第2話
同日15時23分、A国軍基地。
「それで、一体なぜ私が呼び出されたのですか?」
椅子に深く腰掛け、入れられた苦みの強いコーヒーを飲みながら、一緒の部屋に居るジェームズを半ば睨みつけるように見る。
ルーカスは強制的に軍服を着せられ、なぜか沢山の軍人……軍服に付いた勲章をみるにかなりの高官が集まっている場所に居た。
「魔法を使える人間で、実績があり実力がある人間を連れてこいと言われてね。それで君を呼んだ。そして君に依頼したい仕事は……これだ」
口を開いたのはジェームズの隣に居た男。
ルーカスの前のスクリーンに映像を映しながら話を始めた。
「今から14時間前無人偵察機が撮影した映像だ。この通り酷い有様でな」
「ほう、これは……」
映し出された映像には牛の頭に人間の胴体を持ったミノタウルス、馬の胴に人間の上半身がくっついたケンタウロス、他にも多種多様な魔物の類が人間を襲っている。
映像の中には家に逃げ込んだ人間もいた。だが窓を割られ侵入され殺されている。
ほかにも銃を撃って抵抗している者もいたが数に任せた戦法を取る魔物の群れに殺された。
徹底的に人間だけを殺している。
「もう結構です。吐き気がする」
「その言葉が聞けて良かった。我々の作戦に協力できるな」
「そもそも拒否権などないのでしょう?」
その通りだ、そう力強く頷く男。
もはやイラつきすらしない。
「君にやってもらいたいことは魔王軍をまとめているリーダー……つまり魔王を討伐してほしいのだ」
「重要ですね。それでその魔王の顔は?」
「分からない」
「ふむ、なら居場所は?」
「分からない」
「……どのような力を有しているのかは?」
「恐らく他の魔物と同じく魔法を使えると思われるが……不明だ」
つまり何も分かっていないわけである。
「無茶苦茶ですね」
「その通りだ、だがもう君に頼らざるをえない。これとは別の映像……爆撃機Bー11からの映像だ」
映像が切り替わった。
そこに映し出されたのは投下される爆弾が空中で爆発する映像……
「これは……核ですか?」
「我々の住む土地を放射能で汚染させると思うかね?これはクラスター爆弾さ。地上に着弾する前に何者かに迎撃されている」
「他の爆撃機からも同様の報告がある。それどころか敵地に侵入した部隊から砲弾も着弾までに迎撃されたと報告されている」
「人間は入れるが飛来する爆弾などは殆ど迎撃されている。敵に魔法が使える魔物が大量に居るんだろう。制空権をとってもこれでは意味がない」
敵の総大将の顔は分からない、空中支援はない、大量の敵、そんな場所に行けとは……
「やれやれ。仕方ない。請け負いましょう」
「おお!やってくれるか」
逃げ道がないからそうするだけなのだが……彼らは喜んでくれた。
とはいえルーカス一人では無理だ。
『仲間』が要る。
「さて、私の仲間。『Dチーム』は何処です?作戦会議しないと」
ルーカスの言葉に高官たちは目を見合わせた。
「ここには君しか呼んでいないよ。君以外はその……どうにも軍務に適さない人間になってしまって」
言葉を選んで言っているジェームズにルーカスは呆れた。
「私は仲間が彼らだったから戦果を得られたのです。彼ら以外と組むことなどありえない。彼ら以外と組めというなら私は断固としてこの作戦に参加はしない」
「いやしかし……」
「これだけは絶対に譲りません」
この後30分、押し問答は続いた。