123話 不屈の精神
落雷を命中させた代わりにブレスの余波を受けた響は、左肩に大きなダメージを受けてしまった。
しかしこの場合、それだけで済んだのは幸運だったのかもしれない。落雷の衝撃でゲオルギアスの口が閉じていなければ、命があったかどうかさえ怪しいのだから。
激痛が全身を駆け巡るがそれはゲオルギアスも同じ事。
ピンポイントで狙ったつもりだったが、思いのほか落雷は大きく、全身を穿つ結果となった。
それは勿論、弱点である逆鱗や眼球にもダメージはあったはずだ。
全身が黒く焼け焦げプスプスと煙が立ち昇る。
響がブレスを受けかなりのダメージを受けたように、ゲオルギアスもまた鳴神による特大の落雷により相当のダメージは受けている。
が、痛みにより鳴く事もなく、かと言ってのたうち回る様子もない。ただそこにいる。気を失っている訳でも無さそうだ。
なにせ黒焦げになって尚、隻眼は響を捉えている。
だと言うのに微動だにしないのはかえって不気味だった。
「げほっ……まだ、倒せないのか……!」
──まずいぞ、さっきので倒しきれないとしたら暴虐状態に移行しかねな……なんだ? 突然暗く──
響の思考を遮ったのは突然の暗闇だった。
魔法をくらった訳でも、物理攻撃を受けた訳でもない。
本当に突然、暗闇は訪れた。
その直後、身体が鉛のように重くなる。
間髪入れずにゲオルギアスの咆哮。視覚が奪われ全身で受ける爆音は感覚を狂わすのには十分だった。
「まさか……ユニークスキルか!?」
一つ、この暗闇に心当たりがあるとすれば目目連で見たゲオルギアスのユニークスキル、黒ノ世界。
速度を50パーセント減少させ、視覚を奪うスキルだ。
単体では攻撃的なスキルではないが、戦闘においてこれ程強力なスキルも他にない。速度を落とすだけでも十分脅威だが、それよりも視覚を奪うというのは強烈だ。
特殊な訓練でも受けてない限り、戦闘中に順応するのは非常に厳しい。
そもそもゲオルギアスが順応する時間と余裕を与えてくれるかと言えば、答えは否。そんな事があるはずがないのだ。
ふと、微かに空気が揺れた気がした。
──なにか来るッ!
同時にバックステップでその場を離れようとするも、速度減少の恐ろしさを痛感する事になる。
思い描いていた動きとは程遠い。鈍重なステップで瓦礫に躓き転倒する始末。
視覚を奪われた響は、最早ゲオルギアスと戦う所ではない。
降り注ぐ黒い矢に打たれながらやたらめったらに鬼哭を振り回す。少しでも被弾を減らすための行動だ。
「ぐっ……! ──がああぁぁッ!」
矢の次は巨大な尾によるなぎ払い。
避ける事も防ぐ事も出来ずその身に受け、吹き飛ばされる。
「──かはっ」
──くそ、呼吸が……!
正面は尾で、背面は壁で強打し強制的に肺の中の空気が体外へと放出される。
骨は軋み、肉は潰れ内臓に至ってはかなり損傷している。
控えめに言って満身創痍だった。
しかしゲオルギアスは手を止めることはしなかった。
ここぞとばかりに猛攻撃をしかけ、竜魔法で、尖爪で、ブレスで響の命を確実に削っていく。
──意識が……飛びそうだ。もう身体の感覚がない……
血溜まり浸かった身体は、ほんの少し動かそうとするだけで鋭い痛みがはしる。
変わらず視界は闇のまま。このまま光を見ることはないのだろうか。
──こんな所で……俺はなんの為にここまで来たんだ……
最弱から這い上がり、人並み以上の強さを手に入れた。
そしてミアと出会い、守り抜くと誓った。
──負けられないんだ、絶対に。まだ死ねない。俺はこんな所で死ぬ訳には行かないんだ。
「げほっ……か、帰るって約束した。ミアが……待ってるんだ……」
激痛と暗闇の世界で、ふとミアの笑顔を見た気がした。
こんな時だと言うのに、こんな状態だと言うのに不思議と負ける気はしなかった。
【スキル 不屈の精神がレベルアップしました】
【スキル 不屈の精神がレベル上限に達しました】
目目連の告知だけが暗闇の中で光っている。
最弱の覚醒者と嘲笑われていた時からの唯一のスキルが今、花を開こうとしている。
「お前なんかに……」
なんの役にたつのか、いまいち実感の湧かないスキルだった。
それでもこのスキルは最初から響と共に成長し、遂にレベル上限に達したのだ。
「お前なんかに──負ける訳にはいかないんだよッ!!!」
【スキル 不屈の精神がユニークスキルへと変化します】