第3話
同日18時03分、A国東部N州。
「まずは『痔主のジョン』からです」
軍のヘリに乗り込んだルーカスとジェームズは空からある建物を探していた。
眼下に見える街はというとネオンの光が灯り始めた頃、目視では目的の建物が見つかりにくいので双眼鏡を使って探す。
「痔主か……不名誉なあだ名だな」
「元はフライングジョンって呼ばれてましたがね。Dチームのメンバーに痔をからかわれた結果敵を病気……特に『痔』にさせる魔法を多用した結果『痔主』と呼ばれるようになりました」
「で、そのあと君と一緒に軍を抜けた後ギャンブル中毒になってカジノに入り浸っていると」
「そうです。ご存じでなかったんですか?」
「君以外の人間とは交流という交流も無かったからね。お陰でこうして君に道案内を頼むことになった」
「そうですか……お?ありましたよ」
「よし!降下しろ!!」
「よーしよし!!次は26.27.29.30……コーナーだ!」
がやがやと活気に満ちた空間、そこはカジノの中だ。
目が痛くなりそうな赤いカーペット、スロットが大当たりした音、恐らく大負けしたであろう人間の甲高い悲鳴、どこもかしこも基本的にうるさいが特にうるさい場所があった。
ルーレットが置かれた場所、そこで化粧の濃い美女を隣に侍らせながら賭け事にいそしむ男が居る。
痩せぎすな茶髪の男、名前をジョン・クックと言った。
今回ルーカスが探しに来た人間の一人である。
「今日の俺はついてるぞ……!絶対来る!間違いない!」
そう言って持っていた色とりどりのチップの殆どを賭ける。
根拠は一切ない、だが勝てると確信して賭けた。
あとは回るルーレットを眺めて勝ったあとのポーズを決めるだけだ。
だがそんな興奮冷めやらぬ彼の元へと、ルーカス達が近づいた。
「ようジョン。盛り上がってるところ悪いが、俺と一緒に来てくれ。大統領命令だそうだ」
「うるせえ誰だか知らねぇが賭けの邪魔すんじゃ……え?」
賭けに集中していたはずのジョンだったがルーカスの声にチップを握る手が止まった。
「ルー……カス?」
「久しぶりだなジョン、随分やつれたじゃないか」
「嘘だろおい……何年ぶりだこの野郎!」
振り返ったジョンは感極まったのか持っていたチップが床に散らばるのも構わずルーカスに抱き着いた。
よくよく見れば目にうっすら涙を浮かべ頬を赤く染めている。
「来てくれないか。ビジネスの話だ」
「すまないが俺は賭けの途中だ。この勝負が終わるまでーー」
「紅の1です」
いつの間にか止まっていたルーレット、無情なディーラーが負けた人間から積み上げられたチップを回収していく。
「外れたな」
「あ、ああ……今日は勝利の女神に好かれてたはずなのに……」
「どうやら移り気の激しい女神だったみたいだな」
「ああ……」
「そんなすぐに裏切る女より、俺と来ないか?俺はお前を裏切らないぞ」
「……条件がある」
「なんだ?言ってみろ?」
「嫁にする言い訳を考えてくれ」
「いいだろう。さあ、行こう」