば抜けて高いAランク。
遂に2時間程前にそのゲートにたった一人で入っていった男がいた。
その男は有名なのか、どこからか駆けつけた大勢のマスコミ達がゲートを囲っている。
それぞれがカメラを持ち、期待した表情だった。
ふと、ゲートに波紋が走った。
「嘘だろ……?」
「まだ2時間しかたってないぞ!? 」
「何いってんだよ。あの人ならこんくらい朝飯前だっつーの」
「この間なんてBランクダンジョン30分だってよ。いよいよ人外だよな」
「はぁぁぁ……翼様のご尊顔を拝めるなんて……!」
褒めてるのか貶しているのか。一人変なのも居るが。
そんな中、ゲートから何食わぬ顔で出てきたのは最強の探索者馬渕翼だ。
マスコミの待機を予想していたのか、見るなりため息をついた。
パシャパシャと絶え間なくシャッターの音が響き、フラッシュが辺りを照らす。
──全くコイツら……毎回毎回どこから情報仕入れてくんだ?
切れ長の目が不機嫌そうにマスコミを捉えた。
「鬱陶しい奴らだな」
「馬渕さん! 今回の攻略──あれ?」
一人の記者が質問をなげかけている途中、翼の姿はもうどこにもなかった。
────
──
─
探索者組合本部副会長室。
「おいクラッド」
「はあ……あのっすね……ドアって知ってるっすか? そこ、マドって言うんすよ?クロードさん」
クラッドは驚きつつも、それを表に出さなくなる程度には慣れてきてた。
因みにだが、今二人がいる副会長は高層ビルの45階だ。
それを普通に窓から入ってくるとは、最早人間なのか疑いたくもなる。
翼は副会長室に入るなりドサッとソファに腰掛け、煙草に火をつけた。
キャスターの5ミリ。甘い香りが独特な煙草で、翼のお気に入りだ。
「ふぅ……」
「なんかリラックスしてる所悪いっすけど、ここ禁煙っすよ?」
「チッ……うるせぇな」
ボソリと呟いたが普通に聞こえているはずだ。
翼は携帯吸殻入れにしまう前に、限界まで吸い込んで、それから火を消した。
「いやだから禁煙っす。そのヤニカス精神どうなってるんすか本当にもう。それで? 今回はなんでまた急に……?」
いつも急にだけど、と思ったが言っても仕方ないのでやめておいた。
「ああ、最近ダンジョンの様子がおかしい。組合に報告は上がってないか?」
「ダンジョンの……? いや、特にないっすけど。因みにどう変なんっすか?」
副会長であるクラッドならば、何かしら異変が起きていれば直ぐに耳に入る。
しかしここ最近の報告でそれに該当するものは思い浮かばなかった。
「異様に強い個体が増えてきてる。まるであの時のアイツみたいな」
翼は過去にもその類のモンスターと対峙した事があった。
どうやらあまりいい思い出ではないらしく、苦い顔をしている。
「あー……ミノタウロス亜種の時っすね。って事はモンスターが進化する可能性が……?」
あの時のアイツ、とはミノタウロス亜種の事らしい。
数年前、翼はクラッドとパーティを組んでいた。
そこでダンジョンの攻略中、ボスよりも遥かに強いミノタウロス亜種と遭遇し撤退を余儀なくされた。
「わからねぇ。だけど、可能性はあるな。一応、ウルにも教えといてやれ。まあ、アイツなら気にせず灰にしそうだけどな。……ああ、それと組合の修練場貸してくれ」
「ウルちゃんはまあ……そうっすね。 修練場は別にいいっすけど……珍しいっすね」
世界一の探索者が未だ修練場とは、恐れ入る。一体どこまで強くなる気でいるのだろうか。
「あと、明日の昼にマスゴミ共を呼んでくれ」
「えっ……」
ニヤリと笑った翼を見て、なんだか嫌な予感がした。
クラッドは今すぐにでもここを飛び出して、話をさえぎりたかったが、それをする前にもう翼は口を開いていた。
「大会を開く。探索者の武闘大会だ。おい、なんだその顔は」
クラッドは心底面倒くさそうな顔をしていた。
どうせ翼が大会自体に大して興味が無いのは分かりきっている。
なにか別の目的があるのだろう。
「あのっすね……こっちにも予算ってのがあるんすよ。知ってるっすか?予算。……ヨサン!!」
あまりにも勝手な提案にバシバシと机を叩き、抗議の姿勢をとる。
しかし、それも想定内だったようで翼は、
「心配すんな。予算は俺が持つ。200億あれば足りるだろ? それに、優勝賞品は10億とコレだ。まともな探索者なら食いつくだろ。それにあのクソッタレ共もな」
翼はあるものを取りだし、得意げな顔でそう言った。
クラッドもそのクソッタレ共に心当たりがあるのか、大会の開催理由が腑に落ちた。
「あー……わかったっすっよ。最初からそれが目的なんすね……はあ、また会長に怒られるっす……」
「じゃあ頼むぜクラッド」
クラッドの悩みなど眼中にないのか、翼はそれだけ言い残すと窓から出ていった。
「あのヤニカスめ……明日からあの窓封鎖してやるっす。絶対に封鎖してやるっすーっ!!」
開け放たれた窓から、クラッドの悲しい叫びが夜の街にこだました。
次から2章です!