0話 最強の探索者
「全く冗談じゃねぇぞ。なんで俺が新人の引率なんかしなけゃりゃなんねぇんだ! 俺にはやる事があるってのに」
Cランクダンジョン最奥部、ボス部屋へと続く扉の前で馬渕翼はボヤいた。後ろには6人の新人探索者。
「あ、あの翼さん! ボスの前に質問いいですか……?」
荒れている翼の前に出たのは、切れ長で目つきの悪い翼とは対称的なタレ目の青年。
他の新人達は翼が荒れている事にビビって縮こまっていると言うのに、中々肝っ玉が座っている。
「なんだよ新人」
「さっきの……ドラゴニュートをやつけた時、どうやったのかなって。他は見えたんですけど、あの時だけ速すぎて……」
「……なに?」
翼はS級覚醒者だ。そして目の前の新人はF級。言わば最強と最弱。力の差は絶望するくらいに大きい。
だと言うのに、彼は翼の動きを見えていたと言っている。それが翼には信じられなかった。
「えっと、だから……」
「確かF級だっけ?」
言いかけた新人に被せて聞いた。
「はい……残念な事に」
「いやお前、才能あるぞ。それと、さっきのは俺のスキル威神力を使っただけだ。俺は動いちゃいない。くだらねぇ事聞いてねぇでさっさと行くぞ。俺はお前と違って忙しいんだ」
限りなく冷たい態度だが青年は最強の探索者に褒められた事が何よりも嬉しく、肝心の答えなど頭に入っていかなかった。
「俺、才能あるんだ……!!」