128話 F級vsS級
響が翼のギルド明星に加入してから半年が過ぎた。
あれから狂信者はなんの行動も起こしていないが、それが不気味でならなかった。
恐らく水面下で動いているのだろうと言うのが満場一致の意見だ。
例の事件は国内を大混乱に陥れたが、翼と組合の会長カグヤの協力によって数日後には鎮火することに成功。
国内のギルドだけでなく、世界中のギルドに警告を促し各国が情報共有しているが、やはり狂信者の情報は掴めていない。
あの日、暴走してしまったエレナはその事に責任を感じ組合を脱退した。
周りは止めに入ったがエレナの性格からして、それに従うようことはしなかった。
彼女の人柄も、戦闘力もよく知っているので響は明星に来ないかと誘ったのだ。
最初こそ渋っていたエレナだったが、響の猛アプローチに折れ加入を決意した。
ミアは戦闘要員ではなく、調査班の班長として長い探索者生活の経験を活かして活躍中だ。
これは本人が望んだことであり、強制された訳ではない。
クラッドは組合を抜け、アルベルト共にダンジョンに潜り鍛錬を欠かさなかった。
二人ともあの日オシリスを仕留め切れなかったことが相当悔しかったらしい。
ただ、結果からして他のS級探索者でさえ幹部を仕留めてはいなかった。
謎の光に包まれた幹部達は消えてしまったが、到底死んだとは思えない。
響はいつかくる決戦の時に備え、時間を見つけては翼に手合わせをしてもらっている。
最初の方こそまるで歯が立たなかったが、3ヶ月を過ぎた頃から多少は戦闘らしくなっている。
ただ、響は全てのスキルを駆使しているのに対し、翼はなんのスキルも使っていないが。
なので、当面の目標はスキルを使わせる事に設定している。
そして中断された大会だが、多くの視聴者が再開して欲しいと声を上げた。
勿論あんな騒動があってすぐに再開できる訳もなく、今日までの半年間が必要だった訳だ。
あの日、中断され残っていた選手は四名。
大道寺と響。そしてエレナとフィオナだ。
ただ、響を除く三人は呆れた顔で辞退した。
大道寺は、「今のひびくんに勝てる訳ないじゃないの!」と憤慨。
エレナは単純にあの日、響に敗れたからという理由だ。
そして残るフィオナだが、「私、人外とは戦えません」との事。
結果的に響の一人勝ちな訳で本人はなんとも言えない気持ちだった。
それでも優勝は優勝ということで、賞金と副賞である魔核を貰った。それを本人よりも喜んでいたのはミアだった。
そして今、響は優勝者のもう一つの権利を行使しようとしていた。
「3ヶ月ぶり位ですか? 翼さんと戦うの」
修復工事が終わったばかりのドームには、挑戦者である響とそれを迎えうつ最強の探索者である翼が対峙している。
「そんなに空いたか。スキルくらいは使わせてくれよ? せっかく修行をつけてやったんだから」
くくく、となんだか翼は楽しそうだった。
あれから響は優先的に高ランクのダンジョンに潜り続けている。
レベルは既に300近い。もうS級探索者の域には十分に到達していた。
「そのつもりですよ。他のS級の方にも協力してもらいましたから、それくらいは出来ないと合わせる顔がないですからね」
VIP席では、3人のS級探索者がニヤニヤしながら開戦を待っていた。
カグヤを始め皆一様に、翼にやられた経験があり今度こそ彼が負ける様が見れるのではないかとワクワクしているのだ。
「私の結界で大丈夫かしら……」
既に自分達と同等以上の力を持つ響と、規格外の男の戦いだ。カグヤが不安に思うのも無理はない。
すると源内はセンベエをかじりながら、
「ふぉふぉ、どの道お前さんがダメなら他に手はないじゃろうて」
「あーあ、俺も馬渕さんとやりたかったなぁ」
シンは一人ぼやきながらも、開戦が待ち遠しい様子。
クラッドとアルベルト、リリアやウルもこの戦いを楽しみにしていた。そして勿論ミアも。
「どっちが勝つと思っすか?」
「さすがに兄貴だな」
「うーん、私も同じですね。あの人の負ける所は想像出来ませんから」
と、リリア。絶対的な信頼があるのだろう。
「わしはあやつに負けて欲しいのじゃ! たまにはボコボコにされてもいいじゃろ!」
しししと笑いながらそう言ったウルは、多分本心だ。
「……響は、負けない……!」
ミアはあれから響がどれだけ強くなったのか知っている。翼の強さも勿論だが、この3ヶ月で響は飛躍的に強くなった。
それを周りは知らないのだ。
「以外と綺麗に別れたっすね! 俺は……うーん……」
クラッドが悩みんでいるその時だった。
『さあ待たせたなお前ら! 戦いもなく終わっちまうと思ってたか!? 今日は最弱の覚醒者……F級の英雄が伝説に挑む日だ!! 俺としては是非とも勝って新たな伝説を作って欲しいと思ってるぜ!』
実況でお馴染みのジョンが声を上げた。
ドームには同時に大歓声が沸き上がる。
「今日こそ一泡吹かせてやりますよ」
響は鬼哭の切っ先を向け、やる気満々だ。
対する翼も響の成長を感じ取ったのか、双剣を構え全く隙がない。
「上等だ。かかってこいよ響」
両者睨み合い、ジョンの掛け声を待った。
『最弱対最強のプレミアムマッチ! さァ準備はいいか!? ──試合開始だァ!!!!』
最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。
俺たちの戦いはこれからだendみたいになってしまい、後味が悪いかと思います。
欲張ってダラダラ続けてしまい作品の質をこれ以上落とすのも嫌だったので、ひとまず!このタイミングでの完結とさせていただきます。
ありきたりですが、ここまで来れたのは皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました!
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この身勝手な異世界に復讐を~異世界転移したら失敗作として捨てられた俺が《災厄の魔王》と呼ばれ、復讐を果たすその日まで~
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結構自信作なので、よかったら見てやってください!(圧)