126話 狂信者の策略
ゴクリと固唾を呑んで前に座る翼のステータスを覗いてみる事にした。
──なんかこの人気付きそうで怖いけど……
【ステータス】
S級覚醒者 馬渕翼 Lv100
HP:29600 MP:8350
功績:天下無双 唯我独尊 覇王・極 頂点・極 人外・極 剣術・極
称号:かかってきやがれ! 破魔の英雄 原初の罪人 異界の旅人
力999+
防御力999+
知能999+
速度999+
精神力999+
スキル
・威神力Lv10
・韋駄天Lv10
ユニークスキル
・建御雷神
・影闇ノ王
アルティメットスキル
・神蝕ノ堕天使
・全能ノ神
「え”!?」
覗き見たステータスに思わず声にならない声が出た。
それに反応した翼が不審そうな顔でこちらを見たが、響は笑って誤魔化した。
──ステータスが……カンストしてる!? それになんだかよく分からないけど、功績と称号の数も凄いな……アルティメットスキルも二つとか、もう意味がわからないこの人……
翼は響がやっと手に入れた最強格のスキルと同格のスキルが二つ。更に通常のスキルもレベルはマックスであり、ユニークスキルも当然のように取得している。
なんだか死にものぐるいでゲオルギアスに勝ったのが馬鹿らしくなるほどのステータスだ。
世界最強と言うに相応しいと言えばそうなのだが、理外の存在という認識の方がいいのかもしれない。
ただこのステータスに驚愕してはいるものの、響はある事に気がついていなかった。
翼の圧倒的すぎる戦闘力は勿論なのだが、たった数ヶ月でS級に迫るほど成長している彼もまた理外の存在だと言うことに。
もっと言えば翼よりも響の方が明らかに成長速度は早い。臨界点によるレベル上限の解放と、最高に相性のいい志大才華、限界突破の効果は、元がF級覚醒者というのも相まって成長という点では群を抜いている。
数年もすれば翼の域に到達するのは目に見えていた。
そしてふと、翼がニヤリと笑った口を開いた。
「覗き見はすんだか? 直ぐに外にでる。いつでも動けるようにしとけよ」
「いっ!? 」
まさかバレているとは思わなかった響は変な声を出すだけで精一杯だった。
そして弁明する時間もないまま二人を乗せたドレイクは、ダンジョンから脱出したのだった。
─────
───
──
クラッド、アルベルトと対峙していた狂信者幹部のオシリス。戦況は大きく傾いていた。
オシリス率いる狂信者は数こそいるものの一人一人が強いわけではない。
対してクラッド達はたった二人だが、どちらも一騎当千の猛者、劣勢になることなく確実にオシリスを追い詰めていた。
クラッドは既に雑兵を片付けており、二対一の状況だ。
しかし、逆にそれが引っかかっていた。
──なんすかね、この感じ。想定した以上に楽すぎる気が……考えすぎ、だといいんすけど……何か見落としてる気がするっす。
狂信者達の異常性や恐ろしさはその身をもって味わっている。こちらも対策を立てたとはいえ、あまりに呆気なさすぎる。そう感じていたのだ。
「ぐッ……なるほど、言うだけの力はあるようですね」
ほとんどアルベルト一人相手にボロ雑巾のようになっているオシリスだが、焦っている様子はあまりない。
どちらかと言えば余裕すら感じとれるその態度に二人は疑問を抱いた。
「何を企んでやがる。魔核は兄貴が持ってるんだ。お前ら程度が束になった所で──」
「魔核は手に入れる必要がない……とか、言わないっすよね」
「クラッド、なにを……?」
嫌な予感がした。一筋の汗がクラッドの頬を伝う。
攻め込むにしても何故わざわざ雑兵をこちらの主力に当てるのか。数百数千ならばまだしも、たかだか十数人など足止めにもなりはしない。
それはオシリスとて分かっていたはずだった。
狂信者の狙いは大悪魔の解放を可能とする魔核である事は間違いない。
翼の話では狂信者はそのために活動し、わざわざ異界からゲートを繋げるほどに執着している。
そんな彼らがこの数年足踏みしているだけとは考えにくい。
翼の手にあれば奪われる事は絶対にない。この世でどの場所よりも安全なのは彼自身なのだから。
敵は四方から攻めてきている。恐らくオシリスの部隊と同じように、幹部が一人に雑兵が十数人。
とてもじゃないがS級のカグヤ達が簡単に負けるとは思えない。幹部は別として、確実に雑兵は仕留めているはずだ。
だが、この状況が狂信者が仕組んだものならどうだろう。
魔核を持っている翼がゲートへと入っていったのに、わざわざそのタイミングで攻めて来た。目的の物がないのにも関わらずだ。
翼が隔離されている間に、何か準備を進めていると考えても不自然ではない。
──確か、以前にも儀式がどうのって……
「まさかッ!?」
クラッドの頭の中で点と点が繋がった。
その時、オシリスはこちらを見て口角を上げた。
「くく、気が付きました? これ全部儀式の一環なんですよ。大悪魔スルトを召喚するためのね。スルト程の悪魔を召喚するには色々と準備が必要でしてねェ……例えば四方に血と贄を捧げる、とか」
二人が驚愕する中、オシリスは高笑いして「あとは」と続けた。
「魔核を持った彼がこちらに来れば儀式は完了、という訳ですが……ここまで予定通りに進むとは思わなかったですよ。くくく」
オシリスが言い終えた丁度その時。ドームの天蓋を突き破り、一体の黒竜が姿を現した。