105話 黒い衝動①
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この身勝手な異世界に復讐を~異世界転移したら失敗作として捨てられた俺が《災厄の魔王》と呼ばれ、復讐を果たすその日まで~
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「……オカマ、強い……!」
VIP席から観戦しているミアは大道寺の戦闘力に驚き呟いた。
これまで響の対戦以外はあまり興味がなかった彼女は、大道寺の試合を初めて見るのだ。
一進一退の攻防を繰り広げ、見ている側もハラハラする展開だ。
そんな二人は今、次の一撃で決めようと話をつけた。
「やっぱ大道寺さんには苦戦してるっすね。あの人あれで、都内でかなり有名っすからねぇ」
「そりゃあそうだろうな。あのカマ野郎を瞬殺しやがったらS級の域だ。まだアイツにそこまでの力はねぇよ」
二人の言う通り、大道寺道山というオカマ系探索者は、高い実力とその濃ゆ過ぎるキャラも相まって都内では名が知れている。
確かに、一度見れば忘れられないような顔ではあるので納得だ。
そして翼は、まだと言っている。S級……つまり、自分と同等の領域に将来的には足を踏み入れると、そう言ったのだ。
「東京はあんなのがたくさんおるのか……? わしは東京がこわいのじゃ」
ウルは大道寺で溢れかえった都内を想像してしまったのか、顔色が悪くなっている。
随分と極端な発想だが、オカマパンデミックとなると恐ろしいことこの上ない。そんな東京なら誰も足を運ばないだろう。
「んなわけねぇだろ。それよりお前ら、そろそろいい頃合いだ。いつでも動ける準備をしておけ。ウルはその子を頼む」
「うむ、ひさひざに暴れるのじゃ!」
翼は意味深な発言をすると、吸っていたタバコの火を消して立ち上がった。
なんの事かまるで分かっていないミアだけ置いてけぼりでどんどん話が進んでいく。
「それはそうとして、エレナの様子がおかしいな。クラッド、リリアに連絡して会場を探らせてくれ。もしかしたら俺達は先手を打たれてるのかもしれねぇな」
Aブロックで圧倒的な力を見せつけてきたエレナだったが、翼の言う通り様子がおかしい。
相手がやり手なのは勿論のことだが、それだとしてもああも一方的な試合になるとは思えない。
「わかったっす! 直ぐに調べてもらうっす!」
スマホを操作しクラッドは翼の指示をリリアに伝えた。
対戦者であるフィオナは、威力こそ低いものの光の矢を大量に放ちエレナを追い込みつつある。
「逃げてばっかりじゃ戦いにならないですよ?」
挑発的な笑みを浮かべるフィオナと、その攻撃をギリギリで凌ぎ苦しい表情のエレナ。
致命打こそないものの、腕輪の耐久値は確実に減っている。
このまま続けば、未だ無傷のフィオナが勝利するのは必然だ。
──何故身体が自由に動かない。それに、この衝動は……一体私の身に何が起こっていると言うのだ!?
襲い来る大量の矢をなんとか弾きながら、不調の原因を探るも心当たりなど少しもない。
最初はフィオナの精神攻撃かと思ったが、彼女の様子から見てそうとは考えにくい。
そもそもステータス値的に、ここまで精神汚染の効果がある魔法やスキルを彼女が使えるとは思えない。
『おおっとエレナ選手、一体何があったんだ!? フィオナ選手が圧倒しているー! このまま押し切られてしまうのか!?』
エレナの異変にジョンを含め会場の全ての人間が気付いている。しかし、単に体調不良なのかとか、フィオナが強すぎるのかもだとか、相性が悪いだとかそんな事だろうと思っていた。
「くぅ……!」
遂に膝を突いてしまい、全身から嫌な汗が吹き出るのを感じた。
「……大丈夫ですか? 体調悪いなら棄権した方がいいと思うんですけど。それでも戦うなら、私も本気でやるけど……」
それを見たフィオナは攻撃の手を止め、一応の猶予を与える。あまりの手応えのなさと、彼女の顔色の悪さを考慮してのものだ。
「はぁ……はぁ……うぐッ! ぐ、あ、ああッ!」
突如頭を抱え込み悲痛な声を上げる。
「ね、ねぇってば! ちょっとこれ、本気でダメなやつですよね!? もう試合中止にして! よくわかんないけど、この人このままだとヤバそうだよ!」
『一体どうしたと言うのだエレナ選手!? 突然頭を抱えて苦しみ出してしまった! ええい、後で俺を恨まないでくれよ!? 救護班、救護班、大至急エレナ選手を診てくれい!』
いよいよ本格的に試合ができそうにないエレナを見て、フィオナが訴えると実況であるジョンはそれに応えた。
その間エレナはずっと呻き声をあげており、先程よりも苦しそうだ。
顔色も青く、体中の血管が浮き出ている。
「きゃっ!」
エレナは背をさすっているフィオナをふいに突き飛ばした。
「に、げ……ろ。今すぐ……もう、もた……ない」
「ちょっと!」
ドクンと一際大きく心臓が鼓動すると、抗えない心のうちから湧き出るどす黒い衝動がエレナの脳を支配した。
「ぐ──あああぁぁぁぁッ!!!!」
悲痛な叫び声を上げたエレナは、先程まで立ち上がる事も出来なかったのに、それが嘘であるかのように立ち上がり、剣を抜いた。
「え──?」
「ひひ、死ね」
狂気のこもった歪んだ笑みを浮かべ、呆然としているフィオナの首目掛けて剣を振るった。