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114話 応急処置


「エレナさん!! 早く、早く治療を──!!」


結論から言えば黎明ノ刻(デサフィアンテ)により、エレナの技は両断。威力は半減したものの、エレナはその身に最強の一撃を受けた。


ぶつかりあった衝撃波で会場は破壊され、その中心にエレナが横たわっている。

周りには血液が大量に飛び散り、その凄惨さをより一層と際立たせていた。


気を失っているが先程までの禍々しいオーラは消えている。恐らくは狂化状態が解除されたのだろう。

ここまでは良い。概ね響が思い描いていた通りだ。


残るはリリアの治療に全てがかかっている。

右肩から左の腰にかけて大きな太刀傷。ドバドバと出血し、鬼哭の特殊効果のせいもありその勢いは衰えることは無かった。

多くの雷撃を受けたせいもあり皮膚はただれ、酷い有様だった。

このまま傍観していれば数分もしないうちに失血死してしまうだろう。


たった一秒が命取りになる。リリアは既に駆け出しているがそれでも叫ばずにはいられない。


「なんて威力……すぐに始めます。──女神の抱擁(めがみのほうよう)


リリアは横たわるエレナの横で祈るように目を閉じた。

すると二人の下に緑色の魔法陣が浮かび上がり、淡く光る白い女神がそっとエレナを抱きしめた。


時間にしたらほんの数秒だ。

しかしそれを見ている響には随分と長く感じた。

やがて女神は光の粒子となり消えると、ドバドバと流れていた血は止まり、傷も塞がった。

が、それでもまだ完全ではないだろう。見た目が綺麗になっただけで、完全回復とは言い難い。


「凄い、傷が……」

「応急処置は終わりました。これでひとまずは安心してもいいと思います。でも、精神汚染が長かったせいか、いつ目を覚ますかまでは……」


伏し目がちにそういったリリアだったが、響からしたらそれでも十分すぎる内容だった。

響は深く頭をさげると、


「ありがとうございます。リリアさんが居なかったら、多分止められませんでした。本当に、ありがとうございました」

「そんな……大袈裟ですよ」


事実、響の蘇生の件も、エレナの件もどちらをとっても彼女がいなければなし得ない結果だ。断じて大袈裟なんかではない。

ただそれは勿論響にも当てはまる事であり、助太刀に馳せ参じた大道寺やアルフレッドもまた然り。


誰か一人でも欠けていたら違う結果になっていたのは明白だった。


すると響の身体がほんのりと暖かな光に包まれた。


「これは……」

「──天使の微笑(てんしのほほえみ)。佐藤さん、行くつもりなんですよね?」


顔を上げると微笑身をうかべたリリアが回復魔法をかけていた。

響ならば、この後ディザスターゲートへと足を運ぶだろうと察しての事だった。


随分と消耗してしまった響からすると、ありがたすぎる行いだ。


「はい、そのつもりです」

「あの人は、無茶ばかりするんです。私も行きたい気持ちはあるんですけど、もうあまり魔法も使えなさそうなので……私は彼女を安全な所に避難させます。あの人……クロードさんの事よろしくお願いします」


礼を言おうとしていた響だが、リリアに先を越されてしまった。

ぺこりと頭を下げた彼女は、本当に翼の事を大切に思っているのだろう。


あの圧倒的な戦闘力を誇る彼を、ここまで心配する人間など他にはいない。


それを少し羨ましく思う響だが、今はそれよりもやるべき事がある。


──ドームの外も騒がしい。少しでも早くクリアして翼さんを自由にしないと……


この時の響はまだ知らないが、ドーム周辺ではクラッド達とS級探索者が狂信者達と戦闘中だ。

最早何が起きるか想像もつかない。翼を一刻も早くディザスターゲートから解放しなければならない。


「リリアさん、何から何までありがとうございます。俺、行ってきま──ミア……?」


ゲートに向かおうとした矢先、遠くからミアが駆けて来るのが見えて足を止めた。


「響……どこ、行くの……?」


どこか不安そうな顔でミアが聞いた。

何も言わなくても、この破壊し尽くされた会場を見れば何があったかは想像出来る。


「ごめん、翼さんの所に行かなくちゃ……って、ミア?」


言いかけた所でミアは響を強く抱き締めた。

きっと止めても聞いてくれない。それは目を見ればすぐに分かった。


出来ることなら隣に立って戦いたいが、足手まといになる事くらい行かなくてもわかる。


「ちゃんと……帰って、来て……約束」


潤んだ瞳で響を見上げ、そっと小指を差し出した。

すると響は微笑んで小指を絡ませた。


「うん、約束だ。ミアはリリアさんと避難して欲しい。大丈夫、必ず戻るから」

「ん……わかった……響、大……好き……!」


それだけ言うと顔を真っ赤にさせながら、とてとてとエレナを担ぐのを手伝いに行った。


──俺もだよミア。

「さて、行きますか」


未だ口を開けている赤いゲートの前に立ち、覚悟を決める。

翼がいるとはいえ、Aランクのディザスターゲートだ。まず間違いなく、これまでで最も高難易度だ。

ほんの僅かな油断で命を落としかねない。


そして一歩踏み出したその時、


「水臭いわね。あたし達だってまだ戦えるわ」

「ヘイ! サポートなら任せろよユー!」


振り返ると、そこには大道寺とアルフレッド。

リリアに治療してもらったおかげか、受けた傷はほとんどなくなっている。


「大道寺さん、アルフレッドさん……! お二人が一緒なら心強いです! 行きましょう。一刻も早くゲートを閉じないと……!」

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