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ショートストーリー 足腰弱るから

作者: 夢前孝行

井川に一人住まいの姉から病院に一緒に行ってくれと頼まれた。

先生から病状を聞いて欲しいと言うことらしい。

姉は何か困ったことがあると次男である井川を頼ってくる。

 井川には長男もいるし姉が特に親しくしている弟もいる。

 なのに何か困ったことがあると井川に頼ってくる。

 三百メートル程しか離れていないところに住んでいるがこの二、三年会っていない。

 久しぶりに会う姉はすごく痩せていた。

 S病院に行くと早速診察が始まり姉と症状を聞く。

 取りあえず大腸癌の疑いがあるというので、一週間後検査入院することになった。

 その後井川にだけ先生が話したいことがあると言うから残って姉は診察室から出て行った。

 その席で先生は姉の命はあと二ヶ月だと宣告された。



 それからが大変である。

 一人住まいの姉に余命二ヶ月とも言えず、検査入院したがやっぱり大腸癌でそう長くはないと先生は言われた。



 そしてそれから四ヶ月後姉はM病院のホスピス病棟に入院した。

 このホスピス病棟は癌を患った人が入る病院で、それも治る見込みのない人が入院する病棟だ。

 この病棟で本人は痛みもなく自然に死なせてくれる。

 本人も死ぬのを承知でこの病棟に入る。

 余命二ヶ月と言われていたが七ヶ月も生きていた。



 そしてある日井川が病院を訪れたとき姉はもうベッドから起きる元気もないくらい弱っていた。

 痛みは決してない。

 楽に死なせてくれるのがこの病棟の特徴だ。

 看護師が、

「もうそろそろベッドから起きてトイレに行くのが辛そうだから、尿道に管を通しておしっこを取りましょう」

 と親切に言ってくれたが姉は、

「足腰が弱ったらあかんからトイレぐらい行きます」

 と断ってしまった。

 井川は何でやねん。

 死ぬのを待つだけやのに、足腰が弱るはないでと心の中でつぶやいた。

 そりゃ、これから病状が回復して元気になるなら分かるが、死ぬのを待つだけの者の言う台詞ではない。

 井川は実の姉ながらほとほとあきれかえっていた。

 正直恥ずかしい。

「しゃない。看護師さん本人もそう言っているので、本人の好きなようにさせてやって下さい」

 


 そしてその件があった翌日の夕刻、姉は天国に旅立った。

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