隣国・トルケッタ公国公都リノーヴ・1
夢から覚めたミッツェです。
「ミッツェ」
ラティのドアップ。えっ、何このご褒美。ヤダ、天使がいる。可愛い。夢現の頭でラティを引き寄せて抱きしめた。
「ミッツェ⁉︎」
あー、なんか良い匂いする。ラティは私と違って女の子らしい身体つきだからフワフワもしてる。柔らかい。なんでこんなご褒美が……。
「ミッツェ?」
んー。お兄様の声だわ。そっちに目を向ければお兄様の顔が覗く。状況が分からないけど、夢なのね、きっと。そう思いながらお兄様にも手を伸ばして、その頭をワシャワシャと撫でつつ、ギュッと抱きしめた。
「ミッツェ! 俺のミッツェが可愛い! 朝から素晴らしいご褒美だ! 俺の妹最高だ! 可愛い可愛い」
そのお兄様の声で頭が覚醒した。お兄様の身体を離して飛び起きる。
「ミッツェ。もうご褒美終わり?」
お兄様の顔がヘニョンとショボくれた。周囲を見回して、漸く状況を掴む。
「あー、もしかして私寝惚けてた?」
ラティに視線を向ければ顔を真っ赤にしたラティが頷く。ヤダ。朝から天使。
「そ、そうですわ! もう相変わらずミッツェは寝起きだけは悪いのですから!」
「取り乱してるとこ悪いけど、ラティ言葉遣い」
「ミッツェのせいよ! 顔を洗ってきて! あっちに川が有ったから!」
ラティに示された方へ足を向けて顔を洗う。久しぶりにあんな夢を見たのは、獣を倒して興奮したせいか。戻りつつ、倒した獣の方を見れば、赤黒く血液が固まった物体が2個。
「ひっ」
「ラティ、見ちゃダメだよ」
「もう、見ちゃったわ。……昨夜?」
「うん。ラティが寝てからだね」
「何も知らずにごめんなさい」
「別に良いよ。ラティ、ちゃんと言葉遣い、平民っぽくなってるね。偉い偉い」
ラティの気持ちを変えるように褒めれば、ラティはちょっと微笑んだ。ラティはきちんと教育をうけた公爵令嬢だが、ラティと出会って前世の記憶を思い出して、父親に疎まれている事に気付いた私は、いつか家を出るために、密かに平民の暮らしを覗いていたが、それをラティに知られて、ラティも同じ事をしていたため、だいぶ令嬢らしさがなくなった。
「ミッツェ。ラティ。朝ごはんにしよう」
実はお兄ちゃんも、私に付き合って、平民暮らしを覗いていたし、寧ろ積極的に平民生活を年に1回くらい送っていたので、馴染んでいる。
「うん。お兄ちゃん」
「あー! 妹が可愛い! 朝からご褒美をありがとう!」
……うん。煩い。そう思いながらも、お兄ちゃんのご飯には勝てない。美味しく大人しく食べる。
「今日はどうする?」
お兄ちゃんに問われて、私は太陽の位置を見る。ふむ。朝早いわけではないらしい。ここは、既にトルケッタ公国の国内だが、ライネルヴァ王国の国境に近い森。家出に気付いた公爵家と、お兄ちゃんを探す伯爵家の人間が追って来る可能性は多いにある。どうするかなぁ。
「お兄ちゃん。今更だけど、家出て来て良かったの? 貴族の義務も果たせないよ」
「可愛い妹を蔑ろにする両親と使用人と一緒に居るより、充実した日々を送れるだろうから大丈夫だ。貴族の義務を果たせない事だけは、領民達や王家に申し訳ない、とは思うが」
「……そっか。まぁ異母弟が居るし、ドレイン伯爵にとっては、お兄ちゃんが居なくても異母弟が代わりに果たしてくれる。って思っているだろうしね」
「……知っていたのか?」
私が異母弟の事を言えば、お兄ちゃんが驚いた顔をした。ああ、私が知らないと思っていたのか。
「異母弟? だってあの子と母親、引き取られて早いうちから我が者顔でドレイン伯爵家の邸内を歩き回って、近づくな、と言われていたはずの私の部屋にズカズカと入り込んで来たもん。で。ドレイン伯爵から、私について聞かされていただろう恋人さんが、私を蔑んで馬鹿にした挙句に、この子が次男で、行く行くはこの子がアナタの代わりになります。とか言ってた」
私の淡々とした口調に、お兄ちゃんが珍しく、怒りに顔を真っ赤にしていた。
「あの馬鹿愛人親子! 家出る前に締め上げて来るべきだった!」
「お兄ちゃん、落ち着いて。でもまぁ、私が男だって信じて疑っていなかったところは、笑えたけどね。つまり、真実をドレイン伯爵から聞かされていないわけでしょ? その程度の愛情しか受けていないくせに、私を蔑むんだから逆に哀れだよね」
ニコッと私が笑えば、お兄ちゃんが私の頭を撫でて来た。
「ミッツェが可愛い。俺の妹最高」
……うん。放っておこう。
「で。ラティはどうする? 国外追放される、かもしれない。……で、国を出たけどさ。公爵はラティの事をきちんと愛してるじゃない。まぁ不器用な愛だけど。今なら帰れるよ?」
「今から帰っても、王子に婚約破棄された傷物令嬢なんて醜聞、面倒だわ。帰らないわよ」
ラティがバッサリと言い放つ。……うん。伯父様ごめんね。ラティは帰らないって。安心して。ラティは私が幸せにするから。心の中で義理の伯父に謝った。私の母親とラティの母親が姉妹なので、公爵は私から見て義理の伯父であった。
「じゃあ。公都を目指そうか」
私は軽く提案した。
「公都? リノーヴ?」
ラティの質問に頷く。
「公都に留まるわけじゃないけど、この辺に居たら追っ手が来るし。そうすると面倒でしょ」
お兄ちゃんもラティも眉間に皺を寄せた。面倒の意味を考えているらしい。ややして、2人は私の提案を了承した。
公都に到着するまでの話を暫く執筆します。その後、閑話として、ライネルヴァ王国の誰かの視点を更新します。




