vs悪どい金貸し・6
「お嬢〜お待たせ〜」
殺気を飛ばしてエンゾを威嚇していたミッツェルカの耳に暢気な声が届く。気配を察知していたミッツェルカは、来たか……とクランの声に殺気を抑えた。それから先ずは目的を果たすことにする。
「二番目の妻と離縁しろ。離縁の書類だの手続きだの、お前なら要らんだろう。娘と娘付きの侍女と三人共に縁を切れ」
少しだけ殺気を和らげたミッツェルカの言葉に、エンゾは生意気な、と短気を起こそうとするが、実力は丸分かり。それこそエンゾが現役だったのならミッツェルカと対峙出来たかもしれないが、今や部下を顎で使いまくって自分は安全地帯にて命令することに慣れている。そんなエンゾではミッツェルカと対峙など出来やしない。たった今、蛇に睨まれた蛙が如くミッツェルカの殺気に呑まれてしまったばかりだ。
一度呑まれてしまえば、もう戦える気概などあるわけがなく。エンゾは山より高いプライドを苦痛と共に折って受け入れるしか無かった。
「離縁する。娘も侍女も手放す」
「だってさ。これで依頼達成ってことでいいかい」
ミッツェルカは顔をエンゾから外して後ろを振り返りマリと呼ばれた侍女を見る。マリは頷いた。彼女が望む以上の成果だ。ホッと息を吐く間もなく、自分から気を逸らせたミッツェルカを見逃すはずもなく、エンゾはミッツェルカに飛びかかる。
気配に気づいていたミッツェルカは予備動作もなく横一直線にエンゾの顔を切り払う。
「ぎぃあああああ」
醜い悲鳴を上げながらエンゾが切られた顔に両手を当てる。当然のように血が滴り落ちてスパッとした切り口から止まらない。左頬から右頬まで鼻の上も通って綺麗な切り傷。止まらない血。エンゾはヒイヒイ叫んでいるだけで情けない。もちろん、ミッツェルカもラティーナも気にかけることはなく、離縁を捥ぎ取った三人の身をミッツェルカとラティーナで暫く預かることにした。
「クラン。その男か」
捕えに行く時に調達したのか縄でグルグル巻きにされた男を引き摺って来たクランに尋ねる。
「そうだよ」
「おい、エンゾとやら。お前が素直に離縁を認めたからな、褒美を与えてやる。三番目の妻の愛人だそうだ。仲良く暮らせ。じゃあな。ああ万が一、離縁したはずの三人に手を出そうとしたのなら、今度は頬の切り傷だけじゃ済まない、ということは愚か者でも分かるだろうな?」
ミッツェルカは釘を刺してエンゾの前にグルグル巻きの男を差し出してやる。
「ひっ……あ、あああああの、なんの、ことか」
縄で縛られた男は状況も掴めないのか、それとも分かっていても分からないフリをしたいのか、それともエンゾの前に差し出されたからなのか、怯えたような顔と声でミッツェルカを見た。
「知らないフリをするなよ。このエンゾとか言う男の三番目の妻の腹の子の実の父親だろうに」
わざとらしく肩を竦めて事実を口にするが、男は「ひっ、し、知らない! 三番目の妻とか腹の子の親とか、知らない!」と喚く。ミッツェルカは煩いなぁ、とボヤキながら剣を突き付けた。
「ねぇ、本当のことを言いなよ。この男の今の妻と寝たわけでしょ」
「し、知らない」
「ふーん。じゃあ今から髪の毛切るねぇ……。つるっつるのハゲ頭にしてあげるよ。その次は眉毛かなぁ。その次は臑毛か胸毛をつるっつるにしてあげるけど、手元が狂って頭に傷が出来るか剣先が目に突き刺さるか足を切り落とすか心臓に剣先が突き刺さるかもね。でも嘘を吐くから仕方ないよね。それとも冤罪だって騒ぐ? 腹の子なんて知らないし、三番目の妻なんか知らないって喚く? それが真実ならこの剣は切れないよ。この剣は真実を口にする者は切れないからね」
「そ、そんなバカな。なんだその出鱈目な剣は」
男がミッツェルカの言葉に状況も忘れて突っ込んだ。ミッツェルカが試してみるなら構わないよ、と笑う。その無邪気な笑みがいっそ怖くて、男は怯えた。
「知ってます。多分、腹の子は俺の子です」
無邪気な笑みで恐ろしいことを口にするミッツェルカの狂気を垣間見た気がして、男は肩を落として肯定した。それを見届けたミッツェルカはラティーナとクランと共に、エンゾの二番目の妻とその娘と侍女のマリを連れて立ち去った。
用が済めば終わりである。
帰ったら兄・ミハイルの朝ごはんを美味しく食べるのだから。
ミッツェルカに切られて呻き声を上げる男共など存在しないかのように、一行はエンゾの屋敷を堂々と出て行った。
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