113話 全力全開
アルベルトの拳はオシリスの頭部よりも更に上の中空を殴りつけた。
そこから下に向かって円形に広がる衝撃波が狂信者を襲った。
黒ローブの群れは吹き飛びなぎ倒され、這いつくばった。
衝撃波はそれだけに留まらず、大地を砕き広範囲に及ぶ地割れをも引き起こす。
オシリスは咄嗟に防御魔法を展開したものの、その強度は不十分。パリンと音が響くとすぐに破壊され、その余波を受け地面に叩きつけられる形となった。
「ミアちゃん、今っすよ! 逃げるっす!」
「ん……!」
正直どこへ行けばいいのか分からないミアだったが、この場に居ては二人の足を引っ張ってしまう事を察して崩れた包囲網を突破した。
彼女の足は自然と会場へ、つまりは響の元へと向かっていた。
「一緒に戦うの久しぶりっすねアルベルト」
凄まじい一撃ではあったが、その程度で終わるわけがないのを二人はよく分かっていた。
クラッドはニヤリと笑って槍を構え背をあずけると、アルベルトもまた同じように背を預けた。
「そうだな。俺のせいで皆には迷惑掛けちまった。今日こいつらをぶっ潰してあの戦いに終止符を打つ。副会長なんてやってて腕は鈍ってないだろうな?」
「はは、どうっすかね。正直戦闘自体結構久しぶりっすからねぇ」
とは言うものの、槍を構えたクラッドに隙らしい隙はない。
黒を基調とし、所々に赤のラインが入った三叉槍。見た目だけでも禍々しさがあるが、組合副会長の武器と言うのなら半端な代物ではないだろう。
「グッ……まさか貴方がここまで力をつけているとは……でも、この程度では私は倒せませんよ」
よろめき、血を吐きながら立ち上がるオシリス。
しかし、二人はそれも想定内だったようで特に驚く素振りもない。
崩拳をの衝撃波を間近で受けた信者達はその場に倒れ込んだままだが、外側にいた信者達は辛うじて無事だったようで10人ほどが立ち上がった。
「──魔装ゲイボルグ」
三叉槍から徐々に赤黒いオーラが溢れ、それはやがてクラッドを包み込んでいく。
魔装ゲイボルグは、一定時間力が200上昇し防御力が100減少する、背水の陣的なスキルでもある。
それに加え、命中補正と防御力無視、更に与ダメージの15パーセントが持続するというチート級のスキルだ。
開始早々全力を出すということは、オシリス達はそれだけ手強い相手だと言うことだ。
「なら俺も全力でやらないとな……! 鬼神化──」
両の拳に白炎を纏わせ、全身からは白銀のオーラが漲っている。神々しい見た目とは裏腹に、その表情からは凶暴性が滲み出ている。
力と防御力が100上昇し、40パーセントのダメージ減少。白炎の攻撃に限り与ダメージの10パーセントが回復し、状態異常無効とこちらも中々にぶっ壊れている。
が、アルベルトに限ってはこれだけでは終わらなかった。
「小覇王。クラッド、すぐに終わらせよう」
白銀のオーラに続き紫色のオーラが湧き出る。
こちらはHPMPが持続的に減少するが、それに比例して全ステータスが上昇していく。
さらに僅かではあるが、味方のステータスも上昇させる効果をも併せ持つ。
白炎での回復と小覇王はかなり相性がよく、単体で無双できる超攻撃型のスキルだ。
二人のスキルはユニークスキルであり、異世界にて手に入れたものだ。通常のスキルではここまでステータスに影響を及ぼすものはない。
二人とも覚醒等級こそAだが、その戦闘力はS級にも匹敵する。
「ちゃちゃっと片付けて、クロードさんの援護にいくっすよ! その頃には終わってそうっすけどね」
乾いた笑みを浮かべたクラッドは、信者の群れを一掃するべく地を蹴りつけた。