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病と伴侶



ゲームの内容を思い出す必要はないと言ったな、あれは嘘だ。



ここフロレゾン王国は、王都のある本島『パラディス島』とそれを囲むように存在する『サリエリ諸島』『モーツァルト島』『バッハ島』『ショパン島』『ニールセン諸島』と5つの島々に囲まれた島国である(元ネタはもちろん音楽家)。

代々各島から優秀な騎士を王城に送り、王太子の護衛騎士を勤める。

そして、王の試練が終わる頃に、特に優秀で王太子と絆の深いものが専属騎士として常に側に仕えることが認められる。これは騎士として最高の誉なんだとか。


ロンカプの逆ハーエンドは、パラメーターこそ最高値でなくてはならないが、マリアの伴侶──つまり王配となるエンディングではなく、この専属騎士となり、永遠の忠誠を誓う(次期宰相なら宰相、隣国の王子なら外交官として)通称『忠誠エンド』の条件を全員満たすと見ることが出来る。

しかしこれがなかなか難しく、本来の忠誠エンドは親密度より忠誠度を高くし、特定のイベントをこなさなくてはならない。

ただ、忠誠度は親密度より上がる機会も上がり幅も少なく、下手すると親密度のが高くなる。すると王配エンドや妃エンド(攻略対象が王様になり、マリアが王妃となる)用のイベントが起きてしまう。

私を含むプレイヤーはこれができず、逆ハーエンドに辿り着くことが出来なかった。


そんな時、公式から攻略本が出版された。

その中に衝撃の一文があった。



『逆ハーエンドには、王配ルートで起こる真実の姿イベントを避ければ見ることが可能』



真実の姿とは、攻略対象の隠してきた過去や素顔を見てしまうが、それを受け入れることで絆を深めるイベントである。

つまり隠し事があるせいで"本当の自分をさらけ出せない者に伴侶になる資格はない"からと、部下である騎士として、官僚として永遠に忠誠を誓うという筋書きが逆ハーエンドなのだ。


(もちろんそれでも十分調整が難しいが)それにより逆ハーエンドを迎えられるプレイヤーが増えた。

私も攻略本のスケジュールモデルを参考に10回以上挑戦して漸く見ることが叶った。



だから────



「さぁ、起きる時間だよ」



彼は




「それとも、目覚めのキスが必要かい?」




俺の小さなお姫様(マイリトルプリンセス)






「────っ、」





きゃあああああああ!!!!!!!!!!!!



「ぐはっ!」






こんな事してくるのかなぁ!?!?








「マリアのみぞおちはまだしも……顔はやめてくれよ、クララ」



「ロベルト兄様がマリア様の寝台に潜り込まなければいいんですっ!」



「そう言われても、昔はよくやってただろう?」



「歳を考えろ歳を!!」



お腹を擦りながら両頬を真っ赤に腫れさせているのは、攻略対象の1人であるロベルト・アレクサンダー・シューマン。

元ネタはクララの夫であるシューマンである。ゲームでは従兄妹なんだけどね。そのため私や兄様とも幼なじみであり、女王となった現在私を呼び捨てることが出来る貴重な存在だ。

歳が近いせいか兄様の護衛騎士を勤めていたが、兄様が姿を消してからそのまま私の護衛騎士となり、先日専属騎士にして欲しいと懇願された。……うん、忠誠エンドのイベントだね!

元ネタのシューマンはクララと出会うまでは二股だったり不倫だったり何度もある婚約だったりと、かなり女性にだらしがなかったそう。

クララも親子レベルで歳が離れてるらしいしね。……ロリコン?

その話を引き継いだのか、可愛らしい子を見かければ声を掛ける主義だそうだ。所謂女誑し。乙女ゲームじゃありがちなキャラである。



「──しかし、そろそろ剣を離さない?ヨハネス」



「反省の色が見えない。早くしないと跳ねるぞ」



「むしろそのままやっちゃえヨハネス」



「従妹がひどい!」



そしてもう1人、私の悲鳴を聞きつけて来てくれた護衛騎士で攻略対象のヨハネス・ブラームス。

とても真面目で目立つことが苦手らしく、あまり人前に立つことはないがこの1年を通して変わっていった。

無口で俯くことが多かったが、今ではあんな長かった前髪もすっきりし、前を見据える真っ直ぐな瞳は素敵だと思う。うん。

彼は幼い頃クララとご近所だった縁もあり、私とクララと歳が近いせいかよく遊び相手に──いや、勉強ばっかしてた記憶があるな。

何故騎士になったのかわからないくらいヨハネスは頭がいいのだ。

本当に色々とお世話になりました。

ロベルト兄様とは出身が違うし時間も被らないことからそこまで面識はなかったようだが、私たちの話からろくでもない人って認識はあったらしく、今のようになにかと当たりが強い。



「で?なんで兄様は朝からここに?」



「ん?そりゃ専属騎士について────」



「陛下に仇なすやつはなれるわけないだろー!!!」



「その前に俺が斬る」



クララに投げ飛ばされ剣を構えたヨハネスの猛攻を受けていった。









あれから数日。

私もようやく回復し、女王としての仕事をこなしていた。

マリアとしての記憶もちゃんとあるから戸惑うことはなかったが、やはりここではないところで生活していた記憶があるからか、生活水準の低さや医療関係の未発達度など、今まで気にしていなかったことが気になってしまう。……近々、考えよう。


そんな中、父上が回復したと知らせを受け私は見舞いも兼ねて向かった。

─────はずなんだが。



「で、どうするんだ?」



「はい?」



「婿だよ、婿!もう正式な王族の血を受け継ぐのはお前だけだ、マリア。絶やさないためにも世継ぎを───」



「それは重々承知してます!」



父上の言う通り兄様がいない今、王族の血を正式に継いでいるのは私のみ。

私がいなくなれば誰が王になるかで揉めることは目に見えている。

特に私を娶るとか言った現宰相とか現宰相とか宰相とか……!!

また戦争(しかも内紛とか)なんて起こされたら死んでも死にきれんわ!



「っていうか元気ですね!?」



「あぁ、これね、彼が解毒剤を」



そう言って、我が国では珍しい漆黒の髪を持つ少年を指した。

ありがとうの意味を込めて頭を下げ──ちょっと待て。



「────毒?」



「うん、毒。病気じゃなかったんだって」



「それって……!」



幸いパラディス一家は花の女神の祝福を受けているからか毒の耐性があるため、死には至らなかったけど確かに殺しに来ているのではないか。

これは、ポンプレネル王国や他の国が我が国を確実に狙いに来て───というか、ゲームでそんな話出た記憶ないんだけど!?



「マリア、聞いてほしい」



「ガブリエル」



その漆黒の髪の少年が口を開いた。



ガブリエル・ユルバン・フォーレ。

ポンプレネル王国の第二王子で、先の大戦の結果我が国の捕虜となった。……はずだが、その知識量と交流範囲の広さ、そしてそれらを生かした外交手腕を買って、現在は外交官として抱えている。

それも彼がゲームの攻略対象(しかも隠しキャラ)であり、逆ハーエンドの条件である外交官エンドを迎えたからである。

本来なら主従関係にあるが、同い年であることと、元々第一王女と第二王子というほぼ対等の立場である事から、忠誠を誓われているとはいえ敬語や畏まった態度はしないで欲しいとお願いしていた。なので彼もまた、私を呼び捨てる貴重な存在だ。



「ヨーゼフ様の病状、覚えているか」



「え、ええ」



ヨーゼフ・アントン・フォン・パラディス。先王である父上の名前だ。父上は名前で呼ばれることが好きらしく、皆にヨーゼフと呼ばせている。……父上の、病状。

ゲームでは詳細は伏せられていたが、マリアとしての記憶はある。

父上はあの日、突如発狂したのだ。

悪夢を見ると、身体中を虫が這うようだと。叫び、駆け回り、掻き毟り、今思い出してもいつも威厳溢れてた父上とは思えなくて、怖かった。

毒味係になにもないこと、パラディス家の体質があったから毒の線は初手で消え、心の病──所謂精神病の類ではないかと診断されていた。

しかし、ここにそれを治す術も知識もない。麻酔や睡眠薬で強制的に眠らせることでしか、落ち着かせる方法がなかった。



「でも、それが何故毒と」



「あるんだ、それが」



それは、数年前偶然発見された。

ポンプレネルにしか咲かないとある花の蜜を掛け合わせると、人を操ることが出来る毒が作り出せると。


とある下級貴族がそれを使い上級貴族を操り、王家を乗っ取ろうとしたことから毒の存在が露呈した。



「大半は操り人形になるんだが、稀に耐性のある人は拒絶反応を起こすのか幻覚を見たり、発狂するんだ。ヨーゼフ様のようにな」



ひゅ、と喉が鳴る。

それはつまり、この国を乗っ取るつもりだったということだ。

操れれば御の字、例え発狂しても使い物にならなければ捨てるだけ。どっちに転んでも父上が邪魔だと思ってる人からすればそれには得にしかならない。



「幸い、実験の結果その花の葉が解毒剤になるとすぐ判明した。その後毒は全て回収・破棄し、葉を収穫後は燃やして1輪も残していないはずなんだが……」



ぎり、と歯が軋む音がする。



「申し訳ない、俺の詰めが甘かったんだ。ヨーゼフ様を命の危険に晒し、その上攻め入るなんて……殺されて当然だ」



「や、やめてよガブリエル!貴方1人の責任ではないし、死なれちゃ困るわ」



「マリア……」



「その案件、お主が預かっていたのか?」



今まで黙っていた父上が声を上げた。

その質問に是と答えたガブリエルに、父上は頷いた。



「マリア、お前の護衛騎士全員とパガニーニ次期宰相をここに連れてこい。話がある」



「ニコロやロベルト兄様を?わ、わかりました」



すぐに部屋を出て、私は指定された面子を探しに行った。

多分、あれは私に聞かれたくない話だ。本来既に国のトップなのは私なのに……まぁ、認められたとはいえまだ未熟な身。仕方がない。

────しかし、何故攻略対象全員集合なのだろうか?










「ガブリエル、その毒の効果が現れるのは?」



「人によって様々ですが、最低でも3日は必要です」



「……私1人を狙った犯行だと思うか?」



「────そうですね、もしその時点で王太子殿下が亡くなっていたのであれば、王位を継げるのはマリアのみ────娶るか、お飾りの女王として裏から操るか」



「その答えが普通か……ルートヴィヒ、行動記録を洗ってくれ」



「は」














「これは極秘任務である」



指定された面子を引き連れ戻ると、父上の右腕である騎士団長のベートーヴェンさんもいた。



「……マリア、席を外し」



「お断りします。未熟とはいえ、私はこの国の王です。把握する必要があるかと」



「……そうか、そうだな」



父上は少し顔を歪ませたが、軽く息を吐くと、私の覚悟を探るかのように見詰めてきた。



「まずは確認をしたい。お前たちの考えを」



ガブリエルは、先程話したように毒の話をした。

そしてそれが無差別なものか、父上1人を狙ったものか、考えを聞かせて欲しいと。



「無差別なら、使用人が真っ先に狙われますよね。蜜──液体であれば食事にも飲み物にも関係なく入れることが出来ますし」



「しかし王族は全員毒味が必要なはず。少量だけなら効果がない、というわけではないのだろう?」



「あぁ、少量でも摂取すれば持続時間が違えど効果はある」



「ならヨーゼフ様を狙ってのことでしょう」



「毒味を掻い潜る術──」



概ね、全員が父上を狙ってのことだと判断した。

例え当時の私を操ったって仕方ないもの。本当にお飾りのような、人形のような、お姫様状態だったんだから。



「ヨーゼフ様、その時の毒味係はいつからこちらに」



「ほとんどがこのルートヴィヒだ。だが、数日だけ別の者だったな」



「はい。私や他の護衛騎士が任務で外していた際は──アランだったと」



アラン。

確か、つい最近その実力を認められて父上の護衛騎士になった方だ。

前任が任務で脚を失い役目を果たせなくなった時に推薦されていたのを聞いた気がする。

ゲームではモブの1人かな?記憶にないし……。




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