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私たちで作る未来のはじまり



鐘が鳴る。



人々は叫び、色とりどりの花が咲き乱れる。



ここ、フロレゾン王国は本日、新たに女王が誕生する。




その名も、マリア・テレジア・フォン・パラディス。




1年前、王太子であった兄を亡くし、ほぼ同時期に先代である父が病で倒れた。

既に亡くなられた妃を溺愛していた先代には、娘である王女(マリア)しか残されていなかった。


島国であるこの国は他国との交易を必要としない閉鎖的な国だった。そのため豊かな資源と独自の優秀な技術はそれらが枯渇している他国から狙われ続けており、最強の騎士と名高い王が倒れたとあれば攻め入ってくることも想像に容易い。

しかし、マリアは嫁ぐつもりだったため、王としての教育はほとんどなされていなかった。

そんな小娘に任せるくらいなら、王女を娶り自分が王になる。野心家である宰相含めそう宣言する貴族もいた。


それを止めたのは先代だった。

『王の試練』を行ってから判断すればいいと。

自身も行った『王の試練』。それを成しえない者は王として認められない。王冠を戴くことは出来ないと言う。

試練を受け持つ教会の賛同もあり、王女は王となることを決意した。


こうして、王女には補佐として5名の騎士と、幼馴染の摂政がつけられ1年に及ぶ『王の試練』を開始した。



途中、隣国であるポンプレネル王国に攻めいられたが、それを先頭に立って撃退したことから支持は上がり、国民からも貴族からも女王として認められた。




そして今日、正式に女王となる戴冠式が行われる。













国花である百合が一輪、胸元に咲いている。


今までのような、パステルカラーでふわふわなお子様ドレスは卒業した。

女王に相応しい、厳かで、洗礼されたデザインのドレス。代々王に受け継がれる緋色のマントが映える藍色がメインカラーだ。

メイクも素顔を生かしたナチュラルではなく、強さと美しさを押し出した、少し濃いめのメイク。

護衛も兼ねている師匠たちやいつも小言ばかりの家庭教師兼幼馴染、自ら進んで捕虜となったポンプレネル王国の第二王子も、正式な場だからか礼服を着込んでいる。

みんな真っ赤だったから着込んでいて暑いの?と聞けば、違う、と溜め息混じりで応えられた。




今日、私は女王となる。


ようやくという気持ちともう?という気持ちが綯い交ぜになって、心臓がどくどくとうるさい。

国民からも祝福されているのが歓声でわかる。

失敗しないよう頭の中で手順を確認していたら、時間だと呼ばれた。



「行きましょう」



まだ顔の火照りが治まっていない7人を引き連れ、城下町を見渡せるバルコニーへと向かった。















ざわめきが、怒号に変わる。


示し合わせたかのように叫ばれるマリア女王陛下の声に手を挙げ応える。

更なる歓声に包まれ、あぁ、私は王になるのだとようやく実感した。



「陛下、此方へ」



王の試練の審査を引き受けてくれた教会の神官が、女王の為にと作られた王冠を掲げる。

あぁ、本物はやはり輝きが違う。────?

本物、とは?私は偽物を見たことがあるのか?……いや、今日までデザイン含め秘匿されていたはずだ。現に今まで知らなかったではないか。────もしかしたら予知夢でも見たのかもしれないが。

神官の前にかがみ、その王冠が頭に触れる。


────ようやく、ようやく辿り着いた!

ここまで大変だった!!これで全て埋まったんだー!!


ずきり、と頭が痛み、思わずこめかみを抑える。



「陛下?」



「……いえ、大丈夫よ。緊張で寝不足なのかも。続けて」



王家に伝わる細身の剣を同様に受け取る。



────あー、背景に7人いるー……。本当にいるー……。

感動だよ、マリア……。達成感ハンパねぇ〜……。



再度頭が痛み、目を強く瞑る。

なに、なんなのこれは!?



「陛下、体調が優れないのであればこの後お休みになられては」



「……いえ、祝勝会を兼ねたパーティーもあるもの。大丈夫よ」



豪奢に飾られた鞘から抜き、剣を掲げる。

それに続き、後ろの7人も同様に剣を掲げた。



「我が名はマリア・テレジア・フォン・パラディス!!このフロレゾン王国の王となり、生涯国に仕える者!!我が国の剣となり、盾となり、この美しき世界を守り抜こう、初代国王・フロレゾンの名のもとにっ!!」



────宣誓シーン、ソロカットのマリアもかっこよかったけど、全員揃うと迫力が違うわ〜!

かっこいい、かっこよすぎる!これの為だけに約1年頑張った!!



だから、これは、この声は、この映像は、一体何────!?















バルコニーを出た途端、膝から崩れ落ちた。


その薄れゆく意識の中で見たのは、前世の記憶。


まるでテンプレのような思い出し方ね。笑っちゃう。

そう、そういえば流行ってたわ。乙女ゲーへの転生。

悪役になって破滅回避したり、前世の知識を使って地位を手に入れたり。

そして私は、主人公。昔はあったけど、昨今の流行りとしては珍しいよね。


主人公といっても、今回の件は特殊だ。




だって、鬼畜すぎる乙女ゲーとして名高い「恋のロンドカプリチオーソ」において、最終関門である逆ハーエンドに辿り着いた後なんだもの……!!












「陛下!!」



「っ、……」



瞬き数回。ぼやけた視界が少しずつクリアになる。




「……クララ?」



「陛下ぁ!いきなり倒れたので心配してたんですよぉー!!」



がばっと抱きつかれる。

本来なら不敬だと言われそうな行動だが、彼女は特別だ。

クララ・ヨゼフィーネ・シューマン。私の専属侍女であり、専属音楽家であり、遊び相手だった幼馴染。

これくらいは幼い頃からしてきたので、今更咎める人はいない。



「大丈夫よ、ありがとうクララ」



「陛下ぁ……っ」



ぐすぐすと泣きじゃくるクララを慰めながら、先程の夢を思い出す。

前世、そう、きっとあれは前世よ。若くして亡くなった乙女ゲーマーがプレイしてた乙女ゲーに転生して、破滅回避したり、前世の知識を使って革命を起こしたりとそんな小説が世に溢れかえっていた。


私自身の記憶がほとんどないけれど、ひとつだけ確かなことがあった。

髪が生えてなかった。


恐らくがんに侵され、抗がん剤治療を受けていたのだろう。そうでなければ、女の子がなかなかそういう事態に陥らないと思う。

ベッドや部屋から出るのも憚られ、ゲームのような非現実世界に憧れるのは仕方の無いことだ。


そしてこの世界は、そんな時に熱中していた鬼畜すぎる乙女ゲー「恋のロンドカプリチオーソ」とほぼ同じだった。

主人公である(マリア)やクララの名を含め、主要人物に著名の音楽家の名前を引用した。一部の設定も史実から取られている。

私の片目もそうだ。

元ネタであるパラディスは、幼い頃全盲になったという。私は片目だけであるが、突如視力を失った。その際色素が薄くなってしまい、オッドアイとなった。

それを偶然見た貴族が"忌み子""バケモノ""殺せ!"と喚き散らし色々投げて来たが、その場を見ていた父が不敬罪で捕らえて首を落としたらしい。……まぁ、他の余罪もあったらしく、丁度良かったと父は笑っていたけど。

それでも、片目の視力を失っただけでそう言われることに心を痛めた父が、隠せるようにと眼帯をくれた。

おかげで先日のポンプレネル王国との戦争では『隻眼の戦乙女』なんてありがちで恥ずかしい呼び名が付いてしまったけど。


クララの音楽家としての才能も、きっと史実から。

ピアノも、歌も、作曲も素晴らしい出来で、初めて偶然聴いた時はいたく感動した。だって、お人形さんのようににこりともしないクララから、とっても素敵な歌が聴こえたんだもの!

音楽が好きなのに、父の護衛騎士でもあるクララの父に猛反対され、無理矢理侍女兼護衛となってしまい、感情を失っていたクララも、私のお願いで音楽をやるかとになってからはとても生き生きとしてて楽しそうだった。

そう言えば、以前音楽1本にする気は無いの?と聞いたら、マリア様の為だけの音楽家ですから!と笑ってくれた。



他にも──と思い出そうとしたが、長くなりそうだから一旦やめておこう。もうエンディングを迎えた後なんだから。

この国に尽くすことを誓う宣誓シーンで締めくくられるため、もうゲームの内容は起こらない。今更思い出しても意味ないし。



パーティーは問題ないとのことだったので、私は大事をとって再度休むことにした。





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