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もう嫌いなの。

作者: みいな

今思えば理不尽に縛り付けられていた。

小さい時から制約をつけられた。

親や兄妹といった家族から言われるのはいい。でも何にも関係ないこの人から、大学生になってまで何故こんなにも彼の言葉に縛り付けられるのだらうか。


*****


叶内紗良の第一印象はよく言えば真面目。悪く言えば印象にも残らない。

胸元まで伸びた黒髪に眼鏡のせいで表情は見えない。私服だって身体のラインが出るような服なんて着たこともない。それどころか毎日地味な服装に身を包んでいる。

講義はは真面目に出ているが生活態度と成績は比例しない。単位は落とさないが格別成績がいいわけでもなかった。

おまえに自己肯定感が低い。

友人はいるが本音を話せるような人などいなかった。

稀に大学でキラキラしているグループから見られ、笑われている気がするが、紗良は言い返すことなどできなかった。


*****


紗良とて幼少期から、自己肯定感が低いわけではなかった。

両親や兄2人はとても可愛がってくれた。

事実、紗良は美少女であった。華奢な体つきで大きな猫目、長いまつ毛、小さい鼻、ぷっくりとした唇。

誰がどう見ても美少女であった。

しかし、本人がその事実に気がついていなかったことが盲点であった。

小学校の入学式間近、隣に綺麗な夫婦と紗良と同い年の男の子が引っ越してきた。男の子-小鳥遊琥珀は綺麗な両親の遺伝子を受け継いでおり、日本人離れした美しい顔の持ち主だった。

琥珀と紗良の出会いは引っ越しの挨拶だった。紗良の家に綺麗な両親とともにやってきた。

紗良は『綺麗な男の子・・・。』と素直を思った。

「ほら、春から同じ学校みたいなのだから挨拶しなさい。」と彼の両親が彼に言う。

しかし彼は何も言わずにこちらを睨んでいる。

初めて向けられる感情に紗良は怖くなった。その後彼の両親が「照れているようだ。」と焦ってフォローしていたが、紗良の耳には入ってこなかった。

紗良はその日1日落ち込んだ。両親や兄が甘やかしてくれたが、それ以上に初対面の人から向けられる感情が怖かった。


次の日、母とともに庭で遊んでいたら彼が1人で家に来た。

昨日とは打って変わり笑顔で近づいてくる。昨日とは別の恐怖感だ。

母の後ろに隠れた沙良みて、彼は「昨日はごめんなさい。緊張しちゃって・・・。」と。

母は「わざわざ1人で謝りに来てくれるなんて凄いわね。」と彼を褒めていた。

紗良も笑顔の彼を見て、昨日の表情は何かの見間違えなのではないかと思った。

「私も初めましては緊張しちゃう。」と沙良が言うと彼はさらに顔を綻ばせた。

そこからは急激に紗良と彼は仲良くなった。

元々お隣さんであり、子供たちは同い年。仲良くならないはずがなかった。

小学校入学まで2週間余り、毎日顔を合わせ、朝から晩まで家で、公園で汚れるまで遊んだ。

素直な紗良は、一緒に遊んでくれる綺麗な顔の優しい同級生を好きにならずにはいられなかった。


彼は紗良に警戒されないよう少しずつ侵食していった。

そしてついに明日、入学式だと言う時に彼は言った。

「明日からこれ付けて欲しいな。」

手渡されたのは眼鏡。

「私おめめ悪くないよ?」と彼に言うが、綺麗な顔で懇願されては紗良も断れなかった。

「わかったよ。でもなんで?」と彼に問うが、彼はにっこり笑って教えてはくれなかった。


*****


眼鏡をかけ小学校に入った。

真新しい服を着て登校すると彼が「紗良ちゃんはもっとこんな服が似合うんじゃない?」などアドバイスしてくれた。

優しい彼が好む格好をしたいと思い紗良は彼の言うとうりにした。

そうやって彼の言う通りに過ごしていた。


少しして新しい友達ができた。

みんなで楽しくおしゃべりして過ごすが数日経つとその友達達は紗良を遠ざけるようになる。

それが繰り返し行われて紗良は徐々に内気になっていった。

彼は変わらず優しかったため、依存するように紗良は彼にくっついた。

もちろんそれを気に食わないものもいる。

大きないじめには発展しないが嫌がらせ等のことは何度もあった。だが彼は人気者。しょうがないと紗良は思い過ごしていた。


しかし、高校に上がる頃には思春期の男女と言うこともあり溝ができていた。

彼は冷たくなった。

家は隣なのにすれ違っても挨拶はなし、目も合わせてくれない。次第に紗良は苦しくなっていった。


そして決定的な出来事が起きる。

彼が放課後の教室で仲の良い数人で喋っていた。紗良は気づかれないように教室の前を通ろうとした時、紗良の名前が上がった。地味だの存在感がないだのよくある軽口ではあったが、彼がそれを否定せず笑っている姿にショックを受けた。

彼も同じように思っていたのだろうか、だとしたら冷たくなったのは私が可愛くないから・・・と紗良は思った。もう初恋には蓋をする。嫌いになろうと。

これを機に内気な紗良は更に自己肯定感が低くなっていった。


*****


大学に入学してからも高校の時のあの光景が目に焼き付いて離れない。

紗良を嘲笑う声が耳にこびりついて離れないのだ。

その結果地味な格好で目立ず過ごすことになった。


しかし転機が訪れた。ゼミの先輩だ。

先輩には就活のことについて色々質問していた。

大学生も後半になってくると好きなことをしてばかりではいられない。将来のために就活をしていかなければならない。

しかしそれは自己肯定感が低い紗良にとっては苦行でしかなかった。自分のことをアピールなどできない、秀でたこともない、果たしては私はどうすれば良いのか?と悩んでいた時に出会った先輩だ。

そして先輩は相談に乗ってくれているうちに紗良の内面から外観まで必要なことを伝えた。

まずは外見。髪の毛を切り、眼鏡を外したそれに合わせた服装にすること。内面に関しては徐々に交友関係を広げていくことを提案された。


紗良はまず思い切って外見を変えた。思い切ってショートカットにして、若干ではあるが髪の毛も染めた。メイクもした。

眼鏡は元々幼少期から彼に言われ付けていたものだから外すだけ。服装は先輩のアドバイス通り綺麗目のワンピースを着てみた。

先輩は綺麗になった紗良を見て頬を赤くした。

元々美少女であった紗良は、小顔が似合うショートカットに大きな猫目、まつ毛も長く美女になった。

そんな紗良を見て声をかけない人などいなかった。

自己肯定感が低く、内気な紗良は少しずつだが先輩や同級生、後輩など多くの人と関わり刺激をもらった。

もう過去に囚われないようにしようと心に決めて。


そして無事就活がおわり、内定をもらった。

それと同時に先輩から告白された。

内気な紗良を気にかけてくれた優しい人だった。この人ならこれからのことを一緒に考えてくれるかもしれないと紗良は思いながら帰路に着いた。

しかし家の前に着いた時に

「お前を変えた奴はだれた?」と低く唸るような声が聞こえた。

「っえ?」紗良は振り向くと数年ぶりに顔を合わせる彼がいた。

「なんのこと?今更なんの用事なのよ。」紗良は強気で言い返すが今度は手首を掴まれた。

「やめて、離して。今さら何。昔言ってた事破って気に障った?貴方の言葉から解放されたの。もう嫌いなの。」

手首を強く掴み直され連れていかれたのは彼の部屋。

ベットに乱暴に倒され手首を押さえつけられる。

「ねぇっ!やめっ!!」

やめてとは最後まで言えなかった。彼にキスされている。しかも深い。

なんとか逃れようとしても彼は片手で紗良の手首を頭上で抑え、もう片方の手で顔を固定されている。いつのまにか馬乗りにもなっている。

「っ、あ!やぁっ、!」

言葉を発しようものなら舌を入れられ口内を嬲られる。

まるで先ほど嫌いだと言った口を戒めるように。

紗良は今まで経験したことないような感覚に驚きつつも若干の快楽が混じっていることに戸惑いを覚えた。

「なあ、お前を変えた奴は誰だって聞いてるんだよ。」と先ほどと同じ質問が降ってきた。

紗良はもう息も絶え絶えで言葉など発せない。

「くそっ!」と苛立ったように言うと彼は服の中に手を入れてきた。

もう訳がわからない紗良はキャパオーバー。自分でも知らず知らずのうちに涙を流していた。

彼は身体中を触り、髪や首筋にキスを落としている最中であったが、紗良の様子が変わったため、顔を上げた。

涙を流している紗良を見ると彼は顔を歪めた。

「っは!泣くほど嫌なわけ?どれだけそいつのこと好きなんだよ・・・。俺はずっとお前しか見てないのにっ。お前だけが近くにいるだけで良かったのに。っうぅ。俺しか見えないように、誰も近づかないようにしてきたのにっ!なんで離れていくんだよっ!」嗚咽混じりの叫びだった。

貴方から離れたんじゃないかと紗良は思い、虚な目で彼を見た。しかし、彼の表情をみて何も言えなかった。

彼が泣いていた。

「可愛いのなんて初めから知っている。素直な性格も一生懸命なところも全部全部知ってるんだよ。なのになんで今更他のやつになんか取られなきゃならないんだよっ・・・。」


封印したはずの初恋が蘇る。

優しい琥珀くんが好き。

泥まみれになっても嫌な顔しないで抱きしめてくれた琥珀くんが好き。

何よりも琥珀くんの私を見ている目が好きだった。


手を抑えている力が弱まった。紗良は起き上がり、彼と対面するが彼は泣いていて目を合わせてくれない。

「・・琥珀くん。」

名前を呼ばれた彼はゆっくりこちらを見てくれた。

「な、まえっ・・」

「琥珀くん、私ずっと呼びたかったの。でも琥珀くんは離れていったから呼べなくなったの。私琥珀くんのこと大好きだったよ。でもこの気持ちは一度封印したの。そしてもう視界にも入れてくれないなら嫌いになろうって。ずっとそうしてきたから琥珀くんのこと嫌いだと思ってたけど違うみたい。嫌いだって言ったさっきより大好きだって言った今の方が気持ちがスッキリしているの。」

「っさ、ら!さら!紗良。ごめん、好きだ。愛してるんだ。何度だって謝るから!だから俺から離れないで。嫌いなんて言わないで。」


彼-琥珀くんは強く、強く抱きしめてきた。

琥珀くんはだいぶ歪んだ愛情を持っているようだ。

この愛情が心地いいと思う私も歪んでいるのかもしれない。

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