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南無

はじめまして。

パチンコとスロットが大好きです。


「神」や「仏」なんて居やしない。



そりゃそうだ。

寺生まれの俺が言うんだから間違いない。



まぁ、あくまで爺ちゃんが住職だったってだけで、俺は寺を継ぐ権利もなけりゃあ意思もない。

ただ実家が大きな寺だったってだけだ。

どっかの『寺生まれのTさん』みたいに、特殊な力があるわけでもない。

神や仏に対して感謝もなければ、憎しみもない。

無の境地ってやつだ。



...うん。無の境地ってのは違うかもしれないです。

ごめんなさい。適当なことを言いました。



直ぐに考えが方々に散ってしまうのは俺の悪い癖だ。

集中力ってものが欠如している。

もし今の俺が禅なんてやったら、肩は骨折してしまうことだろう。



小さい頃はそれなりに真面目でカワイイ子供だったと思う。


毎日仏様に祈っている、真面目で厳格な父に、「神様や仏様は、いつでも私達を見守ってくださっているんだよ」と教えられてきた。

そして、「そうなんだ!」って子供の頃の純真無垢な俺は、その言葉を信じていた。



三つ子の魂百までとはいうが、30歳になった今でも、そらでお経を唱えることが出来るくらいには身に染み付いている。



とはいえ、父は俺が20歳のときには結構簡単に死んでしまったし、父の弟が寺を継いだし、俺には兄貴がいるしと、寺を継ぐ継がないっていう『権利』すらそもそも俺には無かった。

「住職に俺はなる!」なんて壮大な航海ファンタジーみたいな考えもなかったし、それは別に構わなかった。

悲しくもそれが現実。受け入れるしかないのだ。



でもなぁ、坊主って儲かるっていうし、

俺がもし万が一寺を継いでいたとしたらどうなっていたんだろうか...。

ウッハウハな住職ライフでも送っていたんだろうか...。

んー...。あんまり想像が出来ないな...。


なんて、益体もないことを考えながら、

1日で8万円もの大金を俺から盗んでいきやがったパチンコ台を、力の限りぶん殴ってやった。


------------------------------------------


12月30日16時頃。



もうすぐ年越しである。

真冬ということもあって日が沈むのが早い。

夕焼けの空も少しだけ闇に染まり始めている。



それにしても、思い出すだけでイライラする。



原付(愛称:黒王号)に乗りながらタバコを吸って気を紛らわしているのに、ギャンブルで負けた事実がチラチラと顔を出し、その度に俺を嫌な気分にさせる。



折角の冬季休暇だっていうのに、3日目にして早くも冬のボーナスがほぼ無くなってしまった。

ただでさえ今年のボーナス少なかったのに。。



寒々とした空気も、馬鹿みたいに強い風も、

全てにイライラする。



そりゃあ、俺が悪いよ?

分かってるよ?



パチンコなんてもんはやらない方が良いなんてことは、パチンコやらない奴だけじゃなく、多分パチンコやってる奴だって皆分かってるのよ。



...でもさぁ、男の子だもん。

夢見ちゃうじゃん?


昨日1万円勝ったから、今日もなんか勝てそうな気がする!

って思っちゃうじゃん?


冬のボーナスを倍にするんだ!今の俺なら出来る!

って思っちゃうじゃん?



...まぁ、一昨日は6万円くらい負けてるんだけどさ。(正しくは68,500円負け)



はぁぁぁぁ...。

ため息が止まらない。



朝一の抽選で並んでいる時も、打ち始める直前にも

「南無南無」って心の中で呟いていたんだけどなぁ...。。



皆知ってる?

「南無」って意味。

「I Believe!」「私は信じてます!」って意味なんだぜ。



俺もギャンブルの神様の名前とか知ってたら、そいつの名前言いながら毎日のように祈ってやるんだけどな。

そして、もし大勝出来たらずっと崇めてやるのに。



南無ギャンブルの神様!勝たせて下さい!

南無ギャンブルの神様!お金をもっと下さい!

南無ギャンブルの神様!贅沢は言いません!負けた額だけ返してくれれば良いんです!



...南無ギャンブルの神様、惨めな気分を忘れさせて下さい。



「...南無。


僕を楽しい世界に連れて行って下さい。」



ボソッと呟いた声。

自分で放った言葉ではあるものの、原付の非力で酷く耳障りなモーター音と、冷たく強い風の音と共に消えたので、耳には入ってこない。



その代わりなのだろうか。

呟いた声は誰の耳にも届かなかったが、慣れ親しんだ『黒王号ちゃん』の音や、風の音ととは別の音が耳に入ってきた。



原付や普通車とは比べることが出来ないくらい重く五月蝿いクラクションの音。

この世にはクラクションの音しか元から無かったのでは?と感じる程、馬鹿デカイ音が鼓膜を支配する。



ただでさえ冷たく強かった風は、一瞬俺が想定していたよりも強く吹いたのだろう。

原付のコントロールは軽々と奪われ、黒王号ちゃんと共に俺はコンクリートへと叩きつけられていた。



後ろから迫ってくるトラックは、クラクションの音を更に強めながら近づいてくる。

俺は咄嗟に動くことが出来なかった。

黒王号ちゃんが足の上で「撫でてくれ」と言わんばかりに寝転がっている。

原付ってこんな重かったんだな。



...終わった。



なーにが南無ギャンブルの神様だ。

しょうもない人生だった。

風のイタズラで死ぬなんて俺にはピッタリの終わり方かもしれない。



「....私でもいい?」



ふと、可愛らしい声が聞こえた気がした瞬間には、

俺の人生。「神田翔平」の人生はトラックに潰されていた。

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