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16話 F級舐めんな!


ボスを倒した事で外へと繋がるゲートが出現した。

楕円形の黒い空間に飛び込めば外に出る事ができる。


だがその為には我妻をどうにかしなければ後ろから刺されてしまう。

つまり事実上、我妻がボスという事だ。


「くふふ、蛇如き倒した所で何にも変わりませんよ。それどころか、貴方がダメージを負ってるじゃありませんか。そういう人を間抜けと言うんですよ」


我妻は、傷を負ってまでブラックサーペントの討伐を優先した響を嘲笑った。


「うるせぇ! お前は許さないぞ。牢屋にぶち込んでやるから覚悟しろよ」

「牢屋? F級の貴方が? くふふふふ、面白いですねェ。是非やってみて下さいよッ!」


言い終えると同時に我妻が視界から消える。

高速移動ではない。一瞬にしてパッと急に消えたのだ。


──こ、これが暗殺か!?


ふぅ、と深呼吸。目を閉じ耳を研ぎ澄ませ限界まで集中する。


──研ぎ澄ませ。集中しろ。一撃でいい……あいつにぶち込む!!!!


ふ、と空気が揺れた。


「今ッ!!!!」

「なッ! ぐっ!」


直感に身を委ね、振り向きざまに一閃。

何かを切った感触はある。

バックステップで距離をとった我妻。だが完全に回避は出来なかった。


右脚の膝から股に掛けて斜めに切り裂かれている。

どくどくと血が伝い、それは地面にまで達していた。

いかにレベルアップしたからといって、弱点特攻とジャイアントキリングがなければここまでのダメージはなかったはずだ。


「妙、ですね。どうやって暗殺を見破ったんですか?」

──本当にF級? 古傷は偶然にしても、何かおかしいですね。


チラリと自身の右脚を見る。どうやら本当に古傷があるようだ。

顔にこそ出さないが、機動力はかなり落ちたのは間違いない。


「F級だからって舐めてるからそうなンだよ!」

「佐藤響、貴方は危険です。確実に始末させてもらいます」


先程までの余裕の笑みは消え、響を正式に敵とみなした。


「おい、俺の事はもう忘れたのか?」

「──ッ!」


我妻が動こうとした瞬間、 顔面を火の球が襲う。

ギリギリの所で避けるが響はこの隙を見逃さなかった。


「おらァ!」


剣は使わずにタックル。回避行動のせいで体制が崩れている我妻は、それを受け吹っ飛んだ。

そしてその先にいる武田は戸惑う様子もなく剣を振り下ろす。


「ナイスだ響君」

「ぐあああッ! 雑魚風情が生意気な!」


武田の剣は背中に小さくない傷を残した。

ブラックサーペントとの一戦直後に右脚と背中を負傷。

それにより更に怒りが溜まり鬼の形相になっていく。

我妻は再び暗殺を使い姿を眩ませる。


──多分もう後ろからは来ない。だとするとどこから来る。

「……あれは?」


響の目に映ったのは、空中からポツポツと地面に垂れる血液。

姿を消した我妻だが、流れ出る血液までは隠せないらしい。


──くふふ、まずは武田俊哉を始末する。あのF級は後でゆっくり殺せばいい。


透明化状態の我妻は、暗殺スキルを2度も破られる事は想定していない。

したたる血液はゆっくりと移動し、やがて武田の正面で血溜まりを作った。


「武田さん伏せて!」

「む!?」


響は即座に距離を詰め剣を振るう。

短剣に弾かれたのか火花を散らし、高い音を響かせた。

同時に武田はポケットから何かを取りだし、響に見せつけると響はそれに無言で頷いた。


「くッ! なんでだ! 何度も何度もォ!」

「はっ、下をよく見てみろよ。そんなのあったら誰だって気が付くさ。B級探索者っつっても、頭の方は(・・・・)B級じゃないみたいだな?」


とんとん、と人差し指で頭を指し必要以上に煽る。


「~ッ! 底辺のF級風情が調子に乗るなあああァァァッ!!!!」


どうやら効果は上々。遙か格下の響に煽られブチ切れた我妻は唾液を飛ばしながら短剣を振り上げる。

その時だった。


二人の間に何か玉のような物が投げ込まれる。

そのタイミングで響は瞬時に目を瞑る。

そして──


「ぎゃああああ! 目がッ! 目があああァァァッ!!」


その玉は一瞬にして膨大な量の光を放った。閃光玉だ。

通常は大型モンスター等に使用するため、対人間用に作られてはいない。人間がその光を直視してしまえば暫くは目が見えないだろう。最悪、失明すら起こりうる程に強力な物だ。


両目を抑え悶える我妻。

そして2人がこんな絶好のチャンスを逃す訳もなく、


「響君、やっちまえ!」


駆け出し、大きく拳を振り上げ、


「F級! 舐めんなああああああッ!!!!」


F級の底力を乗せた渾身の一撃は、当然の如く我妻の顔面を捉えた。

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