116話 黒竜族の長①
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この身勝手な異世界に復讐を~異世界転移したら失敗作として捨てられた俺が《災厄の魔王》と呼ばれ、復讐を果たすその日まで~
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「この鎖を解いてはくれないか」
漆黒のドラゴニュートは確かにそう言った。
拘束する鎖は勿論ただの鉄ではない。鉄程度でモンスターを拘束出来れば苦労はない。
薄らと紫色の光を帯びている鎖は、なんらかの魔法か呪いの類が掛けられているのだろう。
それにより拘束した相手を苦しめているのだ。
翼と変わらない程度の体躯を艶のある黒い鱗が包む。炎のように赤い気高さを感じさせる眼。額に生えた捻れた角は神々しくも恐ろしい。
翼がこれまで見てきたドラゴニュートとは明らかに違っていた。
──これが噂の言葉を解するモンスターか……それにこいつ、ドラゴニュートじゃねぇな。この馬鹿みたいな重圧、ドラゴンか。
響が以前遭遇したフラクタスも言葉を解するドラゴニュートだったが、目の前のモンスターがそうでないのはすぐに分かった。
扉を開けた瞬間からねっとりへばりつくような気配。
それに加え拘束され弱っているというのにも関わらず、えげつない程の存在感。
これほどの存在がドラゴニュートであるはずがない。
「俺はてめぇを殺しに来たんだ。なんでわざわざご丁寧に拘束具を解いてやる必要があるんだ?」
翼の言う通りここで解放するメリットなど何一つない。どんな理由があるのかは知らないが、拘束され弱体化しているのなら討伐する側としてはこの上なく好都合だ。
「人間とは不思議なものだ。同族同士で憎しみ合い、争い、滅ぼそうとする。我ら竜族には到底理解できない事だ」
「だからどうした。それがお前の今の状況となんの関係がある」
意味深な発言に苛立ちを覚えるも、どこか引っかかる。
このドラゴニュートは何を言おうとしているのか、そして何を知っているのか。
直感的に聞いておいた方がいいと思い、双剣に掛けた手を止めた。
「我ら竜族に接触してきた人間達がいる」
「……なんだと?」
竜族に限らずダンジョンに生息するモンスターは、等しく幽世の存在だ。
元の世界が現世であり、その他無数に存在する全ての世界が幽世。ゲートはそれらを繋ぐ役割を持っている。
しかし、だからと言ってこちらから幽世に干渉出来るかと言われればそれは違う。
ゲート以外に幽世と現世を繋ぐ方法はない。いや、少なくとも翼は知らない。
そして接触してきた人間とは間違いなく狂信者の事だろう。
「奴らは竜王と盟約を交わし、偽神アスラの復活を企んでいる。我ら黒竜族はそれを阻止しようとしたがこのザマだ」
悔しそうに言うでもなく淡々と話すドラゴニュート。人間とは違い表に出ないだけなのか、それとも諦めが着いてしまっているのか。
──竜王は、まあ竜族の王だとわかるが……偽神アスラってのは初耳だな。大方、奴らが崇拝する悪魔がそいつなんだろうな。
恐らくだがこのドラゴニュートは黒竜族でも高位の存在。竜王に反発したためか、狂信者にやられたのかは定かではないが、そのどちらかが拘束された理由なのだろう。
思わぬ所で思わぬ情報を得た翼は、とりあえず最後まで話を聞いてみることにした。
ただ一切の隙はみせず、例え今襲われても直ぐに動けるように警戒は解いていないが。
「それで、結局なんでお前を解放しないとならないんだ? 情報提供はありがたいが、俺は別に頼んじゃいない。お前が勝手に喋った事だ。今のが交渉なんて言うなら、直ぐにでもその首切り落とすぞ」
あくまでも主導権はこちらにあると、翼はそう言っていた。実際、相手は拘束されているのでその通りなのだが。
「我は誇り高き黒竜族の長、ドレイク。直に自我もなくなり他のもの達同様に人間を襲い、そして殺されるだろう」
──自我がなくなる? エレナの奴と同じ魔法か。
ドレイクは精神汚染系の魔法に侵されており、自我の消滅を恐れていた。ドレイクによれば、ここに来るまでに翼が倒してきたドラゴン達も同様の魔法に侵されていたみたいだ。
「残念だが、仮にお前が拘束されたままでも俺に殺される。拘束を解いてやってもすぐに殺す。結果は何も変わらねぇよ」
「わかっているとも。強き者よ、我はお主には勝てないだろう。人の身でありながらよくもそこまで上り詰めたものだ。竜王と同等か……それ以上の力はあるらしいな」
ドレイクは翼の力を認めていた。ただ立っているだけの翼だが、その溢れ出る強さを感じないものはいない。
ドレイクは「我は」と続け、
「名誉ある死を望む。我が我である内に、黒竜族の誇りを忘れぬ内に果てたいのだ」
懇願とは違う。虚空を見つめ、ただそれを願った。誰に対してでもなく、自分自身に向かって言っているかのように。
翼はくしゃくしゃと頭を掻き、
「それなら、俺から一つ条件をだそう。お前の望みを叶えるかどうかはそれ次第だ」