第九十六話 テスト勉強と町の流通
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
魔物の卵が孵ってから、一週間が経過した。
秋彦達レインボーウィザーズは、期末テストが一週間後と近いこともあって、この日からしばらく探索者稼業をいったん休み、勉強に専念することになっている。
尤も、ダンジョンに潜るようになってから勉強もはかどるようになっている。今回は秋彦の中で最も楽しみなテストになるかもしれない。
『パパー、おなかすいたー!』
勉強のために部屋に籠っていると、ドアが開けられ、秋彦の仲間にして家族というべき存在、ついこの間卵から孵った魔物、ベビードラゴンが部屋に入ってきた。
秋彦の事をパパと呼び、甘えてくるオスのドラゴンだ。
食事の催促らしい。時計を見ると、夕飯時といえる時間になっていた。
「おっと、もうそんな時間か? ……そんな時間だな。今日はどうするか……」
『あのねあのね、りゅーちゃんオークにくのしょーがやきがいー!』
「……生姜焼き……一昨日食べたばっかりなのに?」
『りゅーちゃんあれだーいすき!』
「全く……龍ちゃんはそれでいいけど俺は何にしようかな……たまには野菜でも食うか。野菜炒めにしようっと」
『りゅーちゃんおやさいきらいなの……』
「龍ちゃんは生姜焼きでしょ? パパのごはんだからいいの。お買い物行きますかね」
『りゅーちゃんもいくー!』
「はいはい、行きましょうか。ゼッケンは?」
『あるよー!』
えっへんといわんばかりにゼッケンを見せつけるドラゴンに苦笑しつつ、ベビードラゴンと一緒に商店街に足を運ぶ。
従魔については、雨宮に話をしたところ、それぞれの魔物に悪夢の終焉の紋章が入ったゼッケンに、住所と電話番号を入れたものをもって、この魔物は従魔であることを証明するとした。
今はまだ法的には根拠がないが、そのあたりは舞薗巌議員と協議を行い、次の改正案に盛り込んでもらう様だ。
それにまだ生まれて一週間しかたっていないとはいえ、卵から生まれた魔物だけあって、探索者としても、この魔物が外にいても、人を襲わないならわざわざ狙わない程度には強くある。
どれほどかというと、とりあえず以下が現在のステータスである。
名前:南雲 龍之介
種族名;ベビードラゴン
レベル;6
肉体力:10→600
魔法力:10→300
戦闘力:10→1200
有利属性:無し
不利属性:無し
スキル
体長調整:(【従魔スキル】【アクティブ】自身の大きさを自在に変える。最大で元の大きさ程度。最小で蝿1匹程度)
羽飛行:(【モンスタースキル】【アクティブ】生えている羽を使って飛ぶ)
ドラゴンクロー:(【モンスタースキル】【アクティブ】龍の爪で敵を引き裂く)
ドラゴンバイト:(【モンスタースキル】【アクティブ】龍の牙で敵をかみ砕く)
ドラゴンブレス(無):(【モンスタースキル】【アクティブ】龍の息吹を浴びせる。広範囲にダメージを与える)
ドラゴンロア:(【モンスタースキル】【アクティブ】勇ましい龍の咆哮。聞いた味方の攻撃力を上げ、敵の攻撃力を下げる)
Lv6にしてすでにこの貫禄である。肉体力に関しては装備抜きだと、かつて初級突破前にスキル調整した時と比べるとすでに追いつかれている。魔法力も当時と比べるとすでに大差ない。これがドラゴンの力という所か。
だが秋彦もあのころと比べればレベルも戦闘力も格段に上がっている。そこまで警戒する様なことはない。
それに、本人はいたって天真爛漫で、どちらかというと赤ん坊を相手にしているような気分ではある。近所からも愛嬌を振りまいて回っているので受けがいい。
最大体長はすでに秋彦達を背に乗せて空を飛べるほどになっていて、その状態でも周りの人がおびえない程度にはご近所のアイドルをやっている。
それに龍之介が秋彦の従魔だという点も大きい。
ダンジョン騒ぎで名と顔の売れている秋彦達レインボーウィザーズの従魔であることは、それすなわちすぐに情報が発信され、共有されるという事でもある。
今や白い龍が東京を飛翔していても、特別仕様の伸縮自在の妖精布で作られた悪夢の終焉の紋章が入ったゼッケンが見えれば、だれもが「ああ、秋彦さん所の龍之介君ね」と思う程度には知れ渡っているのだ。
正直この件に関しては、自らの名と顔の売れていたことに心から感謝していた。
と言う事で、一定の知名度を得ている龍之介はコソコソとしないでも済んでいる。
最近になると学校以外は殆ど一緒にいるのだ。当然近所の人には、龍之介の事は覚えられている。
そしてそれによって、普段家に一人しかいなかった時から考えると、生活にも変化が現れる。
特に大きな変化になったのは自炊をするようになったことだろう。
龍之介はオーク肉を好んで食するのだ。あれから様々なダンジョンを巡り、その中で牛肉に相当する【突撃牛】なる魔物にも遭遇、食したりもしたが、龍之介はオーク肉の方が好みだった。
そして今はまだオーク肉はスーパーや、商店街の肉屋には並ばない。並んだとしても数量限定の高級肉だ。当然焼くだけで出来上がるような味付け肉になっている訳はない。
故に秋彦達はチームでオークを倒し、捌いて自分で味付けして龍之介に出しているのだ。必然的に料理もある程度覚える。
優太にも簡単な物を習ったし、料理のレシピを乗せているインターネットサイトを調べ、豚肉をオーク肉に変えて調理したりもした。
つい最近まで、飯なんてくえりゃ何でもいい、総菜だけ買えばどうとでもなると思っていた時期が秋彦にもあったが、今ではすっかり自炊も出来る男子になったのだ。
なので、秋彦は商店街に買い出しに行く。
生姜焼きに欠かせない生姜と、自分用の食事である野菜炒め用の野菜を買わねばならない。
キャベツと人参は使いかけのがまだ残っているが、ピーマンと玉ねぎを切らしていたので、今日は【八百屋の北沢】に行くだけでよさそうだ。野菜炒めの肉はオーク肉を使う予定なので買う必要はない。
なので、さっそく出かける。早くしないと日が暮れてしまう。
………………………………
少々寂れかけの商店街、秋彦の地元の商店街である、中谷商店街唯一ある八百屋の北沢は秋彦が子供のころから通い慣れた八百屋だ。最近は自炊しなかったので、来ていなかったが、野菜買うなら高くてもいつもここである。
それだけではなく、秋彦は基本買い物を行うときはスーパーや大型のショッピングモールは使わず、大体商店街の中だけで済ませてしまう。ショッピングモールを使うのは、総菜等、商店街ではどこにも置いていない商品を買う時くらいだ。
それは秋彦の地元愛でもあり、慣れ親しんだ、育てられた商店街に対してのちょっとした恩返しの意味もある。
ちなみにこの商店街には総菜屋はない。何故かは知らないがないのだ。だから最近はスーパーで総菜を買っていたのだ。
八百屋に入り、店主に一声かける。
「ちわーっす」
「おう、秋君かい。龍ちゃんもいらっしゃい」
『おじさんこんにちはー!』
「おっとっと、そろそろ慣れてきたけど、やっぱりびっくりするねこの【念話】ってのは」
「あはは、頭の中に直接話しかけられるようなものですからね。お野菜見せてください」
そう、今まで龍之介は普通に会話をしていたが、言葉を口から発していたわけではない。龍之介の口や喉は人間の言葉を発することが出来る様に出来てはいないのだ。
なので龍之介は魔法力に言葉を乗せて、発する事で、自分の意思を相手に伝えているのだ。念じて魔法力を発するだけで言葉が相手の頭に届くことから念話と呼ばれている。
従魔が主人や周りとコミュニケーションを取るときはたいてい念話が使われる。
軽いやり取りをもって改めて野菜を見てみると、やはり高い。かつての値段の2倍近い金額だ。秋彦なら普通に買える金額だが、普通の人では買うことを躊躇してしまいそうな値段だ。だが……
「以前よりだいぶお安くなりましたね」
「俺は秋君に期待しているからね! 流通の回復のめどが立ったからこそ、厳しいけどこのお値段さ! それに最近は秋君がよく来てくれて助かってるよ」
そう、これでもだいぶ落ち着いた方なのだ。以前はもっとひどかった。特に魚屋や八百屋の様な鮮度が重要な物を売る店は質が悪い物でも高く売らねばやってられなかったこともあり、閑古鳥が鳴き続けていた程に苦境だった。
本当に何とかするためにも、まずは期末テストだ。
「じゃあすみません、ピーマンと玉ねぎ、後生姜いただけます?」
「はい、毎度! しかし最近よく生姜買っていくね?」
「龍之介が生姜焼き大好きなんですよね……」
「はっはっは! 秋ちゃんなんか所帯じみてきたねぇ!」
「言わんでくださいよもう……じゃあ、ありがとうございました」
『おじちゃん、ばいばい!』
「はい、ばいばい。また来てねー!」
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