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102話 デコピン


ものの数秒で勝負を決めた響はその後控え室にてアルベルトの試合を観戦していた。

どうやら彼は特に武器を使用せずに徒手格闘の戦闘スタイルらしい。もしくは対戦相手であるザイードが武器を使用するに値しないだけなのか。



「おい、武器は構えなくていいのかよこのスカシ野郎」


両刃のバトルアックスを構えたザイードは、アルベルトに無視されてからというもの彼を敵視している。


ザイードは少し細めの体型で刈り上げた頭と、 胸から頬に向けて彫られたタトゥー、目つきの悪さも相まって中々の悪人面だ。


未だ全身を包むローブとフードを取らないアルベルトは、余裕そうに鼻で笑った。


「いいからさっさとかかって来いよ。あっちはもう終わっちまったぞ?」


あっち、というのはBブロック……響とアルフレッドの事だ。二人は既に控え室に向かっている。


「チッ……いけ好かない野郎だ。叩ききってやる!」


ザイードは瞬時に距離を詰め、バトルアックスを下からすくい上げるように振るう。

アルベルトは焦ることなく、半歩後ろに下がり無駄のない回避。


だがそれは想定内だったのかアルベルトのすぐ後ろには巨大な土の壁が出現し退路を阻んだ。


「舐めてるから痛い目見るんだよ!」


更にその土壁からは無数の棘が伸び、上下左右前後と完璧に逃げ場のないアルベルトに襲いかかる。


『おおっと、ザイード選手! 上手く魔法で逃げ場をなくした後に全方位の攻撃だァ! これは避けられないぞアルベルト選手!』

「はぁ……お前じゃないな(・・・・・・・)


あるはこんな時だと言うのに退屈そうにため息をつき、そう呟いたその時だった。

右脚で地面を踏みつけると、アルベルトの周囲全方向に衝撃波が放たれ土壁もろともザイードを吹っ飛ばした。


「ぐあッ! な、なんだ今のは!? はや──」


空中で旋回し受身を取るが、アルベルトが何をしたのか分からない。困惑する暇もなく眼前にはアルベルトが迫り、迎撃するべくバトルアックス突き出す。


「遅せぇよ」


突き出された切っ先よりも、アルベルトの方が早かった。

右腕を出したかと思えば、親指で中指を抑え小さく力を溜め、懐に潜り込み更に距離を詰めた。

右手の照準を額に合わせる。俗に言うデコピンと言うやつだ。


「デコピンておま──」


言いかけた所でデコピンが炸裂。

デコピンとは思えないほどの威力で、頭部が大きく仰け反り脳が揺れる。

次に勢いに耐えられず足が地を離れ、身体ごと数回宙を回る。


「ん? これでも壊れないのかよ。それならちょっと痛くするぞ」


普通に考えればデコピンで腕輪の耐久値をゼロにできる訳がないが、ザイードを見ると相当の威力がある。


『デコピン炸裂ぅぅぅ! まさかこの大会でデコピンを見るとは思わなかった! そしてデコピンで人が吹っ飛ぶなんて思わなかった! 謎に包まれたアルベルト選手、中々ぶっ飛んでいるぞ!』


ジョンの実況と共に会場も大いに沸いた。

当の本人はそんな事を気にする素振りもなく、未だ落下を始めたザイードまで跳躍。


そして無防備な腹部目掛けて拳を叩き込んだ。

ザイードの身体はくの字に折れ曲がり、猛烈な勢いで地面へと激突し、同時に腕輪も砕け散った。


『Aブロック決着ぅぅぅ! 圧倒的な力を見せつけたアルベルト選手! 三回戦への切符を手に入れた! この男まだまだ底が見えない! 本気にさせる相手は誰なんだ!? とにかく次も楽しみな選手だ!』


アルベルトは大歓声の中、全く興味を持たずにスタスタと控え室へと向かった。




「ま、まじか」


モニターでアルベルトの試合を見ていた響は思わず呟いた。

決してザイードが弱かった訳ではない。それは響もよく分かっていた。アルベルトが強すぎたのだ。


ここまでの試合で圧倒的な力を見せつけたのは、三人。エレナ、アルベルト、そして響だ。

その響から見ても彼の強さは驚愕するに値した。


本気でやってもどうなるか、正直わからない。


「強いな、彼は」


その隣で同じように驚いていたのはエレナだった。

一回戦よりもやはり二回戦の方が残っている選手が強いのは当然だ。


消耗の度合いや本人の意思にもよるが、ポーションによりほぼ万全の状態での試合となると、純粋な戦闘力は大会が進む程に高くなっていく。


「そうですね。思ってたよりずっと……」

「貴公と当たる前に楽しみが出来たよ。さて、私は次なのでもう行くとするよ」


どうやら次はエレナの出番みたいだ。

ニヤリと笑った彼女が負ける姿などあまり想像出来ないが、それはアルベルトに対しても同じだった。


響が決勝に進む事が出来れば、このどちらかか、もしくはそれよりも強い猛者と当たるのだ。


──なんかワクワクしてきたな。早く、早く次の試合がしたい……!


と、変態的な思考の響はモニターを見つめながら一人口角を上げていた。

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