流れ星の流した涙
冬の童話祭2022向けの作品です。
昔々あるところに一つの流れ星がいました。
流れ星は不吉の象徴、誰かの命が尽きかけたとき流れ星は誕生する。流れ星はそんな自分が嫌いでした。
世界のどこかで人が死ぬ、そんなあやふやなコトしか報せられず、報せたところで何かが起こるわけでもない。
誰か何処で何時死ぬか。
そんな不吉の報せは人の心をただイタズラにかき乱すのみ。人は流れ星を見かけると何かに怯えるようにただ体を震わせて見上げるだけだった。
流れ星はただ人の役に立ちたかった。
誕生してはただ不吉な報せを撒き散らして空から地上に落下する、そんな自分の生涯に流れ星は自分の価値を見いだせなかったのです。
誰とも何とも交われず、誰もが話しかけてくれない。流れ星は自分の勤めを果たすと落下の途中で燃え尽きるか地上に落下する。落下したときはただ静かに地上で一つの石となって眠りにつきました。
人知れず涙をこぼしながら。
時間が経てば彼はまた不幸を報せる流れ星に生まれ変わって空から地上に目かけて降り注ぐ。彼は自分の生涯の無意味さに疲れきったように眠りにつきました。
そんなある日、眠りにつこうとした流れ星に一人の少年がそっと手を当てながら話しかけてきたのです。普段ならこんな不吉しか報せない自分に話しかけてくる人間なんていないはずなのに。
流れ星は不思議がるも、それでも初めて自分に話しかけてくれたその少年の話に耳を傾けることにしました。
「流れ星さん、あなたはどうして不吉しか報せてくれないの?」
そうか、こんな生涯が嫌ならやめればいいんだ。流れ星は少年の問いかけにそう考えるようになりました。
人に不幸しか報せられないから自分はこんなにも疲れるんだ。だったら幸せを伝えればいいんだ。
流れ星はそう考えて神様にお願いをしました。
神様、どうか僕の生涯を、役割を人の幸せのためのものにしてください。流れ星は必死に願った。すると神様は小さくため息を吐きながら流れ星に問いかけてきました。
本当にそれでいいのか? と。
流れ星は躊躇うことなく首を縦に振ると、神様はただ静かに分かった、と。そう言って彼の願いを叶えてくれました。
流れ星の姿を見た人間が願い事を三回口にするとその人の願いが叶う。彼の生涯は彼自身の望んだものとなりました。
流れ星は生まれて始めて地上に落下してから涙を流すことなく眠りにつくことができたのです。
しかしその頃から人々は大きく変わり始めました。
人々は流れ星が願いごとを叶えてくれると知って、争うようになったのです。流れ星は落下しやすい場所がある。
人々はそれを知っていました。
これまでは不吉の象徴でしかなかった流れ星を避けてそう言った場所から距離を取っていた人々が、今度はその場所をめぐって戦争を始めたのです。
戦争が起これば人が大勢死ぬ、流れ星はそんな悲しい人々の営みを目のあたりにして大粒の涙をこぼしました。
自分をめぐって多くの命が失われる。
そんな事実が信じられなくて、予想だにできず流れ星は驚き、愕然として大粒の涙をこぼしました。
この戦争は僕が原因だ。
流れ星はそう思いました。人々は簡単に幸せが手に入ると知って、その幸せを自分のものだけにしたいと考えて争っている。
幸せは本来簡単には手に入らないもの、自らの手で掴み取るもの。
他人から与えられるものでは決してない。
そして何よりも人は独占欲が強い。
だからその幸せが確実に手に入る僕という存在が人々の心を醜くしたのだ。
神様は知っていたのだろう。
人には不幸を報せるくらいが丁度いいと、不幸を報せれば人は自分を戒める。どうか自分の不幸ではありませんように、と。
だから皆んなで協力し合って生きていこうと考えられる。
それが一変して幸せを掴めるとなれば、戒めて手を取り合っていた人々が、その手を振りほどいて剣を握りしめる。
剣で人を切って、傷付けて、やられた仕返しにと剣を握りしめる。
流れ星は自分の過ちに気付いて神様にもう一度だけ役割を変えてほしいと願いました。
だけど神様は首を横に振って流れ星に言いました。願いを叶える私の力はお前に与えてしまった、だから私にその願いを叶える力はもう無い、と。
流れ星は神様の前で声が枯れるまで泣きました。彼は人々を幸せにしたいと純粋に願った、それは彼の本心からの優しさだった。
だけどその安易な優しさがかえって人々を争わせる結果を産んだ。
幸せを願う気持ちが争いを産んで、血と憎悪を絡ませる。
流れ星はこれまで以上に涙を流すようになりました。ずっとずっと、誕生してから地上に落下するまで、そして生まれ変わるため眠りにつくまでずっと泣きました。
この涙は自分への戒めだ。何も考えず安易に人に手を差し伸べた僕の過ちが招いたこと。
流れ星は涙を撒き散らしながら、叶うことのない自分の願いを胸に無意味な自分の役割を今日も全うする。
人は競うもの、競い合うから人々は成長してきた。だけど本当に命を奪い合わなくてもいい。
本当の幸せは自分の周りに既にあって気付きづらい、幸せは日常と言う水の中に溶け込みがちだから。
自分は不幸だ、安易にそう考えるよりも先に考えるべきことはある。まずは自分の周りをよく目を凝らして見てみよう。
そして失ったもの、自ら捨てたものは二度と手に入らない。
流れ星は悲しくて涙が止まらない、だから彼はもう二度と自分の周りを見ることができなくなっていたのです。
失ってようやく気付いたのです。
流れ星は今日も涙を流しながら叶うはずもない自分の願いを胸に抱いて手空から降り注ぐ。




