ランクアップするために・6
日が昇り始め少し暖かくなった頃合いで、ミハイルはオーリーに声をかけてから支度を整えた。
「それじゃ、行こうか」
なんの気負いもなくミッツェルカが言う。背後に剣を背負って。
「今さらだけど、国を出たのにギフトは使えるままなのが不思議だなぁ」
ミハイルが、えっ、今言う? 今さらだけど?
というツッコミ満載の発言をするが、ミッツェルカがおそらく、と口にした。
「国に関するわけじゃなくて、個人に贈られるギフトだからじゃないの。あの国特有のものだけど、土地に縛られないとダメというより、あの国で生まれた者には現れるってとこ」
適当な返事だが強ち間違いでも無いだろう。現にギフトが使えなかったら、ミッツェルカなど剣を持つのも一苦労したと思われる。
ミハイルの方も突き詰めたい疑問でも無かったのでそうか、と納得して宿を出た。
オーリーは既に宿から出ている。
待たせたわけじゃないだろうがなんだか少し焦ってしまうミハイル。遅くなったことを詫びてから、行こうか、と気負いなく声をかけた。
クランとミッツェルカが先を歩き、ミハイルとラティーナとニルクがその後ろから歩く。
オーリーは、ミハイルのリーダーらしい判断を評価していたものの、どこか全く緊張感の無いところを見て、リーダーの素質有り、と思っていた自分の目が間違いだったか、と落胆していた。
もちろん、ミハイル含め誰もオーリーの落胆には気づかない。
オーリーが落胆しているのは、知らぬ土地で見知らぬ敵や獣相手に、緊張も無ければ気を引き締めるような雰囲気も無い、物見遊山のような雰囲気の、新人冒険者パーティーに危機感が無いことを落胆していた。
こういうパーティーは痛い目に遭わないと分からないだろうし、ランクアップする実力があるとは思えない。
獣討伐で、思っていた以上の現状に右往左往して慌てふためく様子が手に取るように分かる。
まぁ、新人に良くある謎の絶対強者感が無くなるだけマシか、とオーリーは、このランクアップ試験が不合格になる未来を予測していた。
何十回と見てきた謎の自信過剰タイプの冒険者だろう。
ただ、それにしては。昨日の無理に行動をしないで正しい判断をしたミハイルが少し不可解だ。
謎に自信過剰なタイプならば、無茶もするものなのだが。
まぁいいか、と今回のランクアップ試験を不合格、と判断していたオーリーは、この後己の予測が裏切られることに驚くことになる。
「この森の中に居るんだっけ」
ラティーナが確認するようにミッツェルカを見れば、ミッツェルカは既にギフトを駆使しているようで、うん、と頷く。
「気配を探ったけど。結構多いな。成犬というか、大型の犬、いや、狼だね。それが十五頭。子犬というか小型の狼が五頭。全部で二十。群れているし、間違いないと思う。兎かな。狩をしているね。この狩られている方は三匹。狩を小型に教えている感じ。人の気配は森に無いかな」
聞いていたオーリーは、は? と危うく声に出すところだった。中に入ってもないのに、なぜ分かる。
「方向は?」
「右に……そうだな。私の歩幅で百歩くらい」
ミハイルの問いかけにミッツェルカが示す。
オーリーの冒険者生活の中では、いくら索敵能力の高い冒険者でも、そんな遠くを見通すことはもちろん、気配でも分かることは無い、はず。会ったことのない自分より上の高ランク冒険者なら、もしかしたらここまで凄い索敵能力がある……かもしれないが、オーリーはギルド経由でも冒険者仲間でも聞いたことが無かった。
「なんか、能力が上がった?」
ラティーナがちょっと首を傾げる。いや、あの顔も名も思い出すのも苛立つ悪どい金貸しの屋敷に乗り込んで行ったときもこんな感じだったっけ、と思い返すが、それでも遠くから気配を探ったわけじゃ無かったので、やっぱり能力が上がった気がする。
「あー、なんか、冒険者になってから、使う機会が多くなったら能力が上がったみたい」
他人事のようにミッツェルカが肩を竦めたが、それはつまり、利用するほどに剣聖のギフト能力が凄いものになっていくのだろう。ミハイル含め、誰しもが使用するごとにギフト能力が上がっていくことは分かっている。
ミッツェルカも命の危険に晒されていた頃から、命を苅る能力は上がっていたが。自分の元に来る敵だけだったので索敵能力は使用していなかった。
冒険者になって使用するようになったら、能力が上がったのである。
つくづくギフトとはなんなのか、という疑問が尽きないが、それは考えないことにした。
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