第八十二話 ノアズアーク
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これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「……おやおや、だいぶ込み入った所を聞いてくるんだね」
「いやさ、最初はお前がどういった存在なのかいまいちよくわかんなかったんだよ」
秋彦は己の疑問をライゾンにぶつける。
最初から「人を強くする。なって欲しい」という風には言っていたが、あの場では立ち位置がいまいちよくわからなかった。
ダンジョンについてある程度知っており、それをうまく利用できるように助言をしていただけとも、ダンジョンに先に入っていて研究しており、自分たちよりも多くの情報を持っているのをもったいぶっているだけとも思えた。
だが、先ほどからの発言の節々に、そうではない、どちらかと言えばまるでテーブルトークRPGで言うゲームマスターの様に、このダンジョンを管理している側の様な言動が見え隠れしていた。
「決定的な言動とかがあったんじゃねーんだが、何かそれっぽい物を感じちまうんだよ。だけど、込み入った事を聞くっていうセリフからも大体アタリがついた感じだな」
「……ふむ。まあここまで来たのだ。このくらいは教えていいだろう」
そういうと、ライゾンは深くかぶっていたフードを取る。
褐色肌に銀髪紅眼、目の下に赤い逆三角のペイントがされている。様々な装飾品を身に着けていた、エキゾチックな雰囲気を持つ美女だ。
「そうだ。このダンジョンをこの世界に作り上げ、あちこちに置いたのは私、いや、我々だ」
「……こ、この人が、世界を大混乱に陥れた張本人の一人……?」
「え、嘘だろ、マジで?!」
「……そんな……」
その言葉を受けてチームがざわつく。だが、秋彦だけは何故か静かだった。
「……おや、驚かないのかね? 私達がダンジョンを生み出し、世に設置したという衝撃の事実が発覚したのに」
「やかましい。薄々そうだと思っていたから衝撃は薄かったってだけだ。それに騒いで激高して飛びかかったって、瞬殺されるのがオチだ。それに……」
「ふむ、それに?」
「言っちゃあなんだが、俺お前が心の底から悪い奴だって思えねーんだよ、なんでか知らんけど」
そう、ライゾンがフードを取ったとたん、ライゾンの力量が分かるようになり、それが今の自分達にはどうしようもない、絶望的な差があることを理解してしまったのだ。
それにこいつが心から世界の平和を乱す悪党とは思えずにいる所がある。ダンジョンを生み出した以上現代社会に深刻なダメージを与えたのは確かなのに、なぜかわからないがそう思えてしまったのだ。
その言い分に思わず食って掛かるのはジュディと優太と茜だ。
「え、ちょっと、秋彦?!」
「……彼女たちがダンジョンを作ったというなら、彼女たちこそが世界を混乱に陥れた張本人であるのは間違いない。それは分かる?」
「うーん、まあそりゃ分かるぜ茜。でもさ、なーんか憎めないっていうかさ……今戦っても勝てないって言うのもあるけど、正直それ以上に俺、こいつと戦いたくねーんだよな」
「この騒動のせいで、日本国内でも死傷者あわせて200万人に被害が出たわ。建物の破壊も少なからず出ていて、経済的なダメージもかなり大きいのよ? 分かっているの?」
「まあそうなんだけどさ」
「しかも、流通とかも滞っちゃって僕らの生活にも影響出てるよね?」
「……武器を当たり前に街で持つ人間を見かけるようになった。それはつまり治安の悪化にもつながる。それでもなおそう思う?」
「あー……まあ俺はだけど」
信じられないと言った様子で三人は秋彦を見る。ダンジョンの出現で経済、流通がと問いかけても、その姿勢を崩さないらしい。
その言葉を受けて、秋彦が口を開く。
「なんてーかさ。ライゾンの奴が言っている事、ダンジョンはライゾン達が作ったってのは本当の事なんだってのはまあわかるよ」
「だ、だったら……!」
「でも俺ら、いや俺か。俺の知りたい、いや、知らなきゃならねーダンジョンの真実ってその先にあるような気がしてならねーんだよ」
「そ、その先……?」
「ああ」
つまり、秋彦的には、確かに世界中にダンジョンを出現させて世界が突然ファンタジーに様変わりし、それによりあちこちで様々な被害が出たことはやはり悪い事ではある。
しかし今はまだ語る気のないであろう、ライゾン達が何故ダンジョンを作ったのか等を知らなければ、正しい判決を下すことは出来ないのではないかと思っているようだ。
「……要は、今回のダンジョンが生まれた一件の全容が明らかになるまで糾弾したりするのはやめようって事かしら?」
「おお、言いたいことをまとめてくれてありがとうなジュディ」
それを聞いたチームのメンバーどころか、ライゾンまでしばらく驚いた顔をしていたが、しばらくして、チームメンバーは全員ため息をつく。最後まで調子の変わらない秋彦を見て、言いたいことや、世界を滅茶苦茶にしたことに対する怒りなども、落ち着いてしまったらしい。
「はぁ……分かったよ。僕はとりあえず秋彦がそこまで言うならもういいや……いろいろ言いたいことあった気もしたけど吹っ飛んじゃったよ……」
「……右に同じ。毒気を抜かれた気さえする。とりあえず何とかなる目途も立ったし」
すっかり気が抜けた後衛の優太と茜。諦めがついたのかすっかり気が抜けたようだ。
「私も、とりあえずこの場は秋彦の顔を立てることにするわ。確かに全容が明らかになっていないのに個人的な感情で私刑を行うのは良くないわよね。現代人として」
「あ、そ、そーだそーだ!」
「ん、すまねぇ皆」
混乱していたのか、とってつけたかのようにジュディに賛同する桃子。そうして、とりあえず全員がこの場を収めるという結論を出した。
そしてそれを非常に驚いた様子でライゾンは見ていたが、すっと真剣な表情をする。
「ふむ、てっきり己の力量を考慮せずこちらを攻撃すると思っていたのだが……ふむ、君らが私の話を聞く姿勢をとったことに敬意を表して少しだけこちらの事を教えておこうか」
ライゾンはそういうと、ふわりと宙に浮いた。
「我らは人類の生存が目的。人類の繁栄が目的。我らは未来の脅威に立ち上がりし集団。人類救済組織【ノアズ・アーク】である」
浮いたと思ったら、突然演劇でも始まったかのような振り付けと音量でしゃべり出した。
だが、人類救済組織とはまた仰々しく出たものだ。言っていて恥ずかしくないのだろうか。そしてならばちょっと聞いておきたいことがある。
「お前らその活動の初手で設置したダンジョンのせいで、大量に死者が出た訳なんだが、そこんところはどう思ってんだよ?」
「うむ、その活動の初めとなった出来事にて多くの犠牲者が出たのは事実。だが、未来の脅威に備えての行いと、我らは真摯に受け止め、されど止まることなく先に進むつもりだ」
「……貴方達の行いで、結果現代社会に大きなダメージが入ったのに?」
「我らは立ち止まるわけにはいかんのだ。未来の脅威に備えるために人々を強くせねばならないのだから。未来の脅威が顕現したら、どの道現代社会は転覆するのだから!」
……要はこいつら、遅かれ早かれ現代社会はぶっ壊れるから、先にちょっと壊して人々に免疫つけさせようって魂胆でこんなことをしたと言う事か?
「それだけではない。現代に生きる人々に魔法を伝える必要もあったのだ」
「あ? そりゃどういうこった?」
「……これ以上は言えない。少々喋りすぎた」
そういうとライゾンは再びフードを目深にかぶった。
「しかしまあ我々は本当に人々の生存が目的なんだ。これからも様々な手段で探索者と呼ばれる存在をバックアップしていくつもりだ。例えばダンジョンから出てくる素材などの買値とかね」
「あら? それはどうやって?」
「こうご期待、とだけ言っておくよ。しかし、正直この場で勝負を挑まれるとばかり思っていたよ。よし、君たちの人の話を聞く姿勢に、もう少し敬意を表しておくとしよう」
そういうと、ライゾンはダチョウの卵並みの大きさの卵を五つ出してきた。
「これは魔物の卵だ。【モンスターテイマー】のスキルを取得すればこの卵から生まれる魔物は君たちの忠実な魔物に、使い魔になる。一人ひとつずつあげよう。受け取り給え」
ライゾンはそのまま卵を宙に浮かせ、五人の前に置く。
「モンスターテイマーを取得し、その上で大事に温めるのだ。きっとかけがえのないパートナーになるだろう。次は中級の攻略が一区切りついたらまた会おう」
そういってライゾンは宙に浮いたまま、帰還石特有の青い光を放ち、消えていった。
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