プロローグ
「おいおいやめとけって!」
「なんだよビビってんのか?」
「こいつ連れてきたやつ誰だよ。しらけちまうぜ」
ある夜、アホな若者達3人がライトの灯りを頼りに魔王が居たと伝えられる巨大な城へと肝試しに来ていた。
そこは古くから立ち入り禁止区域に指定されていたが彼等にはそんなものお構い無し。
缶ビール片手に城の中を探索し始めた。
「何が誰も入ったことないだ。見ろよ落書きまみれだ。ここは便所より汚いぜ」
「全くだ。っと、ここの扉なんだ?」
「やめとけ開けるなよ。絶対にだ!」
怯える仲間が止めるのも聞かず、奥へ奥へと進む彼等。
そんな時仲間の一人が奇妙な扉を見つけた。
「趣味の悪い扉だな。まるで生肉貼り付けたみたいだ」
「これでステーキでも焼くか?」
冗談交じりに目の前の扉に向き直る彼等、身の丈ほどの大きさのその扉は彼等が言うように生肉のような……まるで人間の腹を割り開いてそのまま扉にしたようなものだ。
正直気味が悪いことこの上ないが……
「よし、開けてみよう」
「マジかよ!?」
「ビビってんなら帰れよ。もしかしたら中に何かお宝があったりしてな」
「人が入りまくってんだ。そんなものあるかよ」
恐る恐る扉を押してみる……重そうな扉だったがそれは驚くほど簡単に開いた。
「……見てこいカルロ」
「え?」
「なんだここ……外よりきれいだぞ」
「落書きも無ければゴミもねぇ。ひょっとしたら本当に人が入ったことないのか?お宝もあるかもな」
「帰りてぇ……」
扉を開けて入った部屋はとてつもなく広い。
天井は彼らの身長の倍はあり、広さはフルオーケストラが開けそうなほど、床に使われているのは黒曜石のような材質をしている。
ただ……
「何も無いな」
「ああ」
「いや、あそこに何かあるぞ? ……剣?」
部屋の中心と思しき場所、ライトで照らし出されたそこに一本の剣が突き刺さっている。
金銀で派手に装飾された見る者を魅了する美しい長剣。
「お宝じゃないか。ハハッ!言ってみるもんだな!神様が俺達にお恵みをくれたぞ!」
「引っこ抜いてうっぱらおうぜ!」
「やめておこうぜ。罰が当たる」
あきらかに宝と思われるものを見て興奮を隠せない彼ら。
仲間の一人が剣の柄に手をかける。
「ほら、お前等も手伝え!」
「あいよ」
「大丈夫なんだろうな……」
3人が力を合わせ、全力で引っ張る。
ガラスを引っ掻いたような不快な音をあげながら徐々に徐々に剣が抜けていく……
そして。
「おッらああああああああああああああああああ!!!」
ついに床から剣が抜けた。
すさまじいまでの達成感が彼らの中にはあった。
「よっしゃあ!!」
「よーしとっとと帰ろう!毎日毎日ハンバーガーとコーラの生活におさらばだ!」
「は、はっは……」
喜びに満ちた彼らの表情。
そんな彼らの顔は次の瞬間には消え去ることになる。
『ほう、自ら封印を解きにくるとは……人間はどうやら間抜けになったのだな』
彼らの声ではない。
「へ?」
「え?」
「何だ?誰の声……」
脳に直接語り掛けてくるような感覚に陥る聞きなれない声に周囲を見渡す彼ら……
『礼を言うぞ間抜け。この儂を蘇らせてくれたことをな!!』
「な!?なんだァ!!テメェは!!」
誰も居ないはずの大広間、そこにはいつの間にか玉座のようなものが存在していた。
そしてそこに座るのは頭に角を生やしたあきらかに人間ではない何か……
『久しぶりの食事だ!喜べ間抜け共!この儂の養分となれることをな!!』
「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!」