第八十五話 赤龍
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これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「ふいー、今日はいろいろあったなー」
「本当にね、でもまだまだ気を緩めることはできないわ」
安堵の表情を浮かべながら椅子に座る秋彦と、まだまだこれからだと気合を入れ直すジュディ。
「しかしいい匂いだなー……お腹減った」
「……優の実家には初めて来た」
一方こちらは赤龍に初めてきて、店の感想を漏らす桃子と茜。ぶっちゃけ調理場からものすごくいい匂いがして来慣れている秋彦も辛抱たまらないくらいだ。
五人は今優太の実家である中華料理店の赤龍に来ている。今日は以前に山分けしたオーク肉でいい料理ができたのでぜひ試食をしてほしいということで御呼ばれしたのだ。
今日は学校の友人たちも呼んでのことになるが、両親は快諾していた。
「いやー、しかし優坊に秋坊以外のダチとはなぁ!」
「本当にねぇ、あたしゃうれしくてもう……」
「もう、お母さんってば……やめてよ」
むしろこの通り優太の友人ができたことをずいぶん喜んでいた。石動一家は厨房でレインボーウィザーズと友人探索者達の総勢十人分の料理を作っている。厨房と席は近いので会話もできる。
「それにしても石動君って料理できたんですね」
「私も正直そうは見えなかったから意外だったなー」
「あのな……親友は料理屋の息子だぜ? 忙しいときは手伝いもしてんだからさ。小学生のころから鍋振ってたっての。特に親友のチャーハンめっちゃうめーんだぞ」
「おー、それは楽しみー」
「オークか……すごくおいしそうだし、僕らも早くそこまで行けるといいね」
意外そうな顔で話す奏と言葉に秋彦が突っ込みを入れる。
石崎と真崎のコンビも楽しみではあるらしい。
……真崎は楽しみのベクトルがどこか違うような気もするが。
そして桃子はちらりと部屋の隅を見て、秋彦に疑問を投げかける。
「ところであそこの彼、どうしたの?」
「……ファンはアイドルのプライベートに干渉しないファンはアイドルのプライベートに干渉しないファンはアイドルのプライベートに干渉しないファンはアイドルのプライベートに干渉しないファンはアイドルのプライベートに干渉しないファンはアイドルのプライベートに干渉しない……」
もはや呪詛である。エミーがやたらおとなしいと思ったらあれほどまで好きだったアイドルが目の前にいたことで思考が停止、いや、ドルヲタを自称するからこそ、迷惑かけまいと自制しているのか。なんにせよ怖い。店の隅でぶつぶつそんなこと言ってたら本当に怖い。
「ああ……そういやエミーはアイドルヲタクだったな……本物が目の前にいてどういう反応すればいいかわかんないんだよ」
「さっき、あたしのことは気にしないでって言ったのに……」
「まあ、メルアドやレーンの交換もしたんだろ? この先何度も会うだろうし、そのうち慣れるだろ」
「そんなもんかなー、とりあえずそれでいいや」
「連絡先も交換したのに今更だと思うんだけどな」
暢気に構える姿勢をとる二人であった。がんばれエミー。
にしてもさっきからいい匂いがたまらない。親父さんが回鍋肉を作っているのが見えるので、期待も大きい。お袋さんはラーメンの麺をゆでているし、優太はチャーシューを丸く切り分けていた。そして白髪葱を小さい山にし、その山に張り付け、段々になるようにチャーシューを張り付けていく。9個作ったところで、赤龍秘伝のタレをすべてにかけて持ってきた。
「もうちょっとかかるから、おつまみチャーシューでも食べててよ」
店内に歓声が沸いた。オーク肉のおつまみチャーシューなんて男子も女子もテンションが上がる、上がらないわけがないのだ。特に言葉の目にはありありとハートマークが写っているし、緊張と興奮が入り混じっている。
真っ先に食べたのは言葉だった。ある意味やはりというべきか。
「ん! ん~~~~~~!!! んん! 美味しいです! 豚の旨味がこれでもかってくらい出ていて、しつこくないし、たれも最高です! ああ、食べると無くなる……こんな当たり前のことがこんなに悲しいなんて……!」
「おー! 本当だ、うまーい! うっわすげー!」
食べてすぐに手足をじたばたさせ、怒涛の感想攻撃だ。エミーもようやく立ち直ったようで食べていた。
他もそれに続いて食べ始めるが、だれからも高評価だ。
秋彦も食べてみるが、やはり絶品だ。豚肉の持つ野性味あふれる旨味と、タレの持つ濃い味が抜群の相性である。惜しむらくは6枚しかないことだろうか。おつまみとついているので量が少ないのは分かるが、それにしてももう少し慈悲をもらえないものだろうか……
「……よし、優坊、そろそろ回鍋肉が上がるぞ!」
「はいよお父さん」
「優ちゃん、こっちも上がるからねー!」
「はーい」
などと考えていたら、もうすぐ料理が出来上がると掛け声が上がる。思わず背筋が伸びるという物だ。
掛け声を受けて優太が鍋の前に立ち、強火で中華鍋を熱し始める。
優太は中華なら基本ある程度何でも作れるが、一番うまいのはチャーハンだ。おそらく作るのはチャーハンだろう。
鍋から煙が上がってきた所で、お玉の半分程度の油を入れ、少し回して油をひいて待つ。油が程よく熱されてきたら、溶き卵をお玉半玉分投入し、少しかき混ぜ、鍋を軽くゆする。
そして、卵が半生くらいになったら、卵の上にご飯を投入し、かき混ぜる。玉になっているご飯はお玉でつぶし、鍋の中でご飯を舞い上げるように混ぜ合わせる。火の近くを通過させることで、水分を飛ばし、油分で米をコーティングする。
ご飯が玉になっておらず、油によって艶が出てきたのを確認し、秘伝の味付けダレと、おそらくオーク肉製のチャーシューを小さく細切れにした、チャーコマと呼ばれる肉と輪切りにした葱を加え、さらに少し混ぜ合わせ、水をくぐらせたお玉ですくって、専用の皿で丸く形を整えて、完成だ。
手際よく9つ分のチャーハンを作ったら、ちょうど親父さんの回鍋肉とお袋さんが作っていたチャーシュー麺も出来上がったらしい。
「おう、優坊のお友達にしてお客さん、待たせたな! オーク肉製の豚骨チャーシュー麺とチャーハン、回鍋肉のオーク肉尽くしの赤龍スペシャルメニューの完成だぜ!」
先ほどよりもさらに大きい歓声。さっきからずっとしていたいい匂いが目の前に出てきた事と、おつまみチャーシューを食べていたことで、いい感じに空腹を刺激されていたことで、全員我慢ができなくなっている。全員、今にもかじりつきそうだ。
「へい、お待ち!」
「待たせたわね、いっぱい食べとくれよ!」
「お待ちどおさま。さあ、食べて食べて!」
「「「「「「「「「いっただっきまーす!」」」」」」」」」
そこから先はもう無心だった。旨い旨いと声を上げる余裕さえなかった。貪るように食べていた。涙を流しながら食べていた。こんなにおいしい中華がこの世にあったのかというほどに旨かった。
オーク肉はそのまま塩コショウでも全然おいしかったが、調理すればさらにおいしくなるということがよく分かった。もはや旨味の暴力、旨味の爆弾だ。オークの骨でさえこんなに旨味が出るとは思わなかった。
そのうまさは高級なものも食べ慣れているジュディ達も一心不乱に食べていた程だ。
友人チームは皿に残ったタレを舐めかねない勢いだ。さすがにみっともないので止めたが。
「「「「「「「「「ご馳走様でしたー!」」」」」」」」」
「おう、旨かったか?」
「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
「うんうん、だよね。僕らも試食したとき、夢中で食べまくっちゃったもん」
「あー、親父さんもお袋さんもしばらく見ない間にたくましく、綺麗になってたのってやっぱりそれのせいか」
「おーおー、秋坊も言うじゃねーか」
「やだね、秋ちゃんってば! 綺麗だなんて!」
上機嫌に笑う石動夫婦。
だが、急に親父さんの声のトーンが真剣なものになる。
「で、だ。秋坊達。頼みがあるんだがいいかい?」
「あら、それはこれからもオーク肉を買いたいっていう話ですか?」
すかさずジュディが話に入り込んでくる。
「……ああ、そうだ。これ、俺たちは店のメニューに加えたいと思っている」
「これだけ美味しいんですもの。お店で出せば売れると思うのよ」
なるほど、確かにこれだけ美味しい物を店の目玉に出来れば、多くの人が集まるだろうし、売り上げのアップも見込めるだろう。赤龍はこれを狙っているようだ。
しかしジュディは渋い顔をしている。
「……そうですね。これならどこで出しても勝負できると思います。ただ、私たちが個人的に物を売ると、確定申告など税関係に影響が出る可能性があるので、そのあたりをどうすればいいか等をギルドマスターと相談します。そこで折り合いがついたら、でいいでしょうか?」
「なるほどな。わかった。それは必要なことだしな」
「そうね、焦らなくてもいなくなるわけじゃないし……」
どうやらジュディはギルドを介さない商取引を行うことを嫌がったようだ。ギルドを通して物を売り買いすると、それはギルドの方で税金等の金勘定も一緒に済ませられるが、ギルドを介さないと、そういった部分も自分たちの負担になってしまう。
今後はそういったところも考えていかないといけないようだ。
今日はとりあえず、これをもって解散となった。
ジュディ達はテレポテーションで家まで送り届け、残りはそれぞれ解散となった。
明日はとりあえず学校には行けないが、重要なことを報告するのだ。しっかりしなければ。
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次の投稿は9月16日午前0時予定です。
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