第九十一話 会議の翌日
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
『いや、地方都市奪還作戦に、海運の復活! 景気がいいじゃありませんか! 散々苦しめられてきたダンジョンにようやく一泡吹かせられるってもんですよ!』
『しかしまだまだレベルの高い探索者の数が足りておらず、チョークの数が足りないので、探索者の皆様方には、ぜひ頑張ってほしいですね!』
『これでダンジョンから利益が出るようになったら、どれほどいいか! まだ先の話なんでしょうけど期待しちゃいますねー! ダンジョンには酷い目に合わされっぱなしなんだ! いい思いもさせてもらいたいってもんですよ!』
プツン!
「人の苦労も知らずに好き放題言いやがって……」
テレビのニュースから流れてくるコメンテーターの無責任な発言に辟易しながら、秋彦はテレビを消した。この人たちは探索者の苦労を分かってこんな楽観的なことを言っているのだろうか? 正直おめでたいとしか思えない。
そして、ちらりとカーテンの隙間から外を覗く。
そこには商店街近くであまり広くもない道にぎっしりと報道陣が詰めかけていた。家は写真撮りまくられているし、映像も撮影されているらしい。
会議があった次の日だというのにこの有様。正直どうしたものか。これじゃ学校に行くことも一苦労だ。
テレポーテーションがあるから行けない訳ではないが……芸能人がスキャンダルの際に報道陣に詰めかけられている様子はよくテレビで見るが、まさか自分が追いかけられる側になろうとは。
「……嘆いててもしゃーねーや。親友迎えに行かなきゃ」
諦めてバッグをひっつかみ、靴を履いてからテレポーテーションで優太の家に向かう。
……普段はやらないのだが、今日は赤龍の店の中に跳ぼう。この様子ではおそらく優太の家も報道陣だらけだろう。ああ、憂鬱だ。なんで悪いことしたわけでもないのにこんなにコソコソする様な真似をしなければいけないのか。正直浴びていなかった注目を急に浴びるのは怖いし戸惑う人もいるというのに。
誰もかれもが承認欲求で飢えているわけではないというのに。
………………………………
「あっはっは! それでそんなにお疲れなのかお二人さんってば!」
「笑いごっちゃねーぞモモ……しばらくずっとこんなかと思ったらうんざりするんだが」
「うん……本当に疲れたね今日……」
放課後、秋彦と優太は、もはや馴染みとなったギルド近くの洋食店の机に突っ伏していた。抜け殻の様に生気がなく、やつれ気味で。
寝ているわけではない。どうしようもなく疲れていたのだ。そしてそれは、優太も同じだった。
何せ二人は朝から人に追い掛け回されっぱなしだったからだ。
テレポーテーションで優太の家に跳んでみたら、やはりというか報道陣が詰めかけていた。よくはないが、予想の範囲内であったのでまあそれはいい。
だが、学校の普段登校の際にテレポーテーションで出て来る場所に報道陣が円を作って待ち構えていたのは予想の範囲を超えていた。
写真を撮られ、初級ダンジョン突破の感想、ダンジョンボスとの死闘の様子、地方都市奪還作戦に参加する意気込み等々、めちゃくちゃに聞かれて、マイクを向けられた。
今の状態では咳払い一つ、くしゃみ一回さえ残されそうな勢いだ。
その場はとりあえず学校に遅刻すると言って報道陣をジャンプで飛び越えて、さっさと逃げたのだが、教室に入っても逃げ場はなかった。
今度はクラスメイトだけでなく、全学年の生徒が待ち受けていた。秋彦達のクラスには、一年生、二年生、三年生問わず生徒がいて、皆秋彦と優太に会いに来ていた。
どうやってそんなに強くなったのかや、手に入れた道具を見せてくれなど、もう揉みくちゃもいい所だ。
昼休みもまるでゆっくりできなかったので、静かだったのは授業の時だけだった。
しかし、学校の外で、報道陣はまだ待ち受けていた。学校が終わったころを見計らってまた来たのかずっと待ち構えていたのかは知らないが。
今の状態でジュディ達を迎えに行ったらどうなるかはいい加減予想がついていたので、今日は女子陣には普通に交通機関を使ってきてもらった。
「はー……まさかしばらくずっとこんななのか……?」
「勘弁してほしいね……」
「全くだよ……」
「あはは! 優雅に挨拶してちょっとしたコメントでもしときゃいいのに。人生こんなに注目されるのは今だけかもしれないよ?」
「その余裕がうらやましいわマジで……」
「悪さしたわけじゃないんだから堂々としてなよ。ああいう記者ってのはこういうのでご飯食べてるんだからさ。神経使って相手するだけ損だよ?」
愚痴る秋彦と優太に対しての、モモの笑いながらアイスコーヒーを飲んでのコメントである。流石に芸能界に身を置く人は一味違う。
「さて、前置きも済んだところで、そろそろ本題に行きましょうか」
「おう、今後の俺達の活動についてだな」
「今後は、地方都市奪還作戦に向けて僕達も協力するってのは決定として、具体的に何するかって話だよね?」
「そうそう。チョーク集めも定期的にやるにしても、それだけが協力するってことじゃないからね」
「……新人の教育、探索者の悪評根絶、地方都市奪還作戦に向けての、地方都市の現状調査その他諸々、今の私達ができることはたくさんある。問題はどれをやるか」
そう、やれることはたくさんある。
雨宮の言っていた新人の教育、探索者の悪評根絶のためのアピール活動、チョーク集め、奪還作戦に向けての地方都市の調査など、簡単なものから危険なものまでたくさんある。
それに、その中でもどういう風に活動するのかもまた悩ましい。
例えば新人の教育なら、探索者として登録したのはいいが、入門ダンジョンもクリアできないで諦めかかってしまっている、いわゆる【脱落者】を入門ダンジョンは突破できるようにするのか。
または、入門ダンジョン突破者を初級ダンジョンに挑戦できるようにするのか等、レベルによっても様々だ。
探索者の悪評根絶なら、犯罪を犯すレベルの高い探索者である【悪徳者】の捕縛や、犯罪を犯すレベルの低い探索者である【落伍者】の取り締まりという、マイナスをゼロにする運動なのか。
または、テレビなどで探索者は善良な人間の方が多く、危険な仕事ではあるが、いかに金を稼げる、今最も必要とされている職であるかをアピールしていく、ゼロをプラスにしていく活動なのかでもまた変わってくる。
はっきり言ってすべて優先順位は高く、優劣つけがたいものだ。
さて、レインボーウィザーズは何をすべきだろうか。
「あたしはイメージアップ運動、特にテレビでみんなの事を紹介して、探索者怖くないっていうのをアピールをしたいね! プロデューサーとかに掛け合ってティーンの本音! の中に枠作って貰っちゃうよ!」
勢いよく自己主張したのはやはり桃子だ。元々そのうちアイドルユニット【ビューティフルドリーマー】のリーダーとして、探索者系アイドルを目指すための下積みとしてレインボーウィザーズにいる桃子だ。売れる名前はやはり売っておきたいか。
「私はチョーク集め、守護像集めをしていきたいわ。今必要なのはチョークであって守護像じゃないなら、必要としている場所に供給も出来るだろうし……いつまでも海外から物資が来ないのは日本にとっても痛手でしょう?」
ジュディはチョーク集めを推してきた。本音は海洋の守護像を自分の親が経営している会社に回したいのだろうが……まあ確かに必要なことではあるだろう。
「……法については親に進言して、更なる法改正を行っていってもらう。今私たちがやるべきなのは鍛冶スキルや裁縫スキル等の生産スキルを持っている人を増やし、武器や防具だけでなく、様々な物を作れるように素材アイテムの収集と売却を担う事。国の生産業、ひいては経済活動の活性化にもつながる」
茜は装備の充実や日本の生産活動を後押しするために、素材アイテムの回収をメインに提案してきた。
今後、自分たちの装備も優秀な鍛冶屋などに頼むことになることを考えると確かに手を抜けないところだ。
「あのさ、どれも必要なことなんだけどさ、僕はジュディさんや茜ちゃんのやりたいことは、根本的に人手不足を解消すればわざわざ僕たちがやらなくても大丈夫だと思うんだよね。だから僕は、新人さんの教育を行うことで、人手不足を解消して、素材の回収もチョーク集めもうまくやれるようにした方がいいと思う」
おずおずと手を上げた優太は新人教育をメインに据えたいようだ。確かにジュディと茜のやりたいことは自分たちがやる必要はない。むしろ自分達だけでやってたら手が足りなさすぎる。
それなら、探索者として未熟でも戦う意志のある人々を教育し、その人たちにもやってもらう形をとればいい。そうすれば人手ができるし、チョークも素材も自分達だけで回収するよりもはるかに多く集まる、まさに一石三鳥だ。
「うーん、みんなやりたい事はバラバラだけど……秋彦はどう思う?」
やりたいことがバラバラすぎて膠着してしまった。嫌な空気が流れかけたうえで、ジュディは秋彦に話を振る。秋彦のやりたいことが自分たちの主張に大きく関わってくるからか、全員から注目された。
「俺? 全部だ」
「……え?」
「だから全部だよ。広告宣伝も、チョークや素材集めも、新人教育も全部」
全員が首を傾げているので秋彦が自分の意見をさらに出す。
「そもそもさ、これを全部全員固まってやる必要はないじゃない。例えばモモが自分の出演している番組でアピールやってても毎回毎回俺らが出て来るわけじゃない。なら収録でスケジュールが合わないなんてこともある。その間にやれることだってあるはずじゃん?」
ジュディだったら海の向こうの父親と海洋の守護像に関する取引を行いたいときもあるだろう。茜も素材アイテムを売ったり、しかるべき研究機関に渡す時だってあるだろう。その間に秋彦と優太で新人教育も出来るだろう。
「ジュディやモモ、茜とかは専門性高くて俺と親友いたって足手まといになる場合も多いしだろうし、チームだからって探索者としてダンジョン潜る以外は特別な理由ないなら常に一緒にいる必要はないだろう? そりゃ、仲間と一緒にいることが出来るのはいい事だけどさ、今時間がないんだから。効率よく動いた方がいい」
その主張にしばらく四人とも考えていたが、憑き物が取れたかのようになった。
「あー……いわれてみればそれもそうかも」
「わかったわ。皆、スケジュール帳を出して。無いならスマホでいいわ」
「……予定を全員で共有させる。2か月の間、どこで何をするかを細かく決めていく」
「そうだね、一日、一時間も無駄にできないんだから。寝る時間も計算に入れてやっていこう」
「あと、一応学生生活は疎かにはしない様にしような。曲がりなりにも俺ら学生なんだからさ。な?」
「「「「了解!」」」」
こうしてこの日の残り時間は全員のスケジュール共有と連携を密にする約束を取り決め、残り二か月何をどうやって過ごすのかをよく話し合うことになった。
この日は結局ダンジョンに潜りはしなかったものの、それ以上の有益な時間になったと言えるだろう。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも評価、ブックマーク、感想など、皆様の応援を糧に頑張って書いていきます。
次の投稿は9月30日午前0時予定です。
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