目覚めたら
君はここで研究対象として扱う。
目覚めたらプレイヤーさんの声をした知らないお兄さんにそう告げられた。
逃げないと。
家のよりいくらか上等なベッドから飛び起きたけど、また赤いやつで拘束されてしまった。
動けない。逃げられない。
「君の身の安全は保証する、そういったであろう。」
透き通った声にひかれて初めてお兄さんの方を見た。
大理石みたいな違うようなタイル張りの床に、影が落ちてた。
靴が見えた。凹凸の少ないシンプルな革のブーツのようだ。
「ここには君を襲うものはいない。」
明るい壁の色と細かい装飾がなされた深い色の木製の棚が調和して見えた。
「君の特異な能力を研究するため、ここにつれてきた。」
その人は今まで知識としてあったが見たことなかったローブを装備していて、それは白を基調としたものでゆったりとしていた。
分厚い本をいくつか片手で持って、伸ばしているもう片方の手からは例の赤いやつが伸びてる。
「危険な行動を起こさない限り、君は処分されることはない。落ち着きなさい。」
緩く纏められている薄紫の髪色にびっくりしたが、鼻筋の通った凛とした印象の顔がちょっと不機嫌そうに私をみていた。
恐怖で固まっている私が落ち着いたように見えたのか、お兄さんは私の拘束を解いた。
「後程、私を含めた何人かでこれからの君のことを説明する。
それまでに身支度と、そこに用意させた茶と茶菓子でもつまんでいなさい。」
パタリ。
お兄さんが退室して大袈裟につくられたドアが閉まっても、しばらく私は動けなかった。
ぼんやりと部屋をみていたが、先程の棚には本がきれいに並んでいたり、ウサギのようなぬいぐるみがこっちを見てたり、上にはちょこんとした花瓶に小さいお花が飾られていた。
近くのテーブルもくるんとした脚になって楕円の額縁みたいな天板で、一つ一つがなんかおしゃれだった。
テーブルの上に置かれたティーポットから湯気が出ており、そういえばいい香りするなって思った。
お兄さんは身支度をって言っていた。
見回すとベッドの脇に置いてある椅子に服が置いてあった。これを着ろってことだろうか。
手にとって広げてみる。
麻のようだがもう少し滑らかな生成りの生地で、ボタンがわりに編み上げの紐で襟を開く形のチュニックだった。
外には同じ生地だが暗い色のズボン。鮮やかな青のチュチュのような透ける生地の細帯。
椅子の下には固そうな革勢の靴が置いてあった。
そういえば久々に着替えをするなぁ。
あそこでは水道が機能していないので洗濯もお風呂も出来なかったはずだ。
そもそも私に違う服とか設定されていたっけと思いに耽っていたが、無事に着替えが出来たので一旦考えるのを止めた。
肌寒かったので今までのもこもこカーディガンは装備しておくことにする。
そしてお茶だ。
華奢なティーセットには細やかで上品な花の絵柄がついていた。
金の縁が高級な印象を持たせる。
そのカップにお茶を注ぐと、いくらか時間が立っているはずなのにほわほわと湯気が上がった。
あぁ、いい香りだ。
注いだことで先程よりも強く感じ、改めてそう思った。
さわやかで少し渋みのある紅茶のものににしつこく感じさせない花の甘さ。
ティーセットに似合うお茶のようだ。
ひとくち恐る恐る飲むも、ほどよい温度と優しい味にほっとした。
傍らに置いてある布巾をめくった。
皿の上にクッキーやカップケーキがいくつか用意されていた。
キラキラと加工されそれらに乗せられてる果実は、均一に焼かれたクッキーたちを煌びやかに飾っており、食べて食べてと誘惑してくるようだった。
そのうちのひとつを手にとって照明にかかげる。きれい。
ぱくっ。甘くて香ばしくて、とっても美味しい。
少女の顔が初めて綻んだ。
ゲーム上でも設定されていない表情。それをしていることに少女は気づいていない。
茶を飲んで、菓子を食べを繰り返す。
先程まであった恐怖は取り払われ、見た目はともかく年相応に少女はティータイムを楽しんだ。
扉が開くまでのしばらくの間、この光景は続いた。
名乗りも進展も特にありませんでした…。