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神のような存在


昔、父に尋ねたことがある。



「死は怖いか」と。



父は答えた。



「死にたくは無いけれど、怖くはない。」と

「新たな使命を持ちながら、生まれ変わるだけだから。」と



あれは、小学生くらいの頃だったか。

たしか「テレビから出てくる黒髪ロングのお化け映画」を観た後だ。

父と一緒に風呂に入ってる時に尋ねた記憶が朧気ながら残っている。

映画の怖さと衝撃が忘れられなくて、暫くは一人で風呂に入れなかったんだよな。



父の云う「生まれ変わる」というのは、所謂『輪廻転生』という考え方だろう。

仏教の考え方のはずだ。


幼き神田翔平君は、全く理解出来ているわけではないのに

「なるほどぉ…」なんて言っていたのを覚えている。

そして、「貞●にテレビの中引きずられて行かれても大丈夫なの?」と再び質問したら、父は苦笑いしていたんだ。

懐かしいな。


あれから20年近く経った。

父の言う輪廻転生については、今でも理解出来ていない。

が、パチンコを打っているから把握はしている。


黒髪の少女に「あとはあなたが決めることよ」とか言われるんだ。

なんか仏教的な側面を持った題材にはよく使われるスゴい考えなのだ。

それ以上は言うまい。



▲▽▲▽



それはさておき。

気がつけば俺は知らない家で蹲っていた。

木材で作られたであろう床。特に何の変哲もない床だ。

真冬の床だというのに冷たさは感じない。

天井を見れば「見知らぬ天井」。

蛍光灯は見当たらないので、「ミサトさんの家」ではないらしい。

俺はゆっくりと体を起こし、床に座り直して周りを見渡す。


本があらゆる所に大量に積まれてある。

タイトルを見るに、日本語の本が多いものの、英語や知らない文字で書かれている本も置いてある。


不思議なことに、扉や窓はどこにも見当たらない。

蛍光灯も無いのに何故か部屋の中は明るかった。


部屋は広そうだ。四方は、黒い壁が囲っている為分かりにくいが、恐らく長方形の部屋。中小企業のオフィスくらいの広さだろうか。

黒い壁といったが、パソコンモニターらしき物が壁に嵌まっているように見える。

今は電源が入っていないからか、黒いのだろう。


他にも気になる点が「2つ」はあるが、一先ず無視して頭の中を整理しよう。



俺は死んでしまったのだろうか。



先程までクラクションと共に目の前まで迫ってきていた緑色のトラックはもういない。

愛用の原付「黒王号ちゃん」も足元で寛いではいない。

トラックに轢かれた感覚も怪我もない。

轢かれる直前にしていた態勢のまま蹲っていただけだ。



もしかしたら全部夢だったのかもしれない。

変な態勢で寝てしまって、嫌な夢を見たんだ。

いや、もしかしたらこれも夢で、場面が急に変わったんだ。

夢あるあるだ。

突拍子もない場面転換で、エロい夢を見てたと思っていたのに急に殺人鬼が出てきて、ナイフで殺されたりするんだ。



よかったぁ!

俺は死んでなんていないし、勿論「パチンコで8万円負けた」なんてこともなかったんだ!



まぁ、俺がギャンブルで負けるわけないしな!

最初から夢に決まってたんだ!

明日は爆裂機じゃなくて、久しぶりにライトミドルを打とう!



うん。それがいい!

最近はスピード感のある『一撃の出玉』を求めて辛い台に座りすぎていた。

甘めの台に座って、手堅くコツコツ出玉を貯めていこう。

夢から覚めたら急いでパチ屋の抽選受けに行って、今日こそ少ししか出なかった冬のボーナスを少しずつ増やしてやるんだ!

ぐはははは!




「あの…、現実逃避は終わりましたか…?」



「うぉおおお!喋ったぁ!」



薄々気付いてはいた。夢ではないと。

今いるここは所謂『死後の世界』という世界なのだと。

不思議だが、これは夢でも現実でもないのだと、『魂』が理解していた。


ギャンブルで負けたのも、トラックに轢かれたのも、夢にしてはあまりにもハッキリとし過ぎていた。

言われた通り現実逃避をしていただけで、正直夢だとは全く思えていなかった。

俺はトラックに轢かれて死んだのだろう。


そして、部屋を見渡した時に気になった点のひとつが、死後の世界を疑いようのないものにしていた。

金色に眩く輝きすぎていて、人のようなシルエットなのかどうかも分からない『謎の物体』が目の前に居たからだ。


後光なんていうレベルじゃない、全光だ。

眩しすぎて目を当てることが出来ない。

人間では辿り着けない、神聖な存在が目の前にいたのだ。

床は思ったより普通だったから、一瞬は本当に夢かと思ったものの、その存在を目にしてしまったからには、受け入れるしかなかった。



「あなたは、その…所謂『神様』ですか…?」


「んー…。そうですね、そのような存在です。」


「はぇぇ…本当に居たんだ…。。スゴい。」


「アナタ方が思い描く様なものではありませんけどね。」


と、その金色の物体は微笑みながら応えてくれたのだろう。

とても優しい声音でそう言った。


「とはいえ、人間はスゴいですね。

私達を見て最初こそ驚くものの、すぐに私達を神とか仏と理解してくれます。


他の生物じゃ、どんなに話尽くしても全く理解してくれないこととかもあるんですよ?」


「あぁ…、確かにそうかもしれませんね。

物心ついた頃には『神様』や『仏様』といった存在は、『身近でありながら最も遠い存在』として認識させられますからね。

感謝する祭を見たり、物語を読み聞いたりしていますから。

一種の洗脳みたいなもんですよ。」


クリスマスはキリストの死を悼むイベントだったかな?

兎に角、人間という生き物は、神や仏といった神聖な者達に対して崇め敬うことを何も不思議なことと思っていない。

そして、明らかに神聖な者が目の前に居たとしたら、『神様』なんだと理解してしまうのは当然と云えた。


「でも、無礼かもしれないのですが、そんなに金色に輝いているとは思っていませんでした。

実際は後光っていうレベルじゃないんですね。過剰に驚いてしまって申し訳ありませんでした。」


神聖な存在に対する畏怖というものは思ったよりも無かったが、俺は素直に謝った。

地獄に落とされでもしたら大変だ。

賽の河原で石を積んでは崩すなんてやりたくない。


「あっ、ごめんなさい!!忘れてました!

日本の管理者の方に『光っておいた方がスムーズに事が運ぶ』と言われて、金色に輝いておいたんですよ!

疲れましたし、今すぐ止めますね!」



「お、おぅ…?日本の管理者…?」



気になる単語を羅列しながら、

神的な存在は金色に輝くのを止めて、姿を見せてくれた。



桃色が少しだけ入った白髪の、クセのない綺麗なストレートのミディアムロング。

この世の物とは思えないほど真っ白な肌。

赤い瞳と切れ長な目。

無駄な装飾は無い白のロングワンピースのような服に、スレンダーな身体。

身長は…低い。

え、ミニモニじゃんけんぴょい?というくらい低い。


正直、漠然と思い描いていたような女神ではなかった。

声や背丈なんかを考慮すると、失礼ながら「小学生」と言われても納得できる。

金色に光り輝いていなかったり、日本人のような顔をしていたりしたら、「子供が悪ふざけしてはいけません!」と、注意をしてしまい、悪印象を植え付けてしまっていたかもしれない。

危ない危ない。


「おれ…いや、僕は、死んでしまったのでしょうか?」


「そうですね。神田翔平さんの身体はトラックに轢かれてぐちゃぐちゃになってしまい、人間でいうところの死を享受致しました。

神田翔平さんだった『魂』が、今この場で私とお話していると認識して下さい。」


神様は柔らかい微笑みを浮かべながら、なんとも心を抉られるようなことを言ってきた。


「魂…。なるほど…、今の俺は魂だけの存在なのか…。」


ぼそっと自分にしか聞こえないような声で呟く。

理解は出来ないが納得は出来る。


死後、人間の体は少しだけ軽くなると本で読んだことがある。

それは魂が抜けることによって起こる現象だとかなんとか。

本当かウソかは分からないが、そんな眉唾の話だったはずだ。



「分かりました。残念ですが、しょうがないですね。


ぐちゃぐちゃって表現されてちょっと引きましたけど、正直トラックが迫ってきた時に覚悟は決まっていましたよ。終わったんだって。


もう二度とトラックは見たくないですね。トラウマです。

まぁ、見る機会はどうせ訪れないんでしょうけど。


それで…。この後僕はどうなってしまうのでしょうか。

極楽浄土とか、はたまた地獄とかに行ってしまうんですか?

僕としては出来れば極楽浄土を希望したいんですが…。」


「理解が早くて助かります。」


神様は柔らかい笑みを浮かべながら、頷いた。


「そうですね、色々聞きたいことはあるかとは存じますが、状況説明のために貴方からの質問は一旦後回しにさせていただきます。


まず最初に言いましたが、私はアナタ方の謂うところの、神のような存在ではありますが、思い描いているような存在ではありません。」


「…?」


確かにそんなこと言っていたような気もする。



「単刀直入に言います。私は惑星カルヴァドスの管理者、ユアと申します。


神田翔平さん。貴方を神のような存在にしたく、スカウトしに参りました。」



「…は?」



俺は神のような奴になるのかもしれない。

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