第八十六話 会議のためのすり合わせ
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
怒涛の一日が過ぎ、翌日になった。
起床後の感想は、普段は好調なのに、今日に限ってはとても憂鬱だった。
まあ当然だろう。エミー達はいつも通り学校だが、今日に限って秋彦たちは学校には行かない。いや、いけないというべきか。
今日は午前から午後にかけて、有識者を集めての話し合い、もとい、ダンジョンの今後ついてを協議しあう場に行かなければいけない。
休みの連絡も、探索者ギルドがすでに行っているとのことだが、万一話が行っていなかったら、エミー達に説明しておくよう頼んでおいた。一応昨日の試食会で何があったかをちょっとだけ話はしていたのだ。あまり大っぴらにしないことも含めておいたから大丈夫だとは思うのだが。
とりあえず、有識者たちが集まるにはまだ時間があるが、事前にどこまで話すか、伏せておく部分はあるかなどの打ち合わせを雨宮とメンバー全員で行うので、早めにギルドに顔を出すことにする。
………………………………
今日の話し合いはギルドの会議室を使うようだ。朝から準備でギルド職員がドタバタと走り回っている。
だが、そんな中でもこちらを視認すると、非常に丁寧にギルドマスターの部屋に通された。
流石にメンバーも緊張、あるいは高揚感が隠せないようだが、マスターの部屋に入ると、雨宮が非常ににこやかに出迎えてくれた。
「やあやあ、よく来てくれたね。今日は有識者……ていうか僕の知り合いや友人を招いて今後の対策とかの話し合いなんだけど」
「有識者って、知り合いの方だったんですか……正直呼んだ人全員あなたの知り合いだとは思わなかったです」
「雨宮さん本当に顔が広いですよね……」
「はっはっは、僕はこればっかりで他はからっきしだからねー。何、ギルドマスターになってから知り合いになった人も結構いるよ。そのうえで信用できそうな人を選んで呼んでるから。人柄うんぬんかんぬんについては大丈夫だと思う」
秋彦と優太は驚き半分、あきれ半分で言うと雨宮は笑って返してきた。流石である。そしてさりげなく人物の選定をしているのも流石である。
「さて、改めてだけど、説明する物としては素材アイテムの存在についてだね。ここら辺は製鉄業者やIT関連の企業、製糸業や縫製工場の人とか、要するに製造業の業界が興味津々なところだね。ほら、以前ファッションショーやった時にお世話になった所とかも、かなり気にしてたよ」
「あー、【株式会社カッソロ】さんですね。衣装もらったからよく覚えてますよ」
もうだいぶ前の事のように思えるが、それを聞いて、つたなく、綱渡りで。でも信用も何もない中藁にもすがる思いでやってのけたあの作戦を思い出した。ファッションショーの小道具、小物と言い張って、刃のついていない武器をもって東京で起きた氾濫を鎮めるために駆けずり回ったのだ。今となっては懐かしい。
そして、ファッションショーの為に衣装を用意してくれた縫製会社の人には、血染めの衣装を快くもらったのだ。
うちの宣伝にもなると言っていた、ちょっと化粧の濃いおばちゃん社長が印象的だった。
「当然だけど、ここら辺の情報は嘘偽りなしで、ダンジョンウォッチで調べた情報を共有するよ?」
「ええ、それで問題ないと思いますわ」
「……嘘つく理由もない」
小さく頷く雨宮。こんなところに隠しておきたい情報なんてないし、全く問題ない。
「次にダンジョン制覇による環境の激変だろう」
メンバー全員うんうんと大きく頷く。
ダンジョンが制覇されたことによる環境のアップデートともいえる変化。それは決して小さな変更ばかりではない。入門ダンジョンの激減、初級ダンジョンの激増。そして中級ダンジョンの解禁。これにより、人々はまた窮地に立たされるかもしれない。救いがあるとするならば、それは準備期間として半年間、氾濫が起きなくなっているというところだろう。
これが無ければ、日本はもう明日にでも沈没しててもおかしくない。
新スキルによる新しい力の解禁も話題には上がるだろうが、変化に対応できるのかが一番の課題だろう。
「ここら辺はダンジョンウォッチからの情報が出ているけど、具体的な内容は……確かダンジョンを作ったやつらに直接聞いたんだっけ?」
「ああ……まあ、そうですね」
「そこはとりあえず言わなくていいだろう。というか言ったら間違いなく大騒ぎになる。間違いなく世界中大混乱だし、何としてでもそいつらを捕らえようとダンジョンにやみくもに潜って被害が拡大するのが目に見える」
「はい。僕らもそう思います。これは隠しておきたいことですね……」
「まあそうだね。ここは、君らの案内役であるニャン太君が唐突にその場に現れ、いつもやってるように謎の電波を受信して説明してきた、ということにしておこうか」
「まあ、そうするしかないですよね……」
昨日矢場と雨宮には、ライゾンのことや、ライゾン達がダンジョンを作ったらしいという事は一応話していたのだ。この二人にはありのままを伝えた方がいいと判断した上での事だ。実際、二人はあえて何も言わずに飲み込んでくれた。大人である。
とは言え、こんなことを不特定多数にはもちろん言えないので、偽の回答として一番妥当であるこの言い分が採用された。
もっとも、ニャン太君からの説明というのは嘘であっても、案内役からの説明という点では本当だ。あくまで案内役からの説明とだけにしておいて、その案内役とはと聞かれたときだけ、ニャン太君の名前を出す程度にとどめておくべきだろう。
そうしないといらぬボロを出しかねない。全員それに対して頷く。
「よし。そして次。これが今回の話し合いの本命。このインターバル期間である半年の間に氾濫の影響を取り除き、日本を元の状態に戻すことができるのか。これだろう」
そう、これこそ一番の焦点になるであろうことだろう。
せっかく氾濫が起きない期間があるというなら、この期間中に魔物の巣窟となっている地方都市を開放し、流通の復活を行えるようにしておきたい所だ。
正直に言えばそれ自体は可能だろう。今は聖域チョークというアイテムがあることも割れているのだ。それを使えば、魔物を一掃したのちに、主要な国道などに聖域チョークを引き、安全圏を確保。
さらに一旦魔物のいないまっさらにした地方に、探索者向け施設を充実させることで、後進の探索者を地方都市に常駐させるなどすれば、おそらく行けるはず。
たとえ、ダンジョンを囲って、魔物の氾濫を防ぎ切る力はないとしても、この効果は貴重にして重要だ。
それに、将来的に実力ある探索者がそろえば、もしかしたらユニークモンスターの量産に一役買うことになるかもしれない。
もっとも、そんなことを今ここでいうわけにもいかないが。
「ただここで問題になるのが、チョークが圧倒的に足りないという問題だ」
その言葉を聞いて、その場にいた全員がげんなりと肩を落とす。
現在日本の道路というのはものすごく長い距離がある。例えば、高速道路だけでも約八千キロメートルもある。ほかにも一般国道、都道府県道、市町村道と4種類の道があり、合計で何と約百二万キロメートルにも上るのだ。
聖域チョークは1本1㎞まで線を引けて、それが10本セットで10㎞。
どう考えても足りない。
秋彦たちだけでは集めきれるわけがない。やはりここは初級ダンジョン突破者を増やし、多くの聖域チョークを集める必要がある。
それに海洋の守護像も重要だ。日本だけでなく、世界中の海運業者に必要であろうこれは、海運業者ならば喉から手が出るほど欲しがるであろう物だ。
船が魔物に襲われなくなる。それが、今の世界にどれ程貴重で重要かは、もはや計り知れないものがある。こちらも一刻も早く数をそろえて、海運を復活させねばならない。
「まあこれについてはギルドとして対応策は用意しているから安心してね」
「すみません、そこはお任せします」
「やはりそこはギルドの管轄ですからね……」
「うん、という訳で、話のすり合わせは以上かな。後はもう少しここで待っててね」
雨宮は、そういうと今のやり取りを全力でパソコンに打ち込み、資料を作成していく。鬼気迫る勢いだ。
有識者会議は間もなくである。
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次の投稿は9月19日午前0時予定です。
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