表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/131

3話 障子の怪物①


響の飛ばした警告はほんの少しばかり遅かった。

目を合わせてしまった数人は血を吐きながら、崩れ落ちる。

その中には高見もいた。痙攣し目や耳、鼻からも出血がある。


「た、助け……て」


消え入りそうな声でつぶやく高見と響は目が合った。まるで自分がやったのかと思うくらいの罪悪感と、この状況を打破しなければという使命感がぶつかり合っていた。


「全員下を見ろ!」


宮田が叫ぶ。彼は運良く障子から目を離していたようだ。他にも2人ほど無事な探索者がいる。

1人は先程怯えていた彼女だ。黒髪のショートカットで、大きな瞳は涙で潤んでいる。


「なんでぇ……ここEランクダンジョンじゃなかったの……?」


彼女は吉見梨沙。D級覚醒者であり、先日探索者としての資格を得たばかりだ。ダンジョン経験は上級組合員との探索1度きり。実質今回が初めての探索になる。


「くそ! 何人やられたかわかりゃしねぇ!」


無事だったもう1人大柄な男は不安を掻き消すように大声で怒鳴った。


「……6人」

「なんだって?」

「6人が目を合わせてしまったようです」


響は障子が視界に入らないようゆっくりと眼球を動かし、出来る限りの状況を把握した。

最弱の覚醒者はこの非常事態において、この場の誰よりも冷静だった。


「すみません、俺がもっと早く言っていれば……」

「いや、君が言ってくれなかったら全滅していた。4人動けるだけでもまだマシな方だ」


宮田は悔しいそうな顔で礼を言った。攻略隊のリーダーとしての自分の不甲斐なさを呪った。


──でも、この後どうすれば……? 巻物に続きはなかった。目を合わせないだけじゃ何も始まらない。ここはダンジョンで、あれはきっとモンスターだ。それなら……必ず何か攻略法があるはずだ!


だが問題は山積みだ。視界はかなり限定的で、敵の動きはわからない。それに加えこちらの戦力は半数以下。まだ死んだわけではないが、恐らくは重症だ。

その時、大柄の男神谷が立ち上がった。


「何をしている!? 分からない状況で動くんじゃない!」

「動かないでいつまでじっとしてるつもりだ? 明日か?明後日か? そうなりゃどの道餓死だ。別に俺は目を合わせようってんじゃない。ただ、あの障子をコイツでぶっ壊してやろうと思ってるだけだ」


神谷は目を瞑りながらも巨大な鉄製のハンマーを振り回し、右肩で担いだ。

確かに通常の障子ならハンマーの一撃をくらえば跡形もなく破壊されるだろう。


──多分、それじゃあ駄目だ。


響は直感でそれを悟っていた。なぜか、と言われれば理由は答えられない。故に神谷を止めることも出来なかった。


神谷は一瞬目を開け床を確認し、目を瞑ると障子の方へ歩いていった。


「おォりゃあああァァァッ!」


雄叫びと共にハンマーを振り上げ、障子に向けて力の限り振り下ろす。

が、障子はびくともしなかった。

そして不思議な事に、神谷はくの字に折れ曲がり後方へと吹っ飛んだ。


「──かはッ! お、俺の攻撃が……跳ね返っ、た……?」


神谷の言う事が本当ならば、障子を攻撃してもそのまま自分に返ってきてしまう。理屈は不明だが、モンスターの能力など大体の事は説明がつかない。

そして自身のフルパワーを不意にくらった神谷は、あろう事か目を開いてしまった。

そして勿論、無数の目が神谷を見ていた。


「ぐぁぁぁ──ッ!!」


悲痛な叫び声と共に崩れ落ち、全身から血液を垂れ流す。


「くそ! 一体どうすればいい!」

「落ち着いてください宮田さん。もう一度巻物を見て見ます。もしかしたら見落としがあるかもしれない」

「響君……すまない。俺とした事が、そうだな。俺ももう一度出来る限りこの部屋を探ってみる」

「わ、わたしも手伝います!」


こうして死の緊張と隣合わせの中、再び部屋の探索が始まった。


「これは──?」


先程は確かになかった文字が巻物に書かれている。見落としや見間違いなんかではない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ